チャイコフスキー:弦楽セレナード
リスト:交響詩「前奏曲」
シベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」
指揮:アナトール・フィストゥラーリ(チャイコフスキー:弦楽セレナード)
アンタール・ドラティ(リスト:交響詩「前奏曲」/シベリウス:悲しきワルツ)
管弦楽:ロンドン交響楽団
チャイコフスキーが弦楽セレナードを作曲したのは、1880年、40歳の時だった。その頃、チャイコフスキーは、メック夫人から年金を贈られていた時で、夫人宛に「弦楽セレナードは、私の内部からの衝動によって作曲しました。私は、この曲が芸術的価値を持っていると確信しています」と書き送ったほどの自信作であり、1882年に初演された時も聴衆から支持されている。現在でもクラシックの曲の中でも人気の高い曲の一つとなっている。このLPレコードで指揮をしているアナトール・フィストゥラーリ(1907年―1995年)は、ウクライナのキエフ出身。シャリアピン・オペラ協会、モンテカルロ・ロシア・バレエ団の指揮者を歴任し、1943年から1年間、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めた。1948年、イギリス国籍取得。フィストゥラーリは、とりわけバレエ音楽の指揮にその能力を発揮したことで知られる。このLPレコードでも、そんな経歴がしのばれるように、チャイコフスキー:弦楽セレナードを都会的に、スマートに指揮する。ロシア的な泥臭さをとりわけ強調することはなく、ひたすらチャイコフスキーの美しいメロディーを奏で続ける。全体が軽快で、それこそバレエの音楽のような舞踏性が大きく前面に打ち出され、伸び伸びとした印象を強く受ける演奏内容だ。そのためか、第2、第3楽章では、フィストゥラーリの指揮の特徴が曲の流れにマッチして、何とも優雅な雰囲気が生まれている。次の曲は、リスト:交響詩「前奏曲」、それにシベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」。以上の2曲を指揮しているのが、ハンガリー出身の名指揮者アンタル・ドラティ(1906年―1988年)である。ハンガリーとドイツで指揮者として活躍した後、1947年にアメリカ合衆国に帰化。フィルハーモニア・フンガリカの初代名誉総裁、ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、 ワシントン・ナショナル交響楽団の音楽監督などを歴任したが、とりわけデトロイト交響楽団を世界的水準に戻すなど、オーケストラ・ビルダーとしての才能が高く評価された。このLPレコードでのリスト:交響詩「前奏曲」の指揮は、彫の深い、説得力のある表現に終始し、聴いていて思わず耳が吸い寄せられる程の名演だ。シベリウス:劇付随音楽「悲しきワルツ」も凄味のある指揮ぶりだ。この曲は、死の幻に誘われて、病床から起き上がった女性が躍る不気味なワルツだが、その雰囲気が濃厚に表現され尽くされる。(LPC)