★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルのブルックナー:交響曲第9番

2023-10-16 09:43:20 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第9番(原典版)

指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:日本グラモフォン LGM‐1133

 このLPレコードには、“歴史的名盤”という記載があるだけで、録音日の記載が無く、渡辺 護氏もライナーノートに「このレコードはいつ頃の録音か明らかでないが」と書いている(宇野功芳著「フルトヴェングラーの全名演名盤」<講談社+α>によると1944年10月7日に行われた演奏会のライヴ録音)。普通ならそのような録音は、今、無理に掘り起こす必要もなさそうであるが、このLPレコードだけは別格だ。確かに最初にこのLPレコードを聴くと、現在の録音レベルからすると相当貧弱な音しか聴こえてこない。しかし、暫く聴いているとそんな音質の貧弱なことなぞ、何処かへ飛んでいってしまい、一切気にならなくなり、ブルックナーの最後の大作である交響曲第9番が放つ、深遠なオーケストラの響きに、リスナーは釘付けとなること請け合いだ。このLPレコードを聴いた後では、果たして録音の音質の良さ、悪さとは一体何なのだろう、とさえ考え込んでしまう。それだけ、この録音におけるフルトヴェングラーとベルリン・フィルの意気込みは、他のブルックナー:交響曲第9番の録音を遥かに凌駕している。この交響曲第9番は、未完で終わっており、第4楽章はスケッチが遺されているのみ。ブルックナーは、第4楽章が未完なことが気になっていたらしく、代わりに「テ・デウム」を演奏することを指示したという。このため、演奏会では、交響曲第9番に続けて「テ・デウム」が演奏されることがある。この交響曲を作曲中にブルックナーは「愛する神に捧げるつもりで」と書いており、自分の死期が近いことを悟っていたようだ。それだけにこの交響曲は、全体が緊張感に包まれ、聴くだけで疲れてしまうほど、内容の限りなく深い作品に仕上がっている。第1楽章<荘重に、神秘的に>、第2楽章スケルツォ<活発に、快活に>、第3楽章アダージョ<荘重に>からなる。フルトヴェングラーはこの曲をディオニュソス的(陶酔的、創造的、激情的)に演奏しており、この結果として深い感動をリスナーに与えることになる。フルトヴェングラーはドイツ・ブルックナー協会の総裁を務めるほどブルックナーに傾倒していたが、「この音楽の言葉の敬虔さ、深さ、純粋さは、一度体験したことのある人にとっては、もはやそれから逃れることのできぬものである」とも語っている。この録音は、この言葉を忠実に音で再現したような、極めて深い内容を持つ優れた演奏となっている。(LPC)


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