★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン・フィルのヨハン・シュトラウスⅡ世:序曲/ポルカ/ワルツ集

2021-03-11 10:19:29 | 管弦楽曲

ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲
             アンネン・ポルカ  
             皇帝円舞曲 
             ラデツキー行進曲
             ワルツ「美しき青きドナウ」
             トリッチ・トラッチ・ポルカ
             ワルツ「ウィーンの森の物語」

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール MH 5011

 ワルツは、オーストリアの山岳地方の民族舞踏レントラーを都会化したものであるが、広く普及した背景にフランス革命があるという。1789年7月14日のバスチーユ陥落以後は、それまでの宮廷の音楽であるメヌエットに替わり、情熱的でしかも官能的なワルツがもてはやされたようである。しかも、時の宰相メッテルニッヒは、ウィーンの市民が踊りにすべてを忘れて、革命に思いを致すことを防ごうとした。政治と音楽、一見何のかかわりもないように見えて、実は水面下では深い関係にあるという一例である。もともと、オーストリア人は舞踏が大好きだったようで、オーストリア軍がナポレオンとの戦いに苦戦していた時でも、一晩にウィーンで踊る人数は5万人、実に人口の4分の1がダンスホールに押し寄せたというから驚きだ。その後、ヨーゼフ・ランナーの書いたワルツが人々を魅了した。一方、シュトラウスⅠ世は、全欧で演奏旅行してワルツを世界的なものにして行く。そして、いよいよシュトラウスⅠ世の息子のシュトラウスⅡ世の登場となる。登場のきっかけは、1857年にウィーン市の城壁が撤去され、広大な環状道路が建設され、ウィーンが近代都市へと発展を遂げたことにあった。シュトラウスⅡ世のワルツは、それまでのワルツとは異なり、交響曲的構成を持ち、大編成の管弦楽として装いを一新したのである。今では、毎年1月1日にウィーン楽友会ホールで繰り広げられる演奏会が世界へ向け中継され、オーストリアのワルツを全世界に知らしめている。このLPレコードは、そんな歴史を持つオーストリアのワルツの中でも、一際光彩を放っているヨハン・シュトラウスⅡ世の有名なワルツとポルカのアルバムである。演奏は、フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)指揮ベルリン・フィル。フェレンツ・フリッチャイは、ハンガリー出身の名指揮者で、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場の音楽監督などの要職を歴任したが、白血病を発症し、49歳で生涯の幕を閉じた。通常、フリッチャイの指揮ぶりは、求心力のある力強いもであるが、このLPレコードでのフリッチャイのは、ほどよい求心力を持ち、半分はオーケストラに任すような指揮ぶりで、これがかえっていい結果を生んでいる。ここでは、フリッチャイ独特の背筋をぴんと張ったような、清々しい演奏が演じられ、しかもリズム感は、これ以上のものは求められないと感じられるほどの絶妙さを秘めている。フリッチャイが残した録音の中でも、このLPレコードは、会心の一枚ではないかと思う。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇チャイコフスキー:弦楽セレナード/リスト:交響詩「前奏曲」/シベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」

2021-03-08 09:37:34 | 管弦楽曲

チャイコフスキー:弦楽セレナード
リスト:交響詩「前奏曲」
シベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」

指揮:アナトール・フィストゥラーリ(チャイコフスキー:弦楽セレナード)
   アンタール・ドラティ(リスト:交響詩「前奏曲」/シベリウス:悲しきワルツ)

管弦楽:ロンドン交響楽団

 チャイコフスキーが弦楽セレナードを作曲したのは、1880年、40歳の時だった。その頃、チャイコフスキーは、メック夫人から年金を贈られていた時で、夫人宛に「弦楽セレナードは、私の内部からの衝動によって作曲しました。私は、この曲が芸術的価値を持っていると確信しています」と書き送ったほどの自信作であり、1882年に初演された時も聴衆から支持されている。現在でもクラシックの曲の中でも人気の高い曲の一つとなっている。このLPレコードで指揮をしているアナトール・フィストゥラーリ(1907年―1995年)は、ウクライナのキエフ出身。シャリアピン・オペラ協会、モンテカルロ・ロシア・バレエ団の指揮者を歴任し、1943年から1年間、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めた。1948年、イギリス国籍取得。フィストゥラーリは、とりわけバレエ音楽の指揮にその能力を発揮したことで知られる。このLPレコードでも、そんな経歴がしのばれるように、チャイコフスキー:弦楽セレナードを都会的に、スマートに指揮する。ロシア的な泥臭さをとりわけ強調することはなく、ひたすらチャイコフスキーの美しいメロディーを奏で続ける。全体が軽快で、それこそバレエの音楽のような舞踏性が大きく前面に打ち出され、伸び伸びとした印象を強く受ける演奏内容だ。そのためか、第2、第3楽章では、フィストゥラーリの指揮の特徴が曲の流れにマッチして、何とも優雅な雰囲気が生まれている。次の曲は、リスト:交響詩「前奏曲」、それにシベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」。以上の2曲を指揮しているのが、ハンガリー出身の名指揮者アンタル・ドラティ(1906年―1988年)である。ハンガリーとドイツで指揮者として活躍した後、1947年にアメリカ合衆国に帰化。フィルハーモニア・フンガリカの初代名誉総裁、ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、 ワシントン・ナショナル交響楽団の音楽監督などを歴任したが、とりわけデトロイト交響楽団を世界的水準に戻すなど、オーケストラ・ビルダーとしての才能が高く評価された。このLPレコードでのリスト:交響詩「前奏曲」の指揮は、彫の深い、説得力のある表現に終始し、聴いていて思わず耳が吸い寄せられる程の名演だ。シベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」も凄味のある指揮ぶりだ。この曲は、死の幻に誘われて、病床から起き上がった女性が躍る不気味なワルツだが、その雰囲気が濃厚に表現され尽くされる。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇“合唱の神様”エリック・エリクソンが指揮したドビュッシー/バルトーク/プーランク/ブリトゥンの合唱曲名曲集

2021-03-04 09:46:37 | 合唱曲

ドビュッシー:3つのシャンソン(ドルレアン詩)
          1.神は何と彼女を美しく見せ給うことか
          2.太鼓のひびきを聞いてる
          3.冬よ、お前はおぞましい
ラヴェル:3つのシャンソン(ラヴェル詩)
        1.ニコレット
        2.美しい3羽の極楽鳥
        3.ロンド
プーランク:人間の顔(エリュアール詩)
         1.この世のすべての春のうちで・・・
         2.歌いながら修道女たちは進む
         3.沈黙のようにひくく
         4.おまえ、私の耐えるもの・・・
         5.空と星を見て笑いながら
         6.昼は私を驚かし、夜は私を恐れさせる
         7.赤い空の下で
         8.自由
バルトーク:4つのハンガリア民謡
         1.囚人
         2.故郷のないもの
         3.ママ、お婿さんを
         4.愛の歌
       4つのスロバキア民謡
         1.母親は娘を見知らぬ国へ
         2.雪におおわれた牧場や
         3.お前の楽しみは
         4.さあ風笛よ鳴り響け

ブリトゥン:聖セシリア賛歌(オーデン詩)

指揮:エリック・エリクソン

合唱:ストックホルム室内合唱団(ドビュッシー:3つのシャンソン/3つのシャンソン/
                バルトーク:4つのスロバキア民謡/
                プーランク:人間の顔)
   ストックホルム放送合唱団(プーランク:人間の顔/
                バルトーク:4つのハンガリア民謡/
                ブリトゥン:聖セシリア賛歌)

ソプラノ:エディット・タールラウグ(ラヴェル:3つのシャンソン)
ソプラノ:アリアンネ・メルネス(ブリトゥン:聖セシリア賛歌)
アルト:アンネ=マリー・ミューレ(ドビュッシー:3つのシャンソン)
アルト:アンニカ・バルトラ―(ラヴェル:3つのシャンソン)
テノール:ウルフ・ピョルケーグレン(ラヴェル:3つのシャンソン)
バス:モルテン・エングダール(ラヴェル:3つのシャンソン)

ピアノ:ケルスティン・ヒンダルト(バルトーク:4つのスロバキア民謡)

LP:東芝EMI EAC-40133

 これは、“合唱の神様”と称えられた、スウェーデンの世界的な合唱指揮者エリック・エリクソン(1918年―2013年)がストックホルム室内合唱団および ストックホルム放送合唱団を指揮した合唱曲集のLPレコード。バルトーク:4つのハンガリア民謡以外は、すべてアカペラで歌われている。エリク・エリクソンは、20世紀の合唱界でもっとも大きな影響力を持った人物。スウェーデン放送合唱団、エリック・エリクソン室内合唱団、スウェーデン王立男声合唱団の名前で知られるオルフェイ・ドレンガル(OD)などの合唱団を指導したが、特に、ODでは40年間常任指揮者を務め、同合唱団を世界最高のレベルまでに育て上げた。このほか、新たな合唱レパートリーの開拓、後進の育成など、エリック・エリクソンが合唱界にもたらした功績は計り知れないものがある。このLPレコードに収録されている合唱曲の概要は、次の通り。①ドビュッシー:3つのシャンソン(ドルレアン詩)は、ドビュッシー唯一の無伴奏合唱曲であり、20世紀におけるこのジャンルでの屈指の名曲と目されている作品。②ラヴェル:3つのシャンソン(ラヴェル詩)は、愛国主義者であったラヴェルが、第1次世界大戦で、祖国のため兵役に付けないことを紛らわすために作曲されたとされる曲。③プーランク:人間の顔(エリュアール詩)は、プーランクの合唱曲の中で最も重要な作品の一つで、ナチ・ドイツに対する抵抗運動の結晶として作曲された。全体は8つの部分からなる。④バルトーク:4つのハンガリア民謡は、民謡を素材にして弦楽四重奏曲をしのばせるようなポリフォニックなスタイルに仕上げられている。⑤バルトーク:4つのスロバキア民謡は、バルトークがマジャール民謡の収集、研究を通してつくられた曲で、比較的単純で、民謡の編曲のような位置づけの曲。⑥ブリトゥン:聖セシリア賛歌(オーデン詩)は、ブリトゥンの誕生日が、聖セシリアの祝日(11月22日)であることから、早くから彼女を讃える作品を書く構想を持っていた。ドビュッシー:3つのシャンソンでは、ドビュッシー独特の茫洋ととした雰囲気が巧みに歌い込まれている。リスナーは、あたかも印象派の絵画を見みているような気分にさせられるが、その背後には、“合唱の神様”エリック・エリクソンの計算尽くされた美学が横たわっていることが分かる。ラヴェル:3つのシャンソンでは、ラヴェル独特の躍動感が伝わって来る。プーランク:人間の顔では、重々しい反戦の表現がリスナーの心にぐさりと刺さる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇パリ時代に書かれた名作モーツァルト:交響曲第31番「パリ」/フルートとハープのための協奏曲

2021-03-01 09:38:45 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第31番「パリ」

   指揮:オトマール・スウィトナー
   管弦楽:ドレスデン国立管弦楽団

モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲

   フルート:エレーヌ・シェーファー
   ハープ:マリリン・コステロ
   
   指揮:ユーディ・メニューイン
   管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐30171

 これは、モーツァルトがパリに滞在していた時の作品2曲を収めたLPレコードである。モーツァルトは、1778年3月(22歳)にパリに到着した。パリ旅行には母のマリーア・アンナも同行したが、母は健康を害し、亡くなり、当地で埋葬されてしまう。そんなショッキングな出来事が起きた時に、交響曲第31番「パリ」とフルートとハープのための協奏曲が作曲された。2曲とも明るく、優雅で、華やかな趣を持った作風の曲となっている。この理由は、その当時のパリの流行に合わせたことによるものと考えられている。交響曲第31番「パリ」は、パリ旅行の前に訪れたマンハイムで吸収したものに、パリの華やかな音楽性が加わり、大規模な編成の交響曲となっている。このLPレコードには、オトマール・スウィトナー指揮ドレスデン国立管弦楽団による演奏が収録されている。オトマール・スウィトナー(1922年ー2010年)は、オーストリア出身の指揮者。シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、ベルリン国立歌劇場音楽総監督などを歴任し、1973年にNHK交響楽団の名誉指揮者に就任。このLpレコードでのスウィトナーの指揮ぶりは、誠に正統的な演奏内容で、如何にも華やかなこの交響曲を、颯爽と指揮して、小気味いいことこの上ない。少しの力もなく、自然に演奏が進むが、内容がぎっしりと詰まっているので、聴き応え十分。要するに表面をなぞったような演奏ではなく、心からの共感を持ってモーツァルトを指揮していることが手に取るように分かるのだ。ドレスデン国立管弦楽団の演奏も一部の隙もなく、スウィトナーの描くモーツァルトの世界を忠実に再現して見せる。B面に収録されたモーツァルト:フルートとハープのための協奏曲は、フルートのエレーヌ・シェーファーとハープのマリリン・コステロを、名ヴァイオリニストだったユーディ・メニューイン(1916年―1999年)がフィルハーモニア管弦楽団を指揮をし、伴奏している珍しい録音。フルートのシェーファーは指揮者のエフレム・クルツ(1900年―1995年)夫人として知られ、ニューヨーク・フィルの首席奏者を務めていた人。ハープのコステロは、フィラデルフィア管弦楽団の首席ハープ奏者だった。ここでの演奏内容は、古き良き時代を思い起こさせる優雅な雰囲気で進められる。一人一人の演奏者が自由に伸び伸びと演奏する雰囲気が伝わってくる。特に、シェーファーのフルート演奏は絶品。これは、同曲の隠れた名録音と言っていい。(LPC)

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