軽井沢からの通信ときどき3D

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ナガサキアゲハとトランプ大統領(1/5)

2017-07-14 00:00:00 | 日記
感のいい読者は、今回のタイトルを見てハハーンと頷いておられるかもしれない。

 ナガサキアゲハは大型のアゲハチョウの仲間で、南方系の種として知られる。私が子供のころには九州・四国方面に行かなければ見られない蝶だと思っていた。

 2013年から2015年にかけての2年間、都合で鎌倉に住むことになったのだが、その時ご近所の庭に植えられたミカンの木にこのナガサキアゲハが産卵に来ているのを時々見かけて、その北上ぶりに驚いた。

 このご近所の家の奥様に、庭のミカンの木にいるナガサキアゲハの幼虫を譲っていただけないかと持ちかけ、つまんで捨てられそうになっているところを、首尾よく入手することができた。

 自宅庭に植えたウンシュウミカンの木に、いただいた幼虫を移し育てて、最終的には蛹になるまでを見届けた。大型の蝶にふさわしく幼虫も蛹も他のアゲハ類に比べ一回り大きいものであった。


ナガサキアゲハの終齢幼虫(2014年10月4日 撮影)


ナガサキアゲハ(ウィキペディア 2014年8月20日 (水) 07:01 UTC より)

 さて、今回はいつもとは違って、この幼虫の生態について書くのが目的ではない。ナガサキアゲハは、地球温暖化の指標としてしばしば取り上げられている生物種ということで、話題にしてみたい。

 私も経験したように、ナガサキアゲハの分布はこの数十年の間に、九州・四国地方から関東地方北部にまで拡大し、更に2009年には福島県で幼虫が、宮城県では成虫が確認されている(ウィキペディアより)。

 この北上現象と地球温暖化との関係についてのレポートを探したところ、山梨県環境科学研究所動物生態学研究室の北原正彦主幹研究員の「チョウの分布域北上現象と温暖化の関係」が見つかった。

 このレポートには次のような図と表が示されているが、上記の私の経験とも合致している。



ナガサキアゲハの分布域北上の様子(地球環境研究センターニュースVol.17 No.9 2006年12月号より引用)



ナガサキアゲハの分布初認時及びそれ以降における各地の年間平均気温(単位:℃、地球環境研究センターニュースVol.17 No.9 2006年12月号より引用)

 この図・表に関して著者は、「気候の温暖化により各地の気温が上昇するに連れて、本種の分布域が北に拡大したことが判明した。さらにこの解析からは、分布北限地での年平均気温と最寒月平均気温の平均値も算出され、各々15.46℃と4.51℃であることが分かった。」としている。

 生物種の生息域の拡大は、必ずしも温暖化が直接の原因とは限らない。ナガサキアゲハの北上に関しても、主な食樹であるウンシュウミカン栽培地の北上と関連しているとの説もあるし、このレポートで取り上げている、生物種自体の適応説も見られる。

 このことに関しては、本レポートに次のような記述があって、ナガサキアゲハの場合、温暖化が直接の原因であると(ほぼ)結論づけられている。

 「実はこの解析だけでは、ナガサキアゲハの分布域北上現象は、気候の温暖化が主因であることを証明したことにはならない。なぜならばチョウの分布北上は、気候の温暖化を介さずともチョウ自ら耐寒性を増大させたり休眠期間を長くさせるなどの適応を通じても、成し遂げることが可能だからである。しかしナガサキアゲハについては、どうもこのような生活史特性の変化を通じて分布域が北に拡大したのではないらしいことが、大阪府立大学の吉尾政信氏らのグループの研究で分かった。・・・(中略)・・・こうしてナガサキアゲハの分布域の北方拡大は、ほぼ間違いなく気候の温暖化が主因となって引き起こされたと考えられる。」とある。

 このナガサキアゲハに限らず、我々の身の回りでは温暖化と結び付けられて報道されるいくつもの生物種に関するニュースが後を絶たない。セアカゴケグモ(1995年)、ヒトスジシマカに媒介されるデング熱(2014年)、ヒアリ(2017年)など記憶に新しい。

 こうしたニュースに接すると、猛暑で温暖化を身近に感じている身としては、改めて二酸化炭素削減に真剣に取り組まないと、将来はもっと大変なことになってしまうのではと思ってしまう。

 そうした中での次の国際ニュースである。

 2017年6月13日付の読売新聞は、その1面に『パリ協定 米除き推進』との見出しを掲げ、イタリア・ボローニアで開かれていた、G7環境相会合が共同声明を採択したことを伝えている。


2017年6月13日付の読売新聞の記事

 これは、6月1日に、トランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明したことを受けてのものであるが、今回の共同声明では、『地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した米国が独自に温暖化対策に取り組み、他の6か国はパリ協定を実行する』としている。

 また、『声明では、気候変動に関する項目で、米国以外の6か国などを列記し、「パリ協定を効果的に実行に移す」、(中略)「協定を完全に履行することが地球の安全にとってカギとなる」と、協定の意義を改めて確認した。』とも報じている。

 米トランプ政権内で離脱を主張したとされるプルイット環境保護局(EPA)長官は離脱の姿勢を強調し、独自の温暖化対策に取り組む考えを示していたとされ、このプルイット氏と個別に会談した、日本の山本環境相は、離脱について「失望した」と伝えた上で、撤回を求めたとされている。

 アメリカのトランプ大統領が先の声明を発表しパリ協定からの離脱を宣言したと報じられた時にも、山本環境大臣はこの声明に強く憤りを表明し、麻生副総理はアメリカを「その程度の国」と強く非難している様子がTVニュースで流されており、海外でもドイツ・フランスをはじめ多くの国々がアメリカを非難すると共に、自国はそれに関わらず温暖化ガスの排出規制を遵守していく姿勢を示していた。

 今回は、こうした各国の考え方がそのまま反映された形での、共同声明の発表になった。

 トランプ大統領の離脱宣言時のニュースを振り返り、その理由をみてみると次のようであった。

 『トランプ大統領は大統領選挙期間中から、オバマ前政権が議会の承認を得ずに行政権限で進めてきたパリ協定を批判してきた。大統領は人為的な気候変動の可能性は否定しないものの、温暖化対策による米国の産業競争力への影響を問題視しており、今回の決定は選挙戦の公約を実現するものといえる。

 大統領は、パリ協定により米国は温暖化対策で巨額の支出を迫られる一方で、雇用喪失、工場閉鎖、産業界や一般家庭に高額なエネルギーコストの負担を強いるとし、また、2025年までに製造業部門で44万人、全体で270万人の雇用が失われ、2040年までにGDPで3兆ドルが失われると述べた。

 大統領が演説で引用したこうした数字は、民間のシンクタンク米国経済研究協会(NERA)が3月に発表したもので、引用された数値は報告書どおりだが、エール大学のケネス・ギリンガム教授は米紙で、「NERAの報告書で示された数値はさまざまな仮定の下に算出されたもので、割り引いて解釈すべきだ。特に、クリーンエネルギー部門の成長など温室効果ガス削減のプラスの側面を配慮しておらず、トランプ大統領は報告書の都合のいいところだけ取り上げている」と論評している。

 また、トランプ大統領は6月1日の演説で、オバマ前政権がコミットした国連緑の気候基金(GCF)への拠出が、米国の巨額な負担となっていると批判した。』(2017年06月05日 ジェトロ・通商弘報、https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/06/cf2aea16377ec778.html)

 ところで、この人間活動による化石燃料の大量消費によってもたらされる、地球温暖化問題は1988年5月に米国議会の公聴会で、NASAの地球学者ジェームズ・ハンセン博士により初めて指摘されてから、今日まで長い時間をかけてコンセンサスを形成してきている。

 いまや、その対策である二酸化炭素の排出削減に代表される、「エコ」は我々の生活に深く浸透し、日々の生活もこの「エコ」を意識するしないに関わらず、自然な生活スタイルになっている。

 ゴミを分別し、リサイクルに回せるものは回し、燃焼し二酸化炭素排出量増につながるゴミの量をできるだけ減らし、LED電球に切り替えたり、冷暖房の設定温度を調節したりして節電に努め、エコカーに乗る。時には車を捨てて自転車に乗ったり、歩いたりという具合である。

 アメリカのゴア元副大統領は自ら、この二酸化炭素の人為的排出が地球の温暖化につながり、将来危機的な状況が起きることを訴えるために、映画と書籍「不都合な真実」(書籍:アル・ゴア著 2007年1月5日 株式会社ランダムハウス講談社発行)を作成して、世界に向けて発表した。

 その功績が認められ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル、Intergovernmental Panel on Climate Change)と共に2007年、ノーベル平和賞を受賞した。


アル・ゴア著 「不都合な真実」の表紙

 この共同受賞したIPCCは1988年11月に、国際連合環境計画と国際連合の専門機関にあたる世界気象機関が共同で設立したが、こちらは英国の科学者の国連への働きかけによるものであった。

 こうした地球温暖化と二酸化炭素の関係を言い出した当のアメリカであるが、その後の動きは積極的とはいえない。1997年12月に京都で開催された、気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3京都会議)で合意された温暖化防止の為の排出ガス規制に関する国際協定(京都議定書)を国内批准せず、2001年3月には当時のブッシュ大統領が離脱宣言をしている。

 更に、2015年に開催されたCOP21で採択されたパリ協定に対し、昨年2016年9月に当時のオバマ大統領が、中華人民共和国の習近平主席と共に批准を表明したが、今回1年も経たないうちに新大統領に就任したトランプ氏が態度を翻したのである(但し、米国においては州レベルでは様々な取り組みが行われている)。

 トランプ大統領は、その選挙中の公約にパリ協定からの離脱を掲げていたという。大統領に就任してから、支持率の低迷に苦しんで、公約を実施することで支持率の減少に歯止めをかけようとしたとの見方もある。

 しかし、本当にそれだけなのであろうか。トランプ大統領の演説の中には、二酸化炭素による地球温暖化議論はデッチアゲだとのなかなか激しい言葉が含まれている。

 世界の2500人もの学者・研究者が参加し作り上げたというIPCCの第5次報告書(日本国内では2014年12月版が環境省から、その概要が発表されている)が、「1951年~2010年の間の地球平均温度の上昇のうち、半分以上が温室効果ガスなどの人為的要因によるものである可能性は極めて高い(>95%)。」と表明しているにもかかわらずである。
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