令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

憶良編(3)わが嘆く息嘯(おきそ)の風に

2009年09月26日 | 憶良編
【掲載日:平成21年9月15日】

大野山おほのやま 霧立ち渡る わが嘆く
          息嘯おきその風に 霧立ちわたる


【遠景:大野山 都府楼跡 蔵司横にて】


日は とっぷりと暮れていた 
憶良は 旅人やかたの門をくぐる
筑前国府からはそう遠くない  遅すぎた弔問ちょうもん
悲しみに打ちひしがれる旅人 
その額に 縦じわが寄る 
〔喰えん男が 今頃に・・・〕 

大君おほきみの 遠の朝廷みかどと しらぬひ 筑紫つくしの国に 泣く子なす 慕ひ来まして いきだにも いまだやすめず 年月としつきも いまだあらねば 心ゆも 思はいあひだに うち摩き こやしぬれ
《遠く離れた 筑紫へと 子供みたいな お前連れ  落ち着かんに 月日経ち しんみり話も せんうちに お前病気に なってもた》
言はむすべ すべ知らに 石木いはきをも け知らず 家ならば かたちはあらむを うらめしき いもみことの あれをばも 如何いかにせよとか 鳰鳥にほどりの 二人並び 語らひし 心そむきて 家さかりいます
《どしたらえか 分からへん 石や木ィかて 答えよらん あんな元気で ったのに どないせ言うんや このわしに 二人仲良う  暮らそうと  言うたお前は もうらん》
―山上憶良―〔巻五・七九四〕 

家に行きて 如何いかにか吾がせむ 枕づく 妻屋つまやさぶしく 思ほゆべしも
《家帰り どしたらんや このワシは 寝床を見ても さみしいだけや》
しきよし かくのみからに したし 妹がこころの すべもすべなさ
可愛かいらしく あんないっぱい 甘え来た お前気持に こたえられんで》
くやしかも かく知らませば あをによし 国内くぬちことごと 見せましものを
《悔しいな こんなことなら 景色え 筑紫の国中くにじゅう 見せたったのに》
いもが見し あふちのち花は 散りぬべし わが泣くなみだ いまだなくに
栴檀せんだんの 花散りそうや 思いの よすがうなる えもせんのに》
大野山おほのやま 霧立ち渡る わが嘆く 息嘯おきその風に 霧立ちわたる
《大野山 霧が立ってる わし嘆く 溜息ためいきたまって 霧になったで》
―山上憶良―〔巻五・七九五~七九九〕 

〔形の弔問の多いなか
 わしと心を同じうすべくの歌作りを・・・〕 
「憶良殿・・・」 
差し出す手に 旅人の歌  
世の中は むなしきものと 知る時し いよよますます かなしかりけり
《人の世は からっぽなんやと 知ったんや おもうてたより ずうっと悲しい》
―大伴旅人―〔巻五・七九三〕 
無言で うなずく 憶良
老境の二人の眼に 乾ききらぬ涙が 




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