ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

柳津ダム

2024-05-13 08:00:00 | 福島県
2016年5月28日 柳津ダム
2024年4月14日
 
柳津ダムは左岸が福島県河沼郡柳津町飯谷、右岸が同町柳津の一級河川阿賀野川水系只見川にある東北電力(株)が管理する発電目的の重力式コンクリートダムです。
包蔵水力豊富な阿賀野川水系では大正以降電源開発が本格化しますが、その多くは首都圏への送電を目的としていました。
電気事業再編成令により1951年(昭和26年)に日本発送電が分割され新たに9電力会社が誕生しました。
その際、発電施設の継承や利権利権配分については『発生電力はどの地域に供給されるか?』という潮流主義に依り、首都圏への送電線網が過半の阿賀野川や只見川の発電施設は東京電力が継承するはずでした。
しかし東北電力会長に就任した白洲次郎はその政治的影響力を駆使してこれを覆し、発電量の約半分を首都圏に送電することを条件に阿賀野川流域の発電施設の継承及び新規水利権の獲得に成功しました。
おりしも朝鮮戦争特需による電力需要ひっ迫を受け、東北電力は設立初年より只見川に4基のダム式発電所の建設を進め、片門ダムとともに1953年(昭和28年)に完成したのが柳津ダムです。
ダムの完成により柳津発電所で最大5万キロワット(のちに7万5000キロワットに増強)のダム式発電が開始されました。
阿賀野川および只見川は東北電力管内の包蔵水力の過半を占め、白洲の尽力がなければ戦後の東北の発展はなかったと言っても過言ではありません。

2023年(令和5年)に柳津ダム・発電所を含めた東北電力および電源開発の発電施設は、豪雪地帯の水資源と地形を巧みに利用したダム・電源開発等の河川史や地域資産として高く評価され、『只見川ダム施設群』として土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
柳津ダムには2016年(平成28年)5月に初訪、2024年(令和6年)4月に再訪しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

下流高台の野老沢集会所から。
(2016年5月28日)

 
ダム左岸下流から
発電所はダムの左岸側にあり、同時に建設された片門ダムとは左右対称ですが、ゲート数やピアの形状などは瓜二つ。
(2024年4月14日)  


再訪時は融雪期で水量が多く3番ゲートから放流中。
(2024年4月14日)  

 
右岸高台から
ダムの手前に分割式予備ゲートが置かれ、ダムの右岸には予備ゲート運搬用のクレーンが設置されています。
(2016年5月28日)


右岸から下流面
対岸が柳津発電所。
(2024年4月14日)  

 
減勢工には鋸歯上のブロックが並びます。
(2016年5月28日)

 
右岸には白洲の石碑が建ちます。
碑文には片門ダムと同じく
『この発電所の完成は 地元の人々の理解ある 協力と東北電力従業員
不抜の努力なくしては 不可能であった その感激と感謝の 記録にこれを書く
                                白洲次郎』
と刻されています。
(2024年4月14日)  

 
同じく右岸に建つ選奨土木遺産のプレート。
(2024年4月14日)  

 
天端は地元の生活道路として開放され、6トン車まで通行可能。
片門ダムの天端は軽車両のみ通行可でしたが、こちらは普通自動車や小型トラックも通れます。
(2016年5月28日)

 
水利使用標識。
(2024年4月14日)  
 
天端から下流を見ると
ちょうど川が蛇行する手前にダム・発電所が建設され、放流水は正面の断崖にぶつかる形となります。
1枚目の写真は左奥の杉林の切れ目から撮りました。
(2024年4月14日)  


総貯水容量2430万9000立米、有効貯水容量は586万4000立米
かなり堆砂が進んでいますが、発電ダムの性格上取水できれば堆砂は問題ないという考え方なんでしょう。
(2024年4月14日)  


浮桟橋の係留された作業船
東北電力只見川5ダムはすべて同型の作業船です。
(2024年4月14日)  

 
左岸から下流面
手前が発電所と取水ゲート、奥が洪水吐ゲート
片門ダムと同じくコンクリート製ピアに鉄骨トラスが内包されています。
(2024年4月14日)  


左岸にあるコンクリートの遺構
バッチャープラント跡か?
(2024年4月14日)  

 
上流から
洪水吐ゲート5門、取水ゲート6門は片門ダムと全く同じ。
(2016年5月28日)

 
(追記)
柳津ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。
 
0486 柳津ダム(0415)
左岸 福島県河沼郡柳津町飯谷
右岸        同町柳津
阿賀野川水系只見川
34メートル
216.7メートル
24309千㎥/5864千㎥
東北電力(株)
1953年
◎治水協定が締結されたダム