新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領の施政方針演説を聞いて

2017-03-02 08:43:38 | コラム
トランプ大統領の君子豹変かな?:

トランプ大統領の施政方針演説はニュースで少しだけ聞いたが、1日のPrime Newsで採り上げるというので、侍何とかの野球観戦は放棄して集中的に見ていた。トランプ大統領は選挙キャンペーン中にも一度だけヒラリー・クリントン候補を語る時に、“Secretary Clinton”と敬称を付けて入っていったのに驚かされたが、その際の言葉遣いもそれまでとは違う、言わば彼が本来は所属しているはずの支配階級のキチンとした言葉を選んでいたのがとても印象的だった。

昨日の演説もゲストの誰かがいみじくも言った「やれば出来るじゃん」で、日頃の彼の支持層向けの粗雑な文章構成でも言葉遣いでもなかった。恐らくスピーチライターと念入りに打ち合わせして仕上げたのだろうが、非常に格調高い美文調で如何にもアメリカ合衆国の大統領らしい原稿だった。また、余り原稿に目を移す様子もなく、プロンプターも見えなかったのは、かなりリハーサルを重ねてこの日に備えて来られたのだろうと思わせてくれた。だが、それくらいは当然のことだ。有り難かったことはPrime Newsで演説の主要な部分を再生して聞かせてくれたことだった。

大統領の演説の内容や文章構成は私如きが云々するべき性質ではないが、矢張りキャンペーン中の主要な項目だったメキシコとの国境の壁や法人税を主体の税制改革等々を目玉にしておられたと聞こえた。トランプ大統領をビジネスマンだの不動産業での経験を通じてビジネスを熟知しておられるというようなことを言う向きが多い。私はそれは単なる社交辞令だと見なして聞いている。

だが、大統領は海外を相手にする貿易の実務のご経験がない為にだろうが、この演説でも世界の各国がアメリカに物を売り込んで膨大な額の富を奪い、無数の工場を消滅させ多くの人の職を失わせたと強調された辺りは、アメリカの製造業の歴史と実態を把握できていないが故に出てきた被害妄想のような気がしてならない。しかし、解釈次第だが、この点は中国を考えて言っておられるのかも知れない。

昨夜のゲストの一人の元外務副大臣・城内実氏も言っていたが、安倍総理との会談中に説き聞かされたと見えて我が国との自動車等の輸入問題については全く触れなくなった。だが、今後は大統領の周囲にいる人たちが余程の決意を以て彼の誤認識を正していく必要があるようだと思わざるを得なかった大統領のアメリカの貿易赤字問題の認識だった。

Prime Newsでは双日の吉崎氏がトランプ大統領が選挙期間中から唱えていた「国境税=border tax」は演説では触れられていなかったが、今や正式に“Border adjustment tax”(=Destination-based Cash Flow Tax→DBCFTの略称)として俎上に載っていると解説。しかし、20%もの高率を輸入品に課すればアメリカの物価の上昇を招くし、WTOで認められるにしても年内に片が付くような事案ではあるまいと指摘された。私にはこのような税制の発想は貿易の実務のご経験がないからこそ出てきたのだろうと解釈する。

その税制改革だが、法人税を35%から引き下げる点を強調されたが、インフラの整備に1兆ドルを投じるとか、軍備費を増加するとかの財源を何処に求められるのかが気になった。Prime Newsのゲストの方々はそれが関税であり、法人税の引き下げで企業の収益が増大することで補って行かれる予定かも知れないが、それらの施策の先に待っているのが議会であり、必ずしもトランプ大統領を支持していない一派がいる共和党であると指摘したのも印象的だった。

私は既に述べたことだが、トランプ大統領は「アメリカファースト」と「アメリカを再び偉大に」を実現する為に講じて行かれるだろう手段というか政策(例えば移民の制限や不法移民の強制送還等も含めて)が実行段階に入っていった後に如何なる反響というか副作用が生じるかを、大統領は何処まで読んでおられるのかは重大な問題だろうと思っている。現時点では“I don’t care what happens afterwards.”=「後は野となれ山となれ」のような恐れなしとはしないのだが。

そこには、未だに全閣僚の承認が済んでいないだけではなく、主要官庁の幹部級の人事も中途半端という重大な案件も残っている。これから先にどのように大統領が変わって行かれるか、または何が起きるかを見守って行く時が続くのだろうかと思う。