【掲載日:平成23年6月3日】
安の川 い向ひ立ちて 年の恋
日長き子らが 妻問の夜ぞ
畏れていた 旱魃も 恵みの雨で 避け終え
稲の育ちも 順調な 夏が過ぎていく
やがて 秋
待ち焦がれの 七月七日を 迎えた
〔地上の 人皆 雲の動きに 一喜一憂
天上
天の川の 増水に 牽牛・織姫 一喜一憂
さもあろう
なにせ 年に一度の逢瀬
叶うか叶わぬのかの 一夜なれば・・・〕
天照らす 神の御代より 安の川 中に隔てて
向ひ立ち 袖振り交し 息の緒に 嘆かす子ら
《天照 大御神代の 昔から 安の流れを 中にして
向かい合わせで 袖振って 嘆き合うてる お二人よ》
渡り守 船も設けず 橋だにも 渡してあらば その上ゆも い行き渡らし
携はり うながけり居て 思ほしき 言も語らひ 慰むる 心はあらむを
《渡しの人も 船も無て せめて橋でも あったなら その上行って 川越えて
手ぇを繋いで 肩抱いて 思いの丈を 述べ合うて 心慰め 出来るのに》
何しかも 秋にしあらねば 言問の 乏しき児ら
《なんで七夕 違う時は 声掛けすらも 出けんのや》
うつせみの 世の人我れも 此処をしも あやに奇しみ
行き変る 毎年ごとに 天の原 振り放け見つつ 言ひ継ぎにすれ
《地上のわしは 思もてみる なんと数奇な 言い伝え
来る年毎に 空仰ぎ 伝え行こ思う ずううっと》
―大伴家持―〔巻十八・四一二五〕
天の川 橋渡せらば その上ゆも い渡らさむを 秋にあらずとも
《天の川 橋があったら その上を 渡れるのんに 七夕と違ても》
―大伴家持―〔巻十八・四一二六〕
安の川 い向ひ立ちて 年の恋 日長き子らが 妻問の夜ぞ
《安川に 向き合て立って 一年も 長う焦がれた 出合いの晩や》
―大伴家持―〔巻十八・四一二七〕
【七月七日】
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心置きなく 詠える日々に
家持は 満足を得ていた
しかし 都では
歌作りに 水差す事態が・・・
七月四日 健康不安の 聖武帝退位
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