ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

千五沢ダム(再)

2024-05-23 08:00:00 | 福島県
2015年12月18日 千五沢ダム(元)
2023年12月31日 千五沢ダム(再)
2024年 1月 1日
      4月15日
 
千五沢ダム(再)は福島県石川郡石川町母畑の一級河川阿武隈川水系社川左支流北須川にある福島県土木部が管理する多目的のアースフィルダムです。
農林省(現農水省)による国営母畑開拓建設事業の灌漑用水源として1975年(昭和50年)に千五沢ダム(元)が竣工、管理は石川町が受託し3市1町2村への灌漑用水の供給が開始されました。
しかし当初計画4000ヘクタールの受益農地は事業竣工時には約半分の2000ヘクタールに減少しダムに540万立米もの空き容量が生じたことで、1995年(平成7年)より洪水期に限り農地防災容量が配分されました。
一方、北須川左支流今出川で計画されていた多目的ダム建設事業が利水需要の減少等で頓挫したことで、2009年(平成21年)に千五沢ダムの多目的ダム化を軸とした『千五沢ダム再開発事業』が採択され、国土交通省の補助を受けた福島県土木部による再開発事業が着手されました。

具体的には、従来のラジアルゲートを放流量の大きなラビリンス洪水吐に置換することで、最大90立米/秒のカット量を同130立米/秒に増大させ、下流の基準点で最大140立米/秒の洪水調節を図ります。
また従来の水位低下放流設備に加え新たにジェットフローゲート1条が増設されます。
再開発事業は2023年(令和5年)に完了し同年12月31日に試験湛水がサーチャージに到達しました。
2024年(令和6年)よりダムの管理は正式に福島県土木部に移管され、従来農水省所管だった農業ダムが県土木部所管の補助多目的ダムに生まれ変わるという非常に珍しい再開発となりました。
試験湛水の詳細については千五沢ダム(再)試験湛水の項をご覧ください。

千五沢ダムには再開発事業着手翌年の2015年(平成27年)12月、試験湛水実施中の2023年(令和5年)12月14日、サーチャージ到達直後の同年12月31日から2024年(令和6年)1月1日にかけて、さらに天端やダム下が開放されたたのを受け同年4月の4度訪問しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。
 
下流から
アースフィルダムとラジアルゲートという珍しい組み合わせ
初訪時は再開発事業着工からわずか1年ということで下流からの眺めに大きな変化は見られません。
(2015年12月18日)

 
ラジアルゲートをズームアップ
中央ゲートにはフラッシュボードがあります。
(2015年12月18日)

 
こちらは試験湛水終了直後の写真
ラジアルゲートは撤去され自由越流式のラビリンス洪水吐に置換。
さらに放流設備としてジェットフローゲートが新設されました。
試験湛水が完了し、水位を落とすためジェットフローゲートからの放流が始まっています。
(2024年1月1日)

 
4月の訪問時はちょうど桜が満開
やはりジェットフローゲートからの放流が行われ、導流部には転波列が見られます。
(2024年4月15日)


ズームアップ。
(2024年4月15日)


新たに開放されたダム下へ。
フィル部分は既設のままで、基部は石積みの擁壁。
(2024年4月15日)


真っ白いコンクリートが青空に映えます。
減勢工右岸側(向かって左側)の穴は仮排水路吐口で、再開発以前は不特定利水向け放流はここから行われていました。
(2024年4月15日)


今回も美しい転波列が見られます。
(2024年4月15日)


初訪時
右岸展望所から。
(2015年12月18日)

 
同じく初訪時
ゲート右岸が掘削中。
今となっては貴重な写真です。
(2015年12月18日)

 
サーチャージ到達時。
掘削箇所には新たに水位低下放流設備が新設されました。
(2023年12月31日)

 
ラビリンス洪水吐は4門
手前3門には常用洪水吐となる自然調節式オリフィスがあります。
訪問時は試験湛水のためこのオリフィスにゲートが嵌め込まれています。
一方一番右手のラビリンスのみオリフィスはダミー。
当面は暫定計画として治水安全度1/20年で運用されますが、将来的計画として下流の河川改修などにより治水安全度1/70年が実現できた暁にはこのゲートも開放される予定。
(2023年12月31日)

 
ズームアップ
写真ではわかりづらいですが薄く越流しています。
穏やかな水面とラビリンス洪水吐との断絶感が何とも言えません。
(2023年12月31日)

 
こちらは灌漑用取水塔
初訪時は水位が低く、ほぼ全容が望めます。
(2015年12月18日)


国営母畑開拓建設事業の説明版。
(2023年12月31日)

 
千五沢ダム(元)の竣工記念碑。
(2023年12月31日)

桜とともに。
(2024年4月15日)


水利使用標識
灌漑用水のほか、石川町向け上水道用水の水利権も設定されています。
ダムの目的に『上水道用水』はないので、既得水利権として不特定利水容量に含まれると思われます。
(2024年4月15日)


洪水吐を見下ろす
ジェットフローゲートからの放流がよく見えます。
(2024年4月15日)


4門並ぶラビリンス洪水吐
4月訪問時はオリフィスゲートから越流中
サーチャージの際にこのアングルで見たかったなあ!
(2024年4月15日)


ズームアップ
奥の穴がオリフィスゲート、つまり常用洪水吐となります。
(2024年4月15日)


きれいに整備されたダム下の公園。
(2024年4月15日)


天端
徒歩のみ開放。
(2024年4月15日)


上流面
こちらは再開発以前と変わらず、ロック材で護岸。
(2024年4月15日)


ラビリンス洪水吐をズームアップ。
このアングルから見ても独特の形状。
(2024年4月15日)


事業説明板
(2024年4月15日)

4月の訪問で初めてダム下や天端に足を踏み入れました。
ラビリンス洪水吐は見た目にも稀有な構造物ですし、ダム下の公園は美しく整備され、湖岸にも公園スペースが設けられました。
今後はダム愛好家のみならず、一般の観光客などにも認知度が広まることを期待します。
 
3284  千五沢ダム(再)(0119)
福島県石川郡石川町母畑
阿武隈水系北須川
FNA
43メートル
176.5メートル
13000㎥/10800㎥
福島県土木部
2023年
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0515  千五沢ダム(元)(0119) 
福島県石川郡石川町母畑
阿武隈水系北須川
FA
43メートル
176.5メートル
13000㎥/11600㎥
石川町
1975年
◎治水協定が締結されたダム


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