人間の性は性遺伝子により決まる。すなわちXY型なら男性、XX型なら女性というわけだ。ところが魚には、性転換する種類があることはよく知られている。雄が雌に、雌が雄に変化するのだ。
例えば、ホンソメワケベラという魚がいる。この魚は、他の魚の寄生虫を食べるので、海の掃除屋さんとして有名な魚だ。この魚はグループの中に雄が1匹しかいない。一番体が大きいのが雄なのだ。小さな雄はいないのである。小さな雄はどこに行ったのか。それでは、この1匹しかいない雄がいなくなった場合はどうなるのか、なんと一番大きな雌が雄に性転換するのである。
また、お父さんが、ダイバーにさらわれた息子を探して旅するというアニメにもなったカクレクマノミ。冒険アニメとしては面白いが、実際のカクレクマノミの生態を考えると変な点がいくつかあるという。
まず、お父さんは、お母さんがいなくなれば、雌に性転換してしまう。そして、いっしょに住んでいた息子は、自分達の卵から孵化したわけではなく、どこからか流れてきた他人の子で、まだ息子かどうかは言えないというのである。つまり、本来の生態に即して考えれば、性転換してお母さんになったお父さんが、息子か娘か良く分からない他人の子を探して旅をするという物語になる。
本書を読んでいると、2ばかり疑問に思う事が出てきた。著者は大学院から紀伊半島に西側にある京大理学部付属瀬戸臨海実験所で過ごしている。それはいいのだが、他に単位を取るとなると大変だろうと思う。私は工学研究科だったが、学部よりは少ないとはいえ、一定の単位を取る必要があった。しかし、瀬戸臨海実験所から京大本部までは通える距離ではないのだ。もしかすると、工学研究科と理学研究科ではシステムが違うのだろうか。
もう一つは、これらの魚の性遺伝子はどうなのだろうかということだ。これについては、最後の方に答えがあった。性転換する魚では性遺伝子は見つかってないらしいのだ。ないことを証明するのは「悪魔の証明」になるので難しいと思うが、実際に雌が雄になったり、雄が雌になったりするのでないのだろうと思う。
最近はLGBTの関係で、学校の制服もジェンダーレスになっているところがあると聞く。魚たちは、その何歩も先を行っていると思うとなかなか興味深い。
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