軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

庭にきた蝶(6) カラスシジミ

2017-03-17 00:00:00 | 
 今回紹介するのはカラスシジミ。前翅長は17mmほどの小型の蝶である。昨年の夏、夕方少し暗くなりかけた頃、庭のブッドレアに吸蜜に訪れているのに気がついた。

 終始、翅を閉じて花に止まっていたこともあり、見る角度の関係で最初はセセリチョウの仲間が来ているのかと思ったが、よく見るとどうも翅裏の紋様がゼフィルスのようでもある。しばらく撮影を続けたが、翅表を見せてくれず、種類がわからないので、捕獲することにして網を取りに一旦家に戻ることにした。

 戻ってきてもまだそのままの状態で蜜を吸い続けていたので、簡単に捕えることができた。小さなプラスチック容器にブッドレアの切り花と共に入れて、明日になったら詳しく見ようと思いそのままにしておいたのだが、これがまずかったようで翌朝見ると死んでしまっていた。

 何ともかわいそうな事をしてしまったのだが仕方がなく、妻に頼んで展翅をしてもらい、翅表を確認した結果カラスシジミであると判明した。私には初めて見る蝶であったし、義父のコレクションにも無かったので、標本箱に新たな仲間が加わることになった。

 このカラスシジミについては、故鳩山邦夫さんが次のように書き残されているので、この辺りではそれほど珍しくない種なのかと思う。

 「・・・このほか別荘地内に住んでいたと思われるやや骨っぽいチョウは、ウラキンシジミ、ダイセンシジミ、カラスシジミ、それにミスジチョウで、すべて少年時代、ときたま庭で採集できた。・・・」(「チョウを飼う日々」 鳩山邦夫著 1996年4月15日 講談社発行)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ1/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ2/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ3/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ4/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ5/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ6/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ7/8(2016.7.17 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するカラスシジミ8/8(2016.7.17 撮影)

 展翅して標本箱に収まったカラスシジミの写真は次のとおりで、よく似た種にミヤマカラスシジミ、ベニモンカラスシジミ、リンゴシジミがいるが、翅表の色彩が黒褐色、翅裏の色彩が茶褐色であること、後翅・裏の白線の色と位置、形状がM字状であること、亜外縁の黒点列が弦月形をしていることなどから種の同定は容易にできた。また、雌雄の判別については、尾状突起がとても短いという特徴から♂と判定した。♂には前翅・表の中室端に灰色の性標があるとされているが、今回の個体は傷みがあることもあって、確認できなかった。


展翅したカラスシジミ♂(翅表;2017.2.22 撮影)


展翅したカラスシジミ♂(翅裏;2017.2.22 撮影)

 軽井沢周辺でのカラスシジミの目撃情報は「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著 2014年4月30日 信州昆虫資料館 初版第一刷発行)によると6月26日から8月16日月となっている。また、写真集「軽井沢の蝶」( 栗岩竜雄著 2015年8月8日 ほおずき書籍 第1刷発行)では初見 7月4日、終見 8月15日とある。我が家のブッドレアに訪れた7月17日はその最盛期ということになろうか。展翅したカラスシジミの翅の様子から見ると、発生後かなりの時間が経っているようで、傷み方もずいぶん激しい。

 カラスシジミの幼虫の食樹はハルニレ、コブニレなどのニレ科の樹で年1回の発生、卵で越冬するとされている。ハルニレはこの辺りには比較的多く、中軽井沢にできた「ハルニレテラス」と名付けられているレストラン街・ショッピング街にはいつも多くの観光客が集まる。

 ただ、そのハルニレテラス近くには「野鳥の森」というバードウォッチングで有名な場所があり、ムササビを見ることもできる。この周辺は野鳥の多いことでも有名な場所であることを考えると、蝶の幼虫にとってはとても危険で生き延びるのが難しい環境ということにもなる。

 さて、今回このカラスシジミ、ブッドレアで吸蜜中はずっと翅をとじており、翅裏の様子からゼフィルスの仲間かとも思ったのであったが、実は日本に25種いるとされている、ゼフィルスの仲間には入っていない。

 翅裏の比較のためにゼフィルスの代表格であるミドリシジミの標本を、我が家にある義父のコレクションから選び撮影した。


ミドリシジミ(左:♂1973.7.29 田沢湖産、右:♀1975.8.24 赤城産 2017.2.22 撮影)


カラスシジミ(上)とミドリシジミ(下:♀1975.8.22 赤城産)の翅裏の比較(2017.2.22 撮影)

 カラスシジミの翅裏の紋様などはやはりミドリシジミに似ている。ゼフィルスの仲間の多くは「・・・ミドリシジミ」と命名されていて、♂の翅表は緑から青に輝く構造色(2017.2.3 付当ブログ参照)が美しいという特徴があるのだが、中には名前に「ミドリ」の入らない種も多くいるし、♂の翅表の色も構造色がなく、「アカシジミ」のように色が橙色のものから「クロミドリシジミ」のように黒褐色のものまでいる。

 では、ゼフィルスの特徴は何だろうかと思い調べて見ると、樹上性であり枝先などで縄張りを張る性質があって、同種のチョウの♂が進入してくると追いかけて縄張りから排除する習性を持っていること、食樹がブナ科であり、卵越冬し年1回発生することなどが挙げられているが、例外もありこれだけでは定義されない。

 もともとゼフィルスという名は分類がまだ現在のようにきちんと行われていない時代につけられたものと言われていて、あいまいな部分もあるようだ。最近の厳密な定義となると、翅脈の状態から行われているとのことだが、余りに専門的になるようなのでここでは割愛する。いずれにしても、よく似てはいるものの厳密な分類でカラスシジミはゼフィルスには入らないということである。

 カラスシジミの翅色は黒褐色であるが、同じ「カラス」が名前についた「カラスアゲハ」や「ミヤマカラスアゲハ」がとても美しい構造色を持っていることからすれば、カラスという名の由来は「カラスの濡れ羽色ではなく、黒い色からの連想」ということになるようだ。

 今後は見間違えることも無いだろうから、ゆっくりと心ゆくまでブッドレアで吸蜜してもらいたいと思っている。今年も元気な姿を見せてもらいたいものである。



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