古今相聞往来（上）編（26）荒ぶる妹に

【掲載日：平成25年2月19日】

栲領巾たくひれの　白浜しらはま波なみの　寄りもあへず　荒ぶる妹いもに　恋ひつつぞ居をる




相手向むこての　問答もんどう歌は
気心きこころ知れた　者同士どし交わす
戯たわむれ歌に　見えてはいても
恋駆かけ引ひきの　鍔つば迫ぜり合あいか

【　問答】
かくだにも　妹いもを待ちなむ　さ夜よ更ふけて　出いで来こし月の　かたぶくまでに
《こんなにも　お前待ってて　夜よぉ更ふけた　出た月とうと　西沈むがな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八二〇）
木この間まより　移ろふ月の　影を惜をしみ　立ち廻もとほるに　さ夜よ更ふけにけり
《木きの間あいだ　移うつる月つき見みて　良え光ひかりに　廻めぐり為しとって　夜よる更ふけて仕舞もた》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八二一）
（待ち惚ぼけさすん　常時いっつもやんか
　そやかて月が　綺麗きれやったもん）

【　問答】
うらぶれて　物な思ひそ　天雲あまくもの　たゆたふ心　我あが思はなくに
《しょぼくれて　思おもい沈しずみな　雲くもみたい　浮うわつき心ごころ　わし為してないで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八一六）
うらぶれて　物は思はじ　水無瀬川みなせがは　ありても水は　行くといふものを
《しょぼくれて　沈しずまんとくわ　水無瀬川みなせがわ　水は隠かくれて　流れておるで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八一七）
（　離れてたけど　浮気やないで
　戻って　来てや　待ってるよって）

【　問答】
音おとのみを　聞きてや恋ひむ　真澄鏡まそかがみ　直目ただめに逢ひて　恋ひまくもいたく
《噂だけ　聞き焦こがれてよ　逢おうたなら　もっと焦こがれて　辛つろなるよって》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八一〇）
この言ことを　聞かむとならし　真澄鏡まそかがみ　照れる月夜つくよも　闇やみのみに見つ
《そう言いうか　相そやったんやな　なんやしら　月つき照てってるに　気きィ滅入めいったん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八一一）
（逢いた無ない違ちゃう　偉えろ辛つらいんや
　　そんなん言うて　嘘決まってる）
　　
【　問答】
栲領巾たくひれの　白浜しらはま波なみの　寄りもあへず　荒ぶる妹いもに　恋ひつつぞ居をる
《邪険じゃけんして　寄りつかせんで　つんつんの　そんなお前に　わし惚ほれとんや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八二二）
かへらまに　君こそ我れに　栲領巾たくひれの　白浜しらはま波なみの　寄る時もなき
《何言ゆうん　あんた勝手に　避けとって　うちの所為せいして　寄りつきせんと》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八二三）
（　お前きついぞ　惚れてんやのに
　　嘘つきないな　避けてるくせに）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ