文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:フロスト日和

2016-01-20 09:10:08 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
フロスト日和 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 フロスト警部が活躍するシリーズのひとつ「フロスト日和」(芹沢恵訳:創元推理文庫)。

 主人公のフロスト警部は、デントン署に勤務する警部だが、所長のマレットからの覚えは最悪。なにしろ描かれている姿は、皺だらけのスーツを着た、すっかり生え際が後退している、見るからにだらしない40代後半の男。事務仕事は大の苦手で、犯罪統計や残業申請はいつも後回し。それがよけいにマレットをイライラさせる。

 このマレットという所長。上司としては最低の部類。権力者にはへいこらし、下には威張り散らす。フロストも、しょっちゅう小言を聴かされるので、嫌ってはいるのだが一応は上司。なるべく顔を合わさないようにすることと、陰で悪口をいうことしかできない。

 なぜか、このデントン署管内では事件がよく起きる。女子中学生失踪事件、若い娘の連続強姦事件、浮浪者殺害事件、警官殺人事件、ソヴリン金貨盗難事件、老人ひき逃げ事件、強盗傷害事件といった具合だ。実はこれらの事件は色々絡まり合っており、それがフロストによりどのように解きほぐされていくのかというのが、この作品の読みどころの一つだろう。

 この作品には、アレン警部というデントン署のもう一人の警部が出てくる。こちらは自分を有能だと思っており上昇志向が強い。階級が下の者にはやたらと威張りちらすばかりでなく、同じ階級のフロスト警部への接し方もまるで部下扱い。マレット所長の覚えも目出度い。

 しかし自分が優秀だと思っているアレンは、実際には殆ど犯罪の解決に寄与せず、すべての事件の解決にはぼんくら親父扱いされているフロスト警部が関わっている。この大きなアイロニーに、読者はスカッとするのである。

 もっともフロストの捜査方法も、あまり褒められたものではない。ハッタリが多く、所持している万能鍵を使って勝手に人のロッカーを開けたり他人の家に忍び込んだりするのだ。また一旦捜査に入ると、まるで時間感覚がなくなる。だから彼のお守りをするはめになる部下は大変だ。

 今回彼のお守り訳をするのは、上司を殴り飛ばしたために警部から巡査に降格されて、デントン署に配属されてきたウェブスターという男。不眠不休で捜査に駆り出され、せっかく仲良くなった婦警のスーザンとのお楽しみも幾度となくチャンスを潰されるという悲惨さ。フロストのことを心の中で散々「ぼんくら」と呼んでいたウェブスターだが、最後の方では少し認識が変わったような感じだった。このお守り役の存在が物語の面白さを増加せているのだと思う。

 ともあれ、この冴えない中年オヤジが大活躍する物語は、同じような年代の人の共感を呼ぶのではないだろうか。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。

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