軽井沢からの通信ときどき3D

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虚々実々

2022-04-29 00:00:00 | 日記
 20世紀は戦争の世紀とも言われているように、我々の祖父母や両親の世代は大戦を経験したが、我々戦後世代は、曲りなりにも平和を享受することができた。しかし21世紀に入りすでに20余年、世界をそして日本をも不穏な空気が包み込んでいる。

 2001年に起きた9.11アメリカ同時多発テロ事件と、それを契機に始まったアフガニスタン侵攻とこれに続くイラク戦争、日本では2011年の東日本大震災、2019年中国・武漢に始まり世界中に広まった新型コロナウイルスによるパンデミックと約10年おきに大事件が起きた。

 そして今年に入り、未だ新型コロナの終息が見えない中で起きた、ロシアによるウクライナ侵攻である。

 こうした大事件が起きると、決まってさまざまな陰謀論が流布されることになる。ウィキペディアでこれらの事件の項を調べると、そうした内容の一端を見ることができる。

 私の購読している新聞に、2021年初めころから、その前年行われたアメリカ大統領選挙にまつわる内容に始まり、続いて新型コロナに関係した特集記事が掲載され、その後もシリーズ化されて現在まで続いている。「虚実のはざま」という記事である。関心を持って読んできたが、一部オンラインで公開された記事を加え、これまで掲載された内容を、見出しで振り返ってみてみようと思う。

読売新聞の記事「虚実のはざま」(2021.9.15 発行)の見出し部

 第1部ととして掲載された記事について、私が調べた範囲では2021年1月24日と25日に掲載された2つの記事を確認したが、その後いくつかの記事を間に挟みながら、第2部へとつながり、シリーズ化されている。

 掲載が始まって約1年後、この記事は賞を受けた。2022年3月24日付けの次の記事がこのことを報じた。
 
 「読売新聞大阪本社の連載『虚実のはざま』、坂田記念ジャーナリズム賞の『スクープ・企画』部門に」
 「関西を拠点にした優れた報道活動を顕彰する『第29回坂田記念ジャーナリズム賞』の選考結果が24日、発表され、第1部門(スクープ・企画)に、読売新聞大阪本社の企画連載『虚実のはざま』(代表=中沢直紀・社会部次長)が選ばれた。」

 「読売新聞大阪本社の企画連載『虚実のはざま』連載は、ネット空間にあふれる真偽不明の情報が、社会に混乱や不信を招いている実態に迫った。デマの発信者や陰謀論を信じる人たちなど当事者への直接取材を重ね、問題提起した。
 選考委員会は『IT化した社会の闇の側面をあぶり出す秀逸な企画である。社会としての取り組みが問われていることを鋭く指摘し、関心の喚起を試みている』と評価した。」

 さて、これまでに掲載された「虚実のはざま」の記事内容をみると、次のようであり、2020年末に行われたアメリカ大統領選挙で、大規模な選挙不正が行われたという情報に関した内容に始まり、新型コロナをめぐる話題へと移っていった。

************【第1部】************
・2021/01/24:[虚実のはざま]第1部・海越える拡散 1⃣ 怪情報 怒りで伝染
 米国発 瞬く間 真偽二の次「みんな言ってる」
・2021/01/25:[虚実のはざま]第1部・海越える拡散 2⃣ 閲覧数、デマで荒稼ぎ

*****************************
・2021/03/07:米大統領選のデマ発信サイトに大手企業の広告…銀行や車など10社
・2021/03/13:陰謀論、家族引き裂く…SNSで傾倒 言動激化

 ************【第2部】************
・2021/04/04:「感染を責められ自殺」、列島各地で同じデマ…
 [虚実のはざま]第2部 作られる「真相」<1>
・2021/04/05:匿名の悪意がママ襲う、「感染源」扱いで非難1日数百件…
 [虚実のはざま]第2部 作られる「真相」<2>
・2021/04/07:陰謀論で再生急増、「金稼げる」くら替え相次ぐ…
 [虚実のはざま]第2部 作られる「真相」<3>
・2021/04/08:加藤官房長官がフェイクの笑み、AIで悪意の改変…
 [虚実のはざま]第2部 作られる「真相」<4>
・2021/04/13:デマうのみで重い代償、軽率な投稿が混乱招く…
 [虚実のはざま]第2部 作られる「真相」<5>

*****************************
・2021/06/13:ワクチンで「黒幕が人類管理」「人口削減が狙い」…
 はびこる陰謀論、収束の妨げにも

************【第3部】************
・2021/06/13:架空の顔で「お客様の声」「大満足」AIで生成、90サイトで宣伝に悪用…
 [虚実のはざま]第3部 粉飾のカラクリ<1>
・2021/06/15:「だましても売る」、ウソの体験談「アフィリエイト」で続々…
 [虚実のはざま]第3部 粉飾のカラクリ<2>
・2021/06/16:買われた「ランキング1位」、「選べない」消費者心理突く…
 [虚実のはざま]第3部 粉飾のカラクリ<3>
・2021/06/17:日本人が投稿するようになった「やらせレビュー」…
 [虚実のはざま]第3部 粉飾のカラクリ<4>
・2021/06/20:第三者のウソに規制なし、「感想」「宣伝」線引きあいまい…
 [虚実のはざま]第3部 粉飾のカラクリ<5>

*****************************
・2021/06/21:「コロナは存在しない」荒唐無稽な主張するグループも…
 誤った情報、大量に出回る
・2021/06/21:「殺人ワクチン」「世界に大革命」大阪の学習塾運営会社
 不安あおるミニコミ紙を大量配布
・2021/07/14:「不妊リスク」「遺伝子組み換え」ワクチン誤情報拡散…
 医師ら発信源のケースも
・2021/08/19:「☆五つを投稿するとギフト券」商品評価でやらせの誘い横行...
 アマゾン対応追いつかず
・2021/08/22:病院の口コミ、改ざん業者が高評価に書き換え...
 「評価3.5以下なら大変」と営業攻勢

************【第4部】************
・2021/09/09:「コロナは茶番」700人デモ、「普通の人」が先鋭化…
 [虚実のはざま]第4部 深まる断絶<1>
・2021/09/10:「コロナは富裕層の仕業」投稿に引き寄せられた居酒屋店主…
 [虚実のはざま]第4部 深まる断絶<2>
・2021/09/12:「医師の発言」で接種不安拡散、有料サロンで誤情報…
 [虚実のはざま]第4部 深まる断絶<3>
・2021/09/14:温厚だった妻、陰謀論の動画にはまり「まるで別人に」…
 [虚実のはざま]第4部 深まる断絶<4>
・2021/09/15:真偽不明の情報・陰謀論の拡散、どう対処?専門家に聞く…
 [虚実のはざま]第4部 深まる断絶<5>

*****************************
・2021/09/21:「PCRは風邪も検出」「5Gがコロナ広めている」…
 生活・メディアに不満強いと偽情報信じやすく
・2021/09/26:「ワクチン打つと体から毒出る」陰謀論へ傾倒、妻は家を出た…
 [虚実のはざま]反響編<上>
・2021/09/27:「接種後」の死者数が独り歩き、専門家「数字に惑わされないで」…  
 [虚実のはざま]反響編<下>
・2021/11/21:誤情報を「動かぬ証拠」と錯覚、高度化するSNSデマ…
 公式文書を抜粋・曲解も
 
************【第5部】************
・2021/12/15:流産きっかけに「本当の原因」検索開始、デマの泥沼へ…
 [虚実のはざま]第5部 「解」を探る<1>
・2021/12/16:発信源不明の「サイト」、正確さより負の感情あおる情報…
 [虚実のはざま]第5部 「解」を探る<2>
・2021/12/17:打ち寄せる同じ主張、妄信生んだ情報の「偏食」…
 [虚実のはざま]第5部 「解」を探る<3>
・2021/12/21:デマ火消し遅れて拡散、「打ち消しはスピード競争」…
 [虚実のはざま]第5部 「解」を探る<4>
・2021/12/23:リテラシー教育進まず、子供に誤情報の「免疫」必要…
 [虚実のはざま]第5部 「解」を探る<5>

************【第6部】************
・2022/03/16:情報過剰は新たな脅威… [虚実のはざま]第6部 私の提言<1>
 東京工業大准教授 西田 亮介氏
・2022/03/17:「刺激の競争」歯止めを…[虚実のはざま]第6部 私の提言<2>
 慶応大教授 山本 龍彦氏
・2022/03/26:不安の膨張、判断ゆがむ…[虚実のはざま]第6部 私の提言<3>
 筑波大教授 原田 隆之氏
・2022/04/01:科学不信の背景を探る必要… [虚実のはざま]第6部 私の提言<4>
 東京大学特任准教授 内田 麻理香氏
・2022/04/02:陰謀論、特性を知り対処…[虚実のはざま]第6部 私の提言<5>
 宗教学者 辻 隆太朗氏
・2022/04/03:リテラシー教育が急務… [虚実のはざま]第6部 私の提言<6>
 法政大教授 坂本 旬氏
・2022/04/04:対面の議論分断を防ぐ… [虚実のはざま]第6部 私の提言<7>
 京都府立大准教授 秦 正樹氏
・2022/04/05:「情報健康学」の確立必用...「虚実のはざま」第6部 私の提言<8>
 東京大教授 鳥海 不二夫氏
・2022/04/06:あいまいさに耐える力を...「虚実のはざま」第6部 私の提言<9>
 京都大教授 佐藤 氏
・2022/04/06:感想と宣伝、法的な線引きを...「虚実のはざま」第6部 私の提言<10>
 弁護士 池本 誠司氏
・2022/04/07:外国からの世論工作、備え急げ...「虚実のはざま」第6部 私の提言<11>
 日本大教授 小谷 賢氏

*****************************

 このように、個々の記事の詳細は割愛するが、見出しからも推察できるように、これまで掲載された内容の多くは新型コロナを巡る話題であり、新型コロナウイルスの起源やPCR検査、マスクの有効性、ワクチンの有効性と安全性といった情報に関する単純なデマやフェイクニュース、陰謀論と、こうしたネット上の真偽が不明確な情報が社会や家庭に及ぼした影響が取り上げられ、ネット社会で拡散されている情報に厳しい目が向けられた。

 「現代は陰謀に満ちている」とはある方の言葉であるが、たしかにそう感じることもしばしばである。

 過去を振り返ると、その時代の権力者が発信する内容を一般国民は信じるしかない状況に置かれていたのであるが、科学者などは新たな発見をもとに通説とは異なる見解を発表することもある。しかし、その新たな説は時には権力者との衝突を生み、不幸な結果を招くことがある。

 よく知られた例では、地動説を唱えたことがとがめられ、異端として生きながら火刑に処されたジョルダーノ・ブルーノの例もあるし、ガリレオ・ガリレイもまた異端審問で終身刑を言い渡されるといった苦しみを受けた。1633年の事である(2020.3.6 公開当ブログ参照)。

 ガリレオの名誉をローマ法王庁が正式に回復したのは、1983年5月9日になってからで、この時ヨハネ・パウロ二世が、宗教裁判の誤りを公式に認め、謝罪した。その後1992年にはガリレオを異端とする裁判は取り消された。


ジョルダーノ・ブルーノ(1548ー1600、作画:妻)


ガリレオ・ガリレイ(1564ー1642、作画:妻)

 さて、この新聞の特集記事が批判的に見ているSNS上の情報であるが、当然ながら幅広い内容があり、ひとくくりにデマやフェイクニュースそして陰謀論として片づけられていいわけではもちろん、ない。

 逆に、ネット情報の中には、大手マスメディアを批判したものや、大手マスメディアでは取り上げられない内容ということを、うたい文句にするものが見られるので、話はややこしくなる。

  また、こうした偽情報をめぐり、2020年の米国大統領選では、現職大統領のツイッター・アカウントなどが停止されるという、異常事態も起きた。

 今回の「虚実のはざま」は、大手メディアが試みた、ネット情報への反撃と言えなくもない。

 本来は、私たちが対価を払って視聴・購読しているメディアは、その信頼に応えて、偏りのない正しい情報をスピーディーに届けることが重要な責務のはずであるが、現在その信頼は失われつつあり、私と同年代の友人の中には、マスメディアには裏切られたとの思いを持っている人もみられ、こうしたネット情報が出現する隙を与えていて、特に若い世代には新聞の定期購読をしない傾向にあるという事態が、「虚実のはざま」が指摘する諸現象を生み出す一因であることも考えなければならないはずであるが。

 今起きている、ウクライナ危機では、一方の当事国のロシア国内で情報統制が行われて、国民は正しい情報を知らされていないと言われている。それを反映してプーチン大統領の直近の支持率は
80%以上の高い水準にある。

 一方、国営放送以外の情報や、西側からもたらされるSNS情報にアクセスできる若者世代などは、プーチン全体主義政権の今回の行動に批判的になっているということで、民主主義国家の一員である我々がおかれている状況とは裏返しになったようでもあり、複雑な状態にある。

 ロシアが行っている戦争はハイブリッド戦争と呼ばれている。2014年のクリミア危機において、ロシア軍は物理的戦闘の他に、ウクライナの通信網を遮断するために、部隊を侵攻させてケーブルを破損し、IXP(国家間のインターネット交換ポイント)を占拠し、ウクライナ国会議員の携帯電話を使用不能にする、ウクライナ政府のサイトをダウンさせるなどの活動を行なう他、フェイクニュースを流す、SNSを用いた世論操作などが行われたとされる。

 今回の戦争においても当然同様のことが行われているはずであるが、今回は様相が異なっているようにみえる。バイデン米大統領は、早い段階から機密情報を開示してきたし、ゼレンスキー大統領もそれを上回る勢いでSNSを利用した情報戦を行うと共に、直接西側諸国にもメッセージを届けている。そして、国連においても多くの支持と共感を取り付けることに成功している。

 我々一般庶民はこうした各国政府、マスメディア、SNSの虚々実々の情報洪水・情報戦の中にあって、何を信じどのように行動すべきかが問われることになる。そのためにも、マスメディアには本来の役割を取り戻して、信頼を回復してもらいたいと願うと共に、我々自身がいつ誰がどのような情報をもたらしたのか、また、もたらさなかったのかを忘れないでいることが大切だと思うのである。

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