ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲
アンネン・ポルカ
皇帝円舞曲
ラデツキー行進曲
ワルツ「美しき青きドナウ」
トリッチ・トラッチ・ポルカ
ワルツ「ウィーンの森の物語」
指揮:フェレンツ・フリッチャイ
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
LP:ポリドール MH 5011
ワルツは、オーストリアの山岳地方の民族舞踏レントラーを都会化したものであるが、広く普及した背景にフランス革命があるという。1789年7月14日のバスチーユ陥落以後は、それまでの宮廷の音楽であるメヌエットに替わり、情熱的でしかも官能的なワルツがもてはやされたようである。しかも、時の宰相メッテルニッヒは、ウィーンの市民が踊りにすべてを忘れて、革命に思いを致すことを防ごうとした。政治と音楽、一見何のかかわりもないように見えて、実は水面下では深い関係にあるという一例である。もともと、オーストリア人は舞踏が大好きだったようで、オーストリア軍がナポレオンとの戦いに苦戦していた時でも、一晩にウィーンで踊る人数は5万人、実に人口の4分の1がダンスホールに押し寄せたというから驚きだ。その後、ヨーゼフ・ランナーの書いたワルツが人々を魅了した。一方、シュトラウスⅠ世は、全欧で演奏旅行してワルツを世界的なものにして行く。そして、いよいよシュトラウスⅠ世の息子のシュトラウスⅡ世の登場となる。登場のきっかけは、1857年にウィーン市の城壁が撤去され、広大な環状道路が建設され、ウィーンが近代都市へと発展を遂げたことにあった。シュトラウスⅡ世のワルツは、それまでのワルツとは異なり、交響曲的構成を持ち、大編成の管弦楽として装いを一新したのである。今では、毎年1月1日にウィーン楽友会ホールで繰り広げられる演奏会が世界へ向け中継され、オーストリアのワルツを全世界に知らしめている。このLPレコードは、そんな歴史を持つオーストリアのワルツの中でも、一際光彩を放っているヨハン・シュトラウスⅡ世の有名なワルツとポルカのアルバムである。演奏は、フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)指揮ベルリン・フィル。フェレンツ・フリッチャイは、ハンガリー出身の名指揮者で、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場の音楽監督などの要職を歴任したが、白血病を発症し、49歳で生涯の幕を閉じた。通常、フリッチャイの指揮ぶりは、求心力のある力強いもであるが、このLPレコードでのフリッチャイのは、ほどよい求心力を持ち、半分はオーケストラに任すような指揮ぶりで、これがかえっていい結果を生んでいる。ここでは、フリッチャイ独特の背筋をぴんと張ったような、清々しい演奏が演じられ、しかもリズム感は、これ以上のものは求められないと感じられるほどの絶妙さを秘めている。フリッチャイが残した録音の中でも、このLPレコードは、会心の一枚ではないかと思う。(LPC)