★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのバッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番/第1番/2つのヴァイオリンのための協奏曲

2021-03-25 09:43:04 | 協奏曲(ヴァイオリン)

バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番/第1番
    2つのヴァイオリンのための協奏曲

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング(指揮・第1ヴァイオリ)
       ペーター・リバール(第2ヴァイオリ)

管弦楽:ヴィンタートゥール音楽院合奏団

録音:1965年3月27日~28日、スイス、ヴィンタートゥール

発売:1977年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) PL‐1028

 ヘンリク・シェリング(1918年ー1988年)は、ポーランド出身で、その後メキシコに帰化した世界的な名ヴァイオリニスト。パリ音楽院に入学し、ジャック・ティボーなどに師事。1937年、同校を首席で卒業する。第二次世界大戦中は、ポーランド亡命政府のために通訳を行う一方で、連合国軍のために慰問演奏も行った。この時、メキシコシティにおける慰問演奏がきっかけで同地の大学に職を得る。さらに、1946年にはメキシコ市民権も取得。暫くは教育活動に専念していたが、メキシコ・シティで大ピアニストのアルテュール・ルービンシュタインと出会い、ルービンシュタインの勧めで再びヴァイオリニストとしての活動の道を歩み始めることになる。このLPレコードでシェリングは、バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番/第1番と2つのヴァイオリンのための協奏曲を演奏し、同時に指揮も行っている。バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番は、バッハの死後、一時バッハの作品が忘れ去られた時でも、この曲だけは演奏されたという根強い人気を誇るヴァイオリン協奏曲である。作風が近代的感覚であり、独奏楽器の個性が生かされ、メロディーも豊かなところが好かれたようである。バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番は、第2番に次いで今でも人気のある作品。バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲は、それまでの合奏協奏曲の流れをくむ作品であるが、さらに発展させ、独奏部と合奏部が互いに絡み合い、合奏部が独奏部の伴奏をするという合奏協奏曲を一歩進めた様式が特徴。特に、その第2楽章は“美しい姉妹の仲睦まじい語らい”とも称され、その美しい調べが印象に残る作品。この3つのバッハのヴァイオリン協奏曲でのシェリングの演奏は、内面を重視した演奏に終始する。それによりバッハの精神性の深さを、リスナーは思う存分聴くことができる。全体がゆっくりと安定したテンポで演奏されるので、一つ一つの音が実に明瞭に聴き取れるのだ。これら3つの曲は、通常、速いテンポで、歯切れよく演奏されることがほとんど。このため、バッハの音楽が持つ本来の美しさを聴き取ることがなかなか難しい。それらに比べると、このLPレコードでのシェリングの演奏は、一つ一つのフレーズを、じっくり吟味しながら弾き進めるので、その全体像がリスナーの目の前にくっきりと浮かび上る。このLPレコードは、ヘンリク・シェリングが単に技巧だけで演奏するヴァイオリニストでなく、深い精神性を持った“魂のヴァイオリニスト”であったことを如実に物語っている。(LPC)

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