【掲載日:平成22年8月17日】
ひさかたの 雨の降る日を ただ独り
山辺にをれば いぶせかりけり
〈おお
あれは 紀郎女
なんと 恭仁に来ておったのか〉
恭仁京
山青く 水清い 清涼の地
新材香り 槌音響く 新興の地
然れど 山間の夜は 寒く寂しい
独り寝の 無聊を託つ 家持
眠っていた 好き心が 目を覚ます
早速の 袖引き文が 紀郎女の許へ
ひさかたの 雨の降る日を ただ独り 山辺にをれば いぶせかりけり
《鬱陶しい 雨の降る日に 独りだけ 山陰居ったら 憂鬱なるわ》
―大伴家持―〈巻四・七六九〉
〈そういえば あの郎女
若くして 玉の輿の見染め
花なら蕾であったろう〉
十二月には 沫雪降ると 知らねかも 梅の花咲く 含めらずして
《十二月 まだ雪降るの 知らんのか 蕾ほころび 梅花咲いた》
―紀小鹿郎女―〈巻八・一六四八〉
〈紀郎女は紀鹿人の娘 ために「小鹿」の愛称〉
〈その安貴王 高貴なお方の常か
因幡国出身の元采女 八上采女
当時藤原麻呂の妻 これに手を出し 罪に
それが元で
紀郎女は 仲を裂かれる憂き目に合ったとか〉
世間の 女にしあらば わが渡る 痛背の河を 渡りかねめや
《このうちは 運無いよって 世間並み あんた慕ても 一緒行かれん》
―紀郎女―〈巻四・六四三〉
今は吾は 侘びそしにける 気の緒に 思ひし君を ゆるさく思へば
《今うちは 沈んで仕舞てる 命とも 思てたあんた 行かしてしもて》
―紀郎女―〈巻四・六四四〉
白栲の 袖別るべき 日を近み 心に咽ひ ねのみし泣かゆ
《嫌やけど 別れならん日 近づいて 心の中で 咽び泣いてる》
―紀郎女―〈巻四・六四五〉
〈そうそう 切っ掛けは 茅花であった〉
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