百鬼夜行とご縁組 ~あやかしホテルの契約夫婦~ (メディアワークス文庫) | |
マサト 真希 | |
KADOKAWA |
この作品のヒロインは、花籠あやねというアラサー女性。東京のイベントプロデュースの会社に勤めていたが、パワハラ上司の失態を押し付けられる形でクビ同然に退職することになった。現在退職を前提の有給休暇消化期間中。
大学時代の友人の勧めで仙台の高級ホテル・青葉グランドホテルでお茶を飲んでいるとき、そのホテルの総支配人の引退記念パーティで何かトラブルが。あやねは、つい見かねて手を貸すことに。
ところが、そこに集まっていたのは人間ではない。妖怪たちなのだ。あやねは、この地の妖怪の時期統領でホテルの事業統括部長の高階太白から配偶者として雇いたいとの申し出を受ける。太白は、次々に持ち込まれる縁談を断る口実にしたかったようだ。これがものすごい好条件。
しかし、縁は異なもの味なもの。二人で妖怪同士のお見合いに立ち会ったり、妖怪と人間の夫婦の観光案内をしたりするうちに次第に二人は魅かれあっていく。
妖怪の世界も一つにまとまっている訳ではない。反対勢力にあやねが誘拐されたときに見せた、ひ弱と思われていた太白の意外な正体。そして雨降って地固まるの言葉のように、益々強くなる二人の絆。
この物語は、一種の異類婚姻譚に分類されるのだろう。互いに相手を思いやる心さえあれば、人と妖怪とが、種族を超えることができる。二人で過ごす時間はかけがえのないもの。この作品にはそのようなメッセージが込められているように思える。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。