新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

二進法的思考体系の国の決断に倣うべきか:

2022-09-01 08:38:05 | コラム
「アメリカの経営者は先行きの見通しが早い」のだが:

本稿は昨日取り上げた「単細胞というか、二進法的思考体系の人たちの国で何が起きていたか」の実例を挙げて示していこうという試みである。紙パルプ産業界出身の私としては、この業界での例を取り上げて示すことになる。

矢張り、ウエアーハウザーが(私の引退後の)2000年台に入ってから如何なる手を打っていたかを先ず回顧してみよう。2005年にウエアーハウザーは同業他社に先駆けて印刷(紙)媒体の行く末に素早く見切りを付けて、アメリカ最大級の上質紙(我が国では模造紙として知られている非塗工印刷用紙のことで、コピー用紙のような白い紙)事業部門の切り離しを決断して、カナダに本社を置くドムター(Domtar Corp.)に譲渡した。この決して事業部が不採算だった訳ではなかった。

余談になるか、ドムターは先頃印刷用紙工場の設備を、目下需要が堅調な伸びを見せている段ボール箱用の原紙に転換する旨を発表していた。

私はこの事業部の日本市場進出を1987~88年に手伝っていただけに「如何に時代が急速に変化して、印刷(紙)媒体がインターネットに圧されていくのか」を痛感させられたと同時に、その決断は早すぎるのではないかとも感じていた。更に、製紙産業の先行きを暗示しているのではないかと、一層の不安感を覚えていたのだった。これが「二進法的思考体系」による決断の早さの典型的な例である。

だが、この決断は誤りではなかったようで、世界とアメリカ最大のメーカーで、紙パルプ産業の盟主であるインターナショナルペーパー(IP)も、2007年にアメリカ最大の塗工印刷紙(アート紙を想像して頂けば良いだろう)事業の売却を発表したが、これ即ち「印刷(紙)媒体」の将来に見切りを付けたことを意味している。IPの戦略はこれだけに止まらず「今後は需要の成長が期待できるアメリカ以外でしか、工場の新増設は行わない」との声明まで出して実行段階に入っていた。

IPの経営陣は二者択一で「アメリカ本土では印刷用紙事業に将来はない」との決断をして見せたのだった。事がここまで来ると同業他社も追随した。矢張り印刷用紙(と情報用紙)の大手メーカーだったMeadも撤退した。IPとMeadの印刷用紙事業を買収したファンド等が設立した言わば第2会社は、皆その後に経営不振に陥り、Chapter 11の適用による保護を請願する事態になった。これ即ち、印刷(紙)媒体がインターネットに押し切られたことを悲しいほど示していた。

これを以て、ウエアーハウザーとIPに先見の明があったと言うのか、二者択一的判断の素早さを称えるべきかを、我が国の経営者も参考にすると良いかも知れない。だが、軽々に見習うべきか否かには疑問が残るとも思う。

例えば、EVである。地球環境とか大気汚染とか色々言われているこの時代にガソリン車もハイブリッド車もかなぐり捨てて、電気自動車を大幅に導入するとか、年限を切って全てEVにするとの法律を作ることは雄々しいと思わせられる。だが、ここでお考え願いたいことは「西欧諸国の思考体系は(単細胞的に?)二者択一なのである事」なのだ。「EVとハイブリッド車半々で」乃至は「足して二で割る」かのような妥協的な考え方が出来ない不自由な?人たちの集団であることだ。

だからこそ、彼らは割り切って法律を作ってまで規制するのだ。そこには明示されていないようだが、私は彼らが”contingency plan“(英辞郎には「緊急時対応策、危機管理計画」とある)も立ててあり、万が一の場合の逆櫓のような方策を用意してあるのではないかと、本気で疑っている。自動車産業について全く無知な私は「何年か経つと、ある日突然その辺を走っている自動車が全部EVだ」などということがあり得るのかなと思っている。

そのアメリカ/ヨーロッパ人たちが言う事を真に受けて「我が国でもEVのみで行こう」などと考えるとか、そういう規制をかけていこうというような単細胞的な考え方をするのは、危険ではないだろうかと私は考えている。現実には、トヨタ自動車の豊田章男社長は「EVの導入を推進するのだったならば、現在よりも原子力発電所を10箇所増設しないと」と言われたではないか。我が国には「二者択一的思考体系」は似合わないのではないだろうか。

でも、何時までも慎重に検討している訳にも行くまい。時代はそのような優柔不断な姿勢を許さないのではないか。