【掲載日:平成22年6月4日】
味酒を 三輪の祝が いはふ杉
手触れし罪か 君に逢ひがたき
家持は 恋に憧れていた
筑紫
そこで 大人の恋を 見知った
これが恋だと 幼馴染の妾との生活
ときめきが無い
大嬢との 歌の遣り取り
叔母の監視の下では こころ踊らない
家持 恋道探りに精を出す
〈歌文贈れば 人が知る
知られた上は 為損じは恥じゃ
よし 歌なぞ 贈りはせぬぞ
名のある家の 御曹司
気に入りに 押し入り 手を握る
なんの障りがあろうか〉
体裁構いと自尊が 同居する家持
訪れるは 自ずと警護緩やかな身分の家
はつはつに 人を相見て いかにあらむ いづれの日にか また外に見む
《ちょっと間の 逢瀬のあんた いつ逢える ちらっと姿 見られんやろか》
―河内百枝娘子―〈巻四・七〇一〉
ぬばたまの その夜の月夜 今日までに 我れは忘れず 間なくし思へば
《逢うた夜の あの好え月が 忘られん ずっとあんたを 思てるさかい》
―河内百枝娘子―〈巻四・七〇二〉
思ひ遣る すべの知らねば 片もひの 底にそ我れは 恋ひなりにける
《恋心 晴らす仕方が 分からんで 片恋底に うち沈んでる》
―粟田女娘子―〈巻四・七〇七〉
またも逢はむ 因もあらぬか 白栲の 我が衣手に 斎ひ留めむ
《逢う手立て ないもんかなと 袖の端 結び合わして 祈ってるんや》
―粟田女娘子―〈巻四・七〇八〉
鴨鳥の 遊ぶこの池に 木の葉落ちて 浮きたる心 我が思はなくに
《鴨遊ぶ 池に浮いてる 葉ぁみたい 軽い気持ちで 居るんと違うで》
―丹波大女娘子―〈巻四・七一一〉
味酒を 三輪の祝が いはふ杉 手触れし罪か 君に逢ひがたき
《三輪山の 神さん杉に 手え触り 罰当たったか あんた逢われん
〈身分違う 人に誘われ その気なり うちアホやった 逢うてもらえん〉》
―丹波大女娘子―〈巻四・七一二〉
垣穂なす 人言聞きて 我が背子が 情たゆたひ 逢はぬこのころ
《取り巻きの 中傷を聞いて あんたはん 躊躇うてんか 逢うてくれへん》
―丹波大女娘子―〈巻四・七一三〉
無理強い家持を ものともせず
貴き人と見ての 必死の取り付き
慌てる家持 早々逃げる
見知りの恋は 頭の恋
身を以っての恋 知らぬ悲しさ
家持 恋の 駆け引き間合いを 測りかねている
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