ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

本名ダム

2024-05-17 08:00:00 | 福島県
2016年5月28日 本名ダム
2017年6月25日
2024年4月14日
 
本名ダムは福島県大沼郡金山町本名の一級河川阿賀野川水系只見川にある東北電力(株)が管理する発電目的の発電用重力式コンクリートダムです。
包蔵水力豊富な阿賀野川水系では大正以降電源開発が本格化しますが、その多くは首都圏への送電を目的としていました。
電気事業再編成令により1951年(昭和26年)に日本発送電が分割され新たに9電力会社が誕生しました。
その際、発電施設の継承や利権利権配分については『発生電力はどの地域に供給されるか?』という潮流主義に依り、首都圏への送電線網が過半の阿賀野川や只見川の発電施設は東京電力が継承するはずでした。
しかし東北電力会長に就任した白洲次郎はその政治的影響力を駆使してこれを覆し、発電量の約半分を首都圏に送電することを条件に阿賀野川流域の発電施設の継承及び新規水利権の獲得に成功しました。
おりしも朝鮮戦争特需による電力需要ひっ迫を受け、東北電力は設立初年より只見川に4基のダム式発電所の建設を進め、上田ダムとともに1954年(昭和29年)に完成したのが本名ダムです。
ダムの完成により本名発電所で最大5万キロワット(のちに7万8000キロワットに増強)のダム式発電が開始されました。
阿賀野川および只見川は東北電力管内の包蔵水力の過半を占め、白洲の尽力がなければ戦後の東北の発展はなかったと言っても過言ではありません。

2023年(令和5年)に本名ダム・発電所を含めた東北電力および電源開発の発電施設は、豪雪地帯の水資源と地形を巧みに利用したダム・電源開発等の河川史や地域資産として高く評価され、『只見川ダム施設群』として土木学会選奨土木遺産に選定されました。
 
本名ダムには2016年(平成28年)5月、2017年(平成29年)6月、2024年(令和6年)4月と3度訪問しました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載しています。

只見川流域では2011年(平成23年)7月の新潟・福島豪雨により甚大な被害が発生、本名ダム直下にあったJR只見線の第六只見川橋梁が落橋しました。
こちらは初訪時のダム下流からの写真
ダム直下では只見川の護岸かさ上げ工事が行われていました。
(2016年5月28日)

 
一年後の写真です。
護岸工事のクレーンが消えすっきりとダムが見えます。
この翌年から只見線の復旧工事が着手されたため、下流から障害物なく本名ダムを一望できる貴重な一枚となりました。
(2017年6月25日)
 
そして2022年(令和4年)に只見線が全線復旧
ダム下には新しい橋梁が架橋されました。
本名ダムは右岸に洪水吐ローラーゲート4門、左岸に本名発電所という配置。
ゲート数は異なりますが、トラス剥き出しのピアやグリーンのゲートなど同時に建設された上田ダムとうり二つの構造です。
(2024年4月14日)

 
洪水吐ゲートは上田ダムより1門少ない4門
また上田ダムのゲートが2段ゲートなのに対しこちらは1枚ゲート
一方、鉄骨トラス剥き出しのピアや被覆された管理橋は上田ダムと共通。
(2017年6月25日)
 
3度目の訪問時は融雪期ということもあり2番ゲートから放流中
只見線の車両と一緒に撮影したかったのですが、逆光に加え列車が来るまで1時間以上あったため断念。
(2024年4月14日)

 
左岸から
手前の建屋が本名発電所で当初は最大出力5万キロワット、のちに7万8000キロワットに増強されました。
(2024年4月14日)

 
洪水吐ゲート、発電用取水ゲートすべてのピアが鉄骨トラス。
ここまでトラスで統一されると壮観。
(2024年4月14日)

 
天端親柱には『本名𣘺』の銘板と『昭和廿九年六月竣工』のプレート。
(2024年4月14日)

天端は1963年(昭和38年)に国道252号線に指定され、以来会津若松と只見、さらには魚沼を結ぶ基幹道路となってきました。
しかし2022年(令和4年)に本名バイパスの完成により国道指定が取り消されました。
2023年4月訪問時は天端は工事のため立入り禁止。
(2016年5月28日)

 
ダムサイトの選奨土木遺産のプレート。
(2024年4月14日)

 
手前に発電用取水ゲート、奥が洪水吐ゲート
配置は上田ダムと酷似していますが、ゲート数が異なり取水ゲートのスクリーンの形状も異なります。
(2024年4月14日)


取水ゲートをズームアップ
ゲートは間隔をあけて3門、さらに各ゲートごとに六角形のスクリーンが設置されこれは本名ダム独特。
(2024年4月14日)

 
こちらは洪水吐ゲート
東北電力只見川4ダム共通の予備ゲート運搬用クレーンが設置。
(2024年4月14日)

対岸(右岸)にある予備ゲート
右岸のシェッドはもともと国道252号線が通っていましたが、バイパスの完成以降通行禁止。
(2024年4月14日)
浮桟橋に係留された作業船と巡視艇
作業船は東北電力只見川5ダムすべて同型。
(2024年4月14日)
 
そして左岸上流側湖岸にはおなじみ白洲の石碑。
碑文は
『  本名発電所の 竣功に際して
遠隔の地で幾多の 不便を忍び建設 運営に邁進しつつ
ある東北電力社員の 家族に対して心からの 感謝を捧げる
                       白洲次郎』
(2024年4月14日)
 

取水ゲートをズームアップ。
(2016年5月28日)


右岸から下流面。
(2016年5月28日)

 
(追記)
本名ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

0488 本名ダム(0408)
福島県大沼郡金山町本名
阿賀野川水系只見川
51.5メートル
200メートル
25769千㎥/13472千㎥
東北電力(株)
1954年
◎治水協定が締結されたダム