ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

広田堰

2024-05-03 08:00:00 | 千葉県
2017年1月28日 広田堰
2024年3月31日
 
広田堰は千葉県南房総市海老敷の平久里川水系海老敷川にある灌漑目的のアースフィルダムです。
房総半島南端の館山市や南房総市周辺では大正期より灌漑設備の整備や新田開発に合わせて溜池築造機運が高まります。
広田堰もそうした溜池群の一つで、ダム便覧には1928年(昭和3年)に三芳村国府第一土地改良区の事業により竣工と記されており、県の補助を受けた耕地整理組合の事業で建設されたと思われます。
現在は耕地整理組合を引き継いだ南房総市国府土地改良区が管理し、約120ヘクタールの農地に灌漑用水を供給しています。

ダム便覧では広田堰は立坑と隧道を組み合わせた珍しい『垂直落下式余水吐隧道』を備えていると記されていますが、天端や余水吐のある右岸側は立入禁止のためその全容は明らかではありません。
広田堰には2017年(平成29年)1月に訪問しましたが、その際も左岸からの見学にとどまりました。
2024年(令和6年)の再訪時は安房中央ダム見学の際に知己を得た安房中央土地改良区の事務局長さまに取次していただき、国府土地改良区の幹部の皆さま御一同との同行での見学が叶いました。
掲載写真はすべて再訪時のものとなります。
 
南房総市海老敷から海老敷川沿いの隘路を約2キロ北上すると広田堰に到着します。
この道はダートの悪路で四輪駆動や軽トラ以外での進入は困難です。
左岸から
池への悪路とは裏腹に、堤体はきれいに刈りこまれいまだ重要な水源であることが伺えます。

 
天端は中ほどから立入禁止
注目の余水吐は対岸にあるため、通常は目にすることはできません。
 
堤体を下りてみます。
堤高は便覧が16.7メートル、ため池DBは20.8メートル。
左岸側(向かって右手)は林道工事の際の残土をが盛り立てられています。
 
右岸池下の底樋樋門
取水設備及び垂直落下式立坑型余水吐からの水がここから放流されます。
このまま海老敷川となり灌漑用水は下流の取水堰から取り入れられます。
 
総貯水容量は30万4000立米
房総らしく濁水です。
 
天端貯水池側には転落防止用のフェンスが設けられ、上流面はコンクリートで護岸されています。

 
右岸沿いを10メートルほど進むと注目の余水吐です。
手前に階段式の斜樋、その奥の金属ネットで覆われているのが立坑式余水吐
それに続く隧道も余水吐隧道となります。
 
余水吐をズームアップ
図面や工事史などがないため詳細は不明ですが、当初は立坑式余水吐のみだったのが塵芥の落下や放流量増大のためにのちに余水吐隧道が追加されたと思われます。
 
 
取水設備も当初は木栓を差し込むタイプだったものが、改修で階段式斜樋になりました。

余水吐側から
立坑には安全に配慮し転落防止の金属ネットが設けられています。
併せて余水吐に至る手前にもゲートが設けられ関係者以外立入り禁止としてなっています。

 
さらに奥から
隧道入り口部分は断面保護のため金属製の覆工が設けらています。
 
隧道下流側
上記のように余水吐隧道は後付けと思われます。
周辺は掘削が容易な泥岩で余水吐隧道は素掘りで掘り込まれています。
 
感度を上げたためノイズの多い写真になっています。
隧道の全長は30メートルほど、
流下した水は4枚目写真の底樋樋門の上段に流下します。

ダム便覧の記事から興味深い物件でありながら、立入り禁止のためにその全容がわからなかった余水吐ですが、管理する土地改良区のご配慮で間近に目にすることができました。
管理する南房総市国府土地改良区の皆様、および取次していただいた安房中央土地改良区の事務局長様には厚く御礼申し上げます。
 
0648 広田堰(0816)
ため池コード 122340021
千葉県南房総市海老敷
平久里川水系海老敷川
16.7メートル(ため池データベース20.8メートル)
57メートル
304千㎥/304千㎥
南房総市国府土地改良区
1928年