【掲載日:平成21年10月2日】
世の人の 貴び願ふ 七種の 宝もわれは 何為むに
わが中の 生れ出でたる 白玉の わが子古日は・・・
年齢老いて生したわが子古日の死 悲嘆の憶良
世の人の 貴び願ふ 七種の 宝もわれは 何為むに
わが中の 生れ出でたる 白玉の わが子古日は
《みんな欲しがる 宝はいらん 家に生まれた 可愛い古日》
明星の 明くる朝は 敷栲の 床の辺去らず 立てれども 居れども 共に戯れ
《朝に起きたら 枕もと来よる どこに居っても じゃれ付いてくる》
夕星の 夕になれば いざ寝よと 手を携はり 父母も 上は勿放り
三枝の 中にを寝むと 愛しく 其が語らへば
《日暮れが来たら 早よ早よ寝よと お父もお母も 並んで一緒
可愛らし気に 言うんやこの児》
何時しかも 人と成り出でて 悪しけくも よけくも見むと 大船の 思ひ憑むに
思はぬに 横風の にふぶかに 覆ひ来ぬれば
《早よ大き成れ 善し悪し別に 楽しみやなと 思うていたに 悪い病気に 罹ってしもた》
為む術の 方便を知らに 白栲の 手襁を掛け まそ鏡 手に取り持ちて
天つ神 仰ぎ乞ひ祈み 地つ神 伏して額づき
かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり われ乞ひ祈めど
《どしたら良えか 分からんよって 白い襷に 鏡を持って
天の神さん 頼むと祈り 地の神さん 何とかしてと 気ィ狂うほど 拝んでみたが》
須臾も 快けくは無しに 漸漸に 容貌くづほり 朝な朝な 言ふこと止み
たまきはる 命絶えぬれ
《一寸も良うは なること無しに 生気無うなり 息絶え絶えで 幼い命 無くしてしもた》
立ち踊り 足摩り叫び 伏し仰ぎ 胸うち嘆き 手に持てる 吾が児飛ばしつ 世間の道
《飛び上っては 地団太踏んで ぶっ倒れては 胸掻きむしり 抱いたあの児を 思わず投げた
あって好えんか こんなこと》
―山上憶良―〔巻五・九〇四〕
稚ければ 道行き知らじ 幣は為む 黄泉の使 負ひて通らせ
《礼するで あの世の使い 背負たって ちっちゃいよって 道知らんから》
―山上憶良―〔巻五・九〇五〕
布施置きて われは乞ひ祷む 欺かず 直に率去きて 天路知らしめ
《布施添えて 拝みますんで 天国に 間違い無うに 連れてったって》
―山上憶良―〔巻五・九〇六〕
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