人麻呂歌集編（19）千度（ちたび）ぞ告（の）りし

【掲載日：平成24年3月30日】

海神わたつみの　持てる白玉　見まく欲ほり　千度ちたびぞ告のりし　潜かづきする海人あま




物に譬たとえる　比喩歌ひゆうたは　人の姿態すがたや　行おこないや
感情こころを物に　置き換えて　寓意ぐうい含ませ　詠うたう歌

その　まま聞けば　何でもないが
裏　に隠した　謎掛け歌よ
裏隠れるは　相そう問もん心ごころ
分かって　欲しい　この胸の内

【　衣に寄せて】
今作る　斑まだらの衣ころも　面おもづきて　我れに思ほゆ　いまだ着ねども
《作ってる　斑まだら染そめ衣ふく　見る限り　わしに合い相そや　まだ着てへんが》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二九六）
お前可愛かわいで　このわし似合い
まだ共寝ねとらんが　間違い無しに

紅くれなゐに　衣ころも染そめまく　欲ほしけども　着てにほはばか　人の知るべき
《紅くれないに　衣ふく染そめたいと　思うけど　目立ち過ぎたら　気付かれて仕舞まう》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二九七）
ほん　に嬉しや　うちかてそうや
顔紅あこしたら　知られて仕舞まうな

かにかくに　人は言ふとも　織おり継つがむ　我が機物はたものの　白き麻衣あさごろも
《あれこれと　他人ひと言ゆうたかて　続け織おろ　機織はたおり途中とちゅの　白しろ麻衣あさごろも》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二九八）
あの人アカン　皆みな止やめときて
言ゆうけどうちは　付いてこ思う

【　玉に寄せて】
あぢ群むらの　とをよる海に　舟浮うけて　白玉採ると　人に知らゆな
《味鴨あじかもの　群がる海に　船浮かべ　真珠しんじゅ採とろして　人に知られな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一二九九）
遠近をちこちの　磯の中なかなる　白玉を　人に知らえず　見むよしもがも
《あちこちの　磯の中ある　真しん珠じゅ玉たま　人知られんと　採とりたいんやが》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一三〇〇）
あの児良ええけど　近づき出けん
一寸ちょっと何とか　ならんやろうか

海神わたつみの　手に巻き持てる　玉ゆゑに　磯の浦廻うらみに　潜かづきするかも
《海神うみがみが　持つ玉やから　苦労して　岩多おい海で　潜もぐってるんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一三〇一）
海神わたつみの　持てる白玉　見まく欲ほり　千度ちたびぞ告のりし　潜かづきする海人あま
《海の神　持ってる玉を　採りとうて　その度たび祈り　潜もぐる海人わしやで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一三〇二）
潜かづきする　海人あまは告のれども　海神わたつみの　心し得ねば　見ゆといはなくに
《潜もぐる度たび　祈ってみても　海神うみがみが　良ええ言ゆわへんと　採れる訳ない》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻七・一三〇三）
ど　ないしてでも　あの児が欲しい
神　さん頼む　何とかしてや




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