★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇マグダ・タリアフェロのサン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」/シューマン:「謝肉祭」

2020-09-10 09:41:28 | 協奏曲(ピアノ)

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」
シューマン:「謝肉祭」

ピアノ:マグダ・タリアフェロ

指揮:ジャン・フルネ

管弦楽:コンセール・ラムルー管弦楽団

録音:1953年4月23日~24日(サン=サーンス)/1953年3月16日~17日(シューマン)

発売:1975年

LP:日本フォノグラム PC‐1570

 これは、サン=サーンスとシューマンのピアノ作品を、ブラジル出身のフランスの名ピアニストであったマグダ・タリアフェロ(1893年―1986年)が演奏したLPレコードである。マグダ・タリアフェロは、アルフレッド・コルトーなどに師事したほか、フォーレに要望されてその演奏旅行にしばしば同行したという。これらで分かるように、フランス作品を得意としていたが、一方ドイツ・ロマン派にも優れた演奏を聴かせていたことは、このLpレコードから十分に聴き取れる。ベートーヴェンのピアノ協奏曲の全曲演奏でパリ楽壇の話題を集めたこともあったという。このほか、近・現代音楽の理解者でもあったようだ。英、仏、伊、西、ポルトガル語の5か国語に堪能でもあった才女であり、全盛時代はスーパーレディーとして脚光を浴びる存在であった。1969年には来日も果たしている。1曲目は、サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」。サン=サーンスは、フランスの作曲家であり、同時にピアニスト、オルガニストとしても活躍した。このピアノ協奏曲第5番「エジプト風」は、当時61歳だったサン=サーンスがピアノ独奏を受け持って初演が行われた。何故「エジプト風」と付けられたかというと、当時、カイロでこの曲を作曲したためである。第2楽章を聴けば分かるが、エキゾティックな情緒が濃く出ており、中間部では、サン=サーンスが聴いたナイル川の土人の舟歌に題材を得たという部分が現れる。そのほかにガムランを思わせる響きもある。ここでのタリアフェロの演奏は、第1楽章と第3楽章では、実に生き生きとリズムを刻む一方で、時として優雅な雰囲気も漂わせ、流石は得意のフランスものの演奏であることを納得させられる内容となっている。この曲のハイライトである第2楽章は、力強くもエキゾチックな雰囲気を巧みに醸し出し、リスナーを引き付けてやまない。ジャン・フルネ指揮コンセール・ラムルー管弦楽団の、優美さを際立たせた伴奏も光る。2曲目のシューマン:「謝肉祭」は、タリアフェロの持つ技巧的高さを証明するような安定感ある演奏内容である。曲は、当時、シューマンが思慕を抱いた男爵令嬢の生地のASCHをあてはめた21の小品からなる。多彩な謝肉祭を幻想的に表現したドイツ・ロマン派の雰囲気が横溢する作品だ。タリアフェロは、1曲1曲を、あたかもリスナーに物語を聞かせるように弾き進む。文学と音楽が融合したシューマンの作品らしい特徴を、巧みに捉えた演奏内容だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ピエール・ドゥーカンのフランク:ヴァイオリンソナタ/グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番

2020-09-07 09:36:27 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

フランク:ヴァイオリンソナタ
グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番

ヴァイオリン:ピエール・ドゥーカン

ピアノ:テレーズ・コシュ

LP:ビクター音楽産業(ΣRATO) ERA‐1052

 これは、全部で4枚分のLPレコードしか残さなかったフランスのヴァイオリンの“幻の名手”ピエール・ドゥーカン(1927年―1995年)のフランクとグリーグのヴァイオリンソナタのLPレコードである。ドゥーカンは、ヴィルトゥオーソ風というより、フランス風のセンスの良いヴァイオリン演奏が特徴であり、同時に、一度聴きだすとぐいぐいと引き込まれるような求心力を備えたヴァイオリニストであった。フォーレのヴァイオリンソナタは、1958年度「ADFディスク大賞」を受賞し、当時一躍その名が世界に知られた。以前、タワーレコードからCD3枚組(ラヴェルのヴァイオリン作品集、フォーレのヴァイオリンソナタ2曲、フランクのヴァイオリンソナタ、ルーセルのヴァイオリンソナタ第2番、グリーグのヴァイオリンソナタ第3番、シューマンのヴァイオリンソナタ2曲など主にフランスもの録音)が発売されていた。ドゥーカンは、パリに生まれ、1946年にコンセルヴァトワールを卒業。1955年「エリザベト王妃国際コンクール」第3位、1957年「パガニーニ国際コンクール」第2位という実績を持っている。「パガニーニ国際コンクール」では、アッカルドが同位であったという。アッカルドはその後、“パガニーニ弾き”ということで世界的な名声を得ることになるが、ドゥーカンは、名声に対しては無欲であった上に、あまりレコーディングもせずに、専らパリ音楽院んで後進の指導に当たったという。多くの日本人もドゥーカンの指導を受けたようだ。このLPレコードでのドゥーカンのフランク:ヴァイオリンソナタの演奏は、いぶし銀のような滋味あふれるその演奏内容に、思わず引き寄せられてしまう。このヴァイオリンソナタは、曲そのものがストイックな側面を持っているが、そんな曲想にドゥーカンのヴァイオリンは実によく合う。曲の内面に向かって深々と突き進んで行く、その集中力が凄い。しかし、ドイツ・オーストリア系ヴァイオリニストとは違い、フランス出身のヴァイオリニストであるピエール・ドゥーカンは、行きつくところまで行ってしまうのではなく、絶妙なタイミングで、さらりと何気ないような雰囲気をつくり出す。全曲を通して音楽が流れるように進み、淀みはない。一方、グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番は、曲の持つダイナミックスさを巧みに表現することに成功している。フランクのヴァイオリンソナタに比べ、透明感のある演奏内容であり、このヴァイオリンの名手の、それぞれの曲に対する洞察力の確かさに納得させられる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇若き日のピリスのモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第27番

2020-09-03 09:39:03 | 協奏曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第27番

ピアノ:マリア・ジョアオ・ピリス

指揮:アルマン・ジョルダン

管弦楽:ローザンヌ室内管弦楽団

録音:1977年6月、スイス、エバランジュ劇場

発売:1978年

LP:RVC ERX‐2382

 モーツァルトのピアノ協奏曲第20番は、1785年に完成したニ短調のピアノ協奏曲である。モーツァルトは、短調のピアノ協奏曲としてもう一曲第24番ハ短調を作曲している。これらの2曲のピアノ協奏曲に共通しているのは、暗く、激しい感情の吐露であり、それ以外のピアノ協奏曲が概ね快活で、明るい雰囲気に包まれているのとは正反対の性格を有している。この作品は、1785年2月10日に完成された翌日に初演されたというから驚きだ。それだけ当時のモーツァルト切羽詰まっていたということであろうか。一方、第27番のピアノ協奏曲は、最後のピアノ協奏曲となった作品で、1791年1月5日に完成した。この頃のモーツァルトは、莫大な借金を抱え、しかも、聴衆がモーツァルトの音楽に以前ほど興味を示さなくなった頃であり、これらによりモーツァルトは絶望の淵に立たされていた頃の作品である。そんな時、普通の作曲家なら作品自体も暗く、苦悩に満ちたものなるはずだ。ところが、出来上がった作品はこれとは全く逆で、堂々として、明るく前向きなピアノ協奏曲となり、現在、モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも1、2を争う人気作品となっている。正に天才の成せる至芸と言わざるを得ない。このLPレコードで、これら2曲のピアノ演奏を行っているのは、マリア・ジョアオ・ピリス(マリア・ジョアン・ピレシュ、1944年生まれ)は、ポルトガル出身のピアニストで、現在はブラジルに在住し、しばしば来日し、その優れたた演奏を日本の聴衆に披露していたが、2017年に引退表明を行った。第20番のピリスの演奏は、極端に肩に力を入れることなく、モーツァルトの短調のほの暗い世界をさりげなく描き切る。そのピアノの音はどこまでも透明で、こんこんと湧き出る泉のような感覚に包まれている。いつか聴いたようなモーツァルトだなと思い起こしてみたら、クララ・ハスキルによく似た雰囲気を漂わせていることに気が付いた。自然の流れに沿ったその演奏の底には、強力な説得力も秘めていることが、聴き進めるに従ってだんだんと分かってくる。一音一音をかみしめるようにゆっくりと演奏するピリスの演奏を聴いていると、モーツァルトの孤独な魂そのものが目の前に浮かんでくるかのような錯覚に陥る。一方、第27番のピアノ協奏曲のピリスの演奏は、優雅さがとりわけ強く印象に残る。ピリスは、ここでもいたずらにスケールを大きくとった演奏は微塵もみせない。淡々とした表情の中に、時折見せる陰が実に美しい佇まいを見せる。何か室内楽を聴いているような、しみじみと心に沁みわたる感覚の演奏だ。(LPC)

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