【掲載日:平成23年5月20日】
・・・八桙持ち 参ゐ出来し時
時じくの 香の木の実を 畏くも 遣し給へれ・・・
聖武帝の 詔書を思う度
家持の胸は 熱くなる
〔天皇の御代 栄えの礎
橘諸兄様を措いて無い
我ら大伴 伴造の役目 果たす言えど
要となるは 「橘」
いかな 権勢とはいえ 「藤」は適わぬ〕
懸けまくも あやに畏し 皇神祖の 神の大御代に 田道間守 常世に渡り
八桙持ち 参ゐ出来し時 時じくの 香の木の実を 畏くも 遣し給へれ
《天皇の ご先祖さんの その昔 田道間守さん 常世行き
八矛捧げて 戻り来て 香り良え実の 橘を 持って帰られ 伝え来た》
国も狭に 生ひ立ち栄え 春されば 孫枝萌いつつ
霍公鳥 鳴く五月には 初花を 枝に手折りて 娘子らに 苞にも遣りみ
《今は国中に 植えられて 春になったら 枝伸ばし
ほととぎす鳴く 五月咲く 初花枝を 手に取って 乙女ら贈る 土産にと》
白栲の 袖にも扱入れ かぐはしみ 置きて枯らしみ
あゆる実は 玉に貫きつつ 手に巻きて 見れども飽かず
《袖入れ香り 楽しんで 花散った後 落ちた実に
糸通しして 手に巻いて 飽きもせんとに 愛で遊ぶ》
秋づけば 時雨の雨降り あしひきの 山の木末は 紅に にほひ散れども
橘の 成れるその実は 直照りに いや見が欲しく
《時雨の秋は 山の木々 紅葉になって 散ってゆく
けど橘の 成った実は 艶と輝き 人目引く》
み雪降る 冬に至れば 霜置けども その葉も枯れず 常磐なす いや栄映えに
《霜置く冬が 来たとても その葉枯れんと 常緑まま》
然れこそ 神の御代より 宜しなへ この橘を 時じくの 香の木の実と 名付けけらしも
《それやからこそ 神代から この橘を いつまでも 香り続ける 木の実やと 言われるのんは 尤もや》
―大伴家持―〔巻十八・四一一一〕
橘は 花にも実にも 見つれども いや時じくに なほし見が欲し
《橘は 花時実時 良えけども どんな時でも また見となるで》
―大伴家持―〔巻十八・四一一二〕
【五月二十三日】
京に上れば 是非にも橘諸兄様にと 家持詠う
見まく欲り 思ひしなへに 蘰懸け かぐはし君を 相見つるかも
《逢いたいと 思てた橘卿 蘰つけ 素敵な姿 見かけましたで》
―大伴家持―〔巻十八・四一二〇〕
朝参の 君が姿を 見ず久に 鄙にし住めば 我れ恋ひにけり
《朝廷の 橘卿の姿 久しぶり 田舎に居って 焦がれてました》
―大伴家持―〔巻十八・四一二一〕
【五月二十八日】
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます