死なないやつら (ブルーバックス) | |
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講談社 |
極限生物学者として有名な広島大教授(執筆当時准教授)の長沼毅さんによる「死なないやつら」(講談社ブルーバックス)。タイトルだけを見るとまるでミステリーのようだが、生物の中には驚くほど過酷な環境でも生きていけるものがいるということを解説したものだ。
「極限生物」とは、普通の生物が住めないような超高温、超高圧、乾燥、塩分濃度といった環境のなかで生息できる生物を言う。つまり「不死身か!?」と思ってしまうような生物のことである。不死身の生物としてはよく「クマムシ」が取り上げられる。確かにクマムシは、151℃の高温や絶対零度に近い低温、5700シーベルトという放射線にも耐えるが、これは体の水分を抜いて「樽」という一種の仮死状態になってのことなのだ。
ところが自然界には、極限状態のなかで活動している生物がたくさんいる。例えばアーキア(古細菌)の仲間には122℃の高温で増殖するものが存在する。またハロモナスというバクテリアは30%の塩分濃度でも生きているし、大腸菌などは2万気圧に耐えられるのだ。この他にも、とんでもない放射線、紫外線、重力加速度に耐える微生物がいる。
本書の中で、長沼さんは極限生物のそのような能力について、「なぜそんな能力を身につける必要があったのか、どう考えても解せないものもあります」(p71)と述べている。進化の方向はランダムなので、たまたま獲得した能力が使うこともないまま残っているということなのだろうか。まさに生命とは神秘そのものではないか。
面白いのは、温水が湧出している深海底に見られる「チューブワーム」という生物。この生物は、口も消化器官も肛門も持っていないのに、ちゃんと成長できるのだ。細胞内にイオウ酸化細菌が共生し、その細菌が作り出す栄養で育っているからである。
これらから分かるように、生命とは人間の想像力を超えて遥かに逞しいものなのだ。本書はこれまで私たちの持っていた生命感をがらりと塗り替えてくれるだろう。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。