かがやき荘西荻探偵局 (新潮文庫) | |
東川 篤哉 | |
新潮社 |
主人公の成瀬啓介は29歳独身。父の営む食品メーカーの4代目だったが、父が急死して会社を追われ無職になってしまった。そんな彼に手を差し伸べたのが、小さいころよく遊んでくれた遠い親戚にあたる法界院(ほうかいん)法子。ちなみにその頃は綺麗なお姉さんだったようだ。
今は、ノリツッコミの得意な、自分を46歳と言い張る49歳。そして大企業グループの会長という設定だ。啓介は法子の見習い秘書として働くことになる。
そんな彼に絡んでくるのが「かがやき荘」に住む、関礼菜29歳、占部美緒30歳、小野寺葵31歳のアラサー女子3人組。実は「かがやき荘」というのは西荻窪にあり、元々は法界院家の別邸で、今はアラサー女子3人がルームシェアしている。ここの家賃代わりに、法界院家の周りで起きる事件を彼女たち(主に葵)が、推理・解決していくというのが基本的な骨組みだ。
本書は4つの事件からなる連作短編集のようになっている。収められているのは次の事件。
〇Case1 かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件
法界院家の離れに住む居候の真柴晋作が殺される。その死体の上には60インチの大画面テレビが倒れていた。
〇Case2 洗濯機は深夜に回る
礼菜と美緒は、投棄されていたまだ新しい全自動洗濯機を拾う。ところが深夜に何者かが洗濯機を動かしていた。
一方法子の高校時代の家庭教師だった北沢加奈子のマンションで男が殺され、加奈子は失踪。
〇Case3 週末だけの秘密のミッション
法子が目をかけている女性経営者松原清美の父である松原浩太郎が毎週週末の夜に家を空けるようになった。清美は父の浮気を疑っているのだが。
〇Case4 委員会から来た男
葵が、西荻向上委員会副委員長と名乗る、吉田啓次郎という男から声をかけられた。自分が雑誌の表紙を飾ると言う話に舞い上がる葵だが。
東川作品の特徴の一つとしてその語り口があげられるだろう。殺人事件は出てくるものの、全体的に語り口がユーモラスなのだ。この作品も例に漏れず、ユーモラスな語り口で書かれており、読んでいるとついニヤニヤしてくる。
そしてもう一つの特徴は、広島出身者らしいカープ愛なのだ。作品中に著者のカープ愛を感じさせる部分がよく出てくるのだが、なぜかこの作品に限ってはカープ成分少な目なのである。私が気が付いたのはCase2での法子の科白、「広島かしら巨人かしら・・・・・・」(p152)くらいだ。これは著者のカープネタを楽しみにしている人には物足りないかもしれない。まあ、私のように野球にまったく興味がない人にはどうでもいいことなのだが。
ひとつ気が付いたことがある。著者は広島出身だが、大学は岡山大学だ。この作品で法界院法子という人物が登場してくるが、この法界院というのは、岡山大学の最寄り駅(津山線というローカル線の駅なので本数は少ない)で、近くに駅名の元になった真言宗の寺がある。ただし読み方は「ほうかいいん」。何か関係があるのだろうかと想像しながら、読むのも楽しい。
そして西荻窪という場所。これが、東京や東急周辺に住んでいる人なら、何か感じるものがあるかもしれないのだが、残念ながら東京に住んだことのない私にはよく分からない。
ところで、解説によるとこの続編が今月単行本ででるらしい。調べてみると、「ハッピーアワーは終わらない: かがやき荘西荻探偵局」というタイトルらしい。アラサー女子3人組の益々の活躍にお目にかかれそうだ。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。