★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ピエール・ドゥーカンのフランク:ヴァイオリンソナタ/グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番

2020-09-07 09:36:27 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

フランク:ヴァイオリンソナタ
グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番

ヴァイオリン:ピエール・ドゥーカン

ピアノ:テレーズ・コシュ

LP:ビクター音楽産業(ΣRATO) ERA‐1052

 これは、全部で4枚分のLPレコードしか残さなかったフランスのヴァイオリンの“幻の名手”ピエール・ドゥーカン(1927年―1995年)のフランクとグリーグのヴァイオリンソナタのLPレコードである。ドゥーカンは、ヴィルトゥオーソ風というより、フランス風のセンスの良いヴァイオリン演奏が特徴であり、同時に、一度聴きだすとぐいぐいと引き込まれるような求心力を備えたヴァイオリニストであった。フォーレのヴァイオリンソナタは、1958年度「ADFディスク大賞」を受賞し、当時一躍その名が世界に知られた。以前、タワーレコードからCD3枚組(ラヴェルのヴァイオリン作品集、フォーレのヴァイオリンソナタ2曲、フランクのヴァイオリンソナタ、ルーセルのヴァイオリンソナタ第2番、グリーグのヴァイオリンソナタ第3番、シューマンのヴァイオリンソナタ2曲など主にフランスもの録音)が発売されていた。ドゥーカンは、パリに生まれ、1946年にコンセルヴァトワールを卒業。1955年「エリザベト王妃国際コンクール」第3位、1957年「パガニーニ国際コンクール」第2位という実績を持っている。「パガニーニ国際コンクール」では、アッカルドが同位であったという。アッカルドはその後、“パガニーニ弾き”ということで世界的な名声を得ることになるが、ドゥーカンは、名声に対しては無欲であった上に、あまりレコーディングもせずに、専らパリ音楽院んで後進の指導に当たったという。多くの日本人もドゥーカンの指導を受けたようだ。このLPレコードでのドゥーカンのフランク:ヴァイオリンソナタの演奏は、いぶし銀のような滋味あふれるその演奏内容に、思わず引き寄せられてしまう。このヴァイオリンソナタは、曲そのものがストイックな側面を持っているが、そんな曲想にドゥーカンのヴァイオリンは実によく合う。曲の内面に向かって深々と突き進んで行く、その集中力が凄い。しかし、ドイツ・オーストリア系ヴァイオリニストとは違い、フランス出身のヴァイオリニストであるピエール・ドゥーカンは、行きつくところまで行ってしまうのではなく、絶妙なタイミングで、さらりと何気ないような雰囲気をつくり出す。全曲を通して音楽が流れるように進み、淀みはない。一方、グリーグ:ヴァイオリンソナタ第3番は、曲の持つダイナミックスさを巧みに表現することに成功している。フランクのヴァイオリンソナタに比べ、透明感のある演奏内容であり、このヴァイオリンの名手の、それぞれの曲に対する洞察力の確かさに納得させられる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇グリュミオー&ハスキルの名コンビによるモーツァルト:ヴァイオリンソナタ選集

2020-07-13 09:33:51 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

モーツァルト:ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 K.378
                 ホ短調 K.304
                 ヘ長調 K.376
                 ト長調 K.301
                 変ロ長調 K.454
                 イ長調 K.526

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

ピアノ:クララ・ハスキル

LP:日本フォノグラム(フィリップス・レコード) SFL‐9662~63

 このLPレコードは、ヴァイオリンのアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)とピアノのクララ・ハスキル(1895年―1960年)の名コンビによるモーツァルト:ヴァイオリンソナタ選集である。ジャケットを見ると晩年のクララ・ハスキルの姿が大きく配置され、アルテュール・グリュミオーの姿は見えない。これはこのLPレコードが、“クララ・ハスキルの遺産”というシリーズの第4集に当たるため。それに、モーツァルトのヴァイオリンソナタは、当時の一般的な傾向として、ヴァイオリンソナタという名前は付いているが、実際にはヴァイオリンとピアノが対等か、あるいは、ピアノが主役でヴァイオリンが伴奏役に回ることも珍しくない。このLPレコードのライナーノートで、小石忠男氏は「ハスキルとグリュミオーの個性はかなり違いがあり、普通ならこれほど美しい二重奏は成立しなかったのではないかと思われる」と書いている。これを見て私は一瞬目を疑った。しかし、よく考えてみると、小石氏の言わんとすることを理解できた。アルテュール・グリュミオーは、フランコ・ベルギー楽派の正統的な後継者である。フランコ・ベルギー楽派は、ヴァイオリンを輝かしく響かせ、美しい旋律を優雅に演奏するスタイルをとる。つまり、演奏効果が常に外向きであり、きらびやかさが身上である。これに対し、クララ・ハスキルのピアノ演奏は、精神性の高いもので、どちらかというと演奏効果は、内向きになる傾向がある。普通、そんな二人がコンビを組んでも良い効果は出にくいと思われる。しかし、ハスキルとグリュミオーのコンビは、それが逆に作用し、互いの特徴を一層際立たせる効果をもたらす。そのことは、二人が一番知っていることを、このLPレコードを聴くとよく分かる。このLPレコードは、全部でモーツァルト:ヴァイオリンソナタ6曲が2枚に収録されているが、いずれの曲も甲乙を付け難いほど完成度の高い演奏内容となっている。ある意味で、モーツァルト:ヴァイオリンソナタ演奏の決定版的な録音であり、このコンビを上回ることは至難の技と言えよう。しなやかに歌うように奏されるグリュミオーのヴァイオリンを、ハスキルのピアノがやさしく見守るように、限りなく美しも流麗に弾かれ、二人の演奏は、聴いていて時が経つのも忘れそうになる。グリュミオーは、来日時のインタビューで「あなたの一番好きなレコードは」と問われ、即座に「ハスキルと共演したモーツァルトのヴァイオリンソナタ」と答えたそうである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ワレーズ&リグットによるシューマン:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

2020-06-29 09:48:18 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

シューマン:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

ヴァイオリン:ジャン・ピエール・ワレーズ

ピアノ:ブルーノ・リグット

発売:1975年

LP:キングレコード SLA 6013
 
 シューマンは、全部で3曲のヴァイオリンソナタを作曲している。それらの曲は、このLPレコードに収録されている第1番と第2番、それにシューマンが第2楽章と第4楽章を作曲したFAEソナタである。FAEソナタのFAEとは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の初演を行ったことで後世に名を残すことになったヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒム(1831年ー1907年)のモットーであった「自由だが孤独に(Frei aber einsam)」に基づいて書かれたためで、シューマンのほかに第1楽章がディートリヒ、第3楽章がブラームスが担当して作曲された。いずれのヴァイオリンソナタも、シューマンの最晩年の1850年代に書かれている。シューマンは、“室内楽の年”や“歌の年”などのように、一つのジャンルの曲を集中的に作曲する傾向があったが、遺作のヴァイオリン協奏曲を含め、差し詰め最晩年は“ヴァイオリンの年”とでも言えようか。第1番と第2番のヴァイオリンソナタは、いずれも1851年の秋に作曲された。第1番のヴァイオリンソナタは、3つの楽章からなる比較的短い曲であるが、豊かなメロディーがロマンティックな効果を上げている曲であり、特にヴァイオリンとピアノのバランスが良く書かれた愛すべき作品。第2番は、4つの楽章からなる堂々とした本格的なヴァイオリンソナタ。ヨアヒムはこの第2番を同時代の中で最も優れた曲と高く評価したという。このLPレコードで演奏しているのは、ヴァイオリンがジャン・ピエール・ワレーズ、ピアノがブルーノ・リグット。ジャン・ピエール・ワレーズは、1939年にフランスで生まれる。1957年「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝を果たす。1965年にフランスの若手演奏家によって結成されたフランス室内合奏団のリーダーとなったほか、パリ管弦楽団のコンサートマスターも務めた。ブルーノ・リグットは、1945年パリ生まれ。「ロン=ティボー国際コンクール」での優勝経験を持つが、名ピアニストであったサンソン・フランソワの唯一の弟子であったことでも知られる。このフランスの若きコンビによるシューマは、実に繊細で、優雅な雰囲気を持った演奏内容となった。第1番の演奏では、もともと愛らしい性格を持っているこの曲を、一層愛らしさが増したかような雰囲気を醸し出している。一方、第2番の演奏は、背筋をピーンと張ったかのように適度の緊張感を伴った演奏内容になった。いずれも、ドイツ人の演奏家とは一線を画したような、繊細な演奏ぶりであり、これらの曲から新鮮な一面を引き出すことに成功している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのバルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

2020-04-20 09:35:11 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

ピアノ:アレキサンダー・ザーキン

録音:1967年3月22日(第1番)、1968年11月27日(第2番)、ニューヨーク

LP:CBS/SONY 18AC 774
 
 名ヴァイオリニストであったアイザック・スターン(1920年―2001年)は、生まれはウクライナであるが、生後間もなく家族と共にサンフランシスコに移住したので、アメリカのヴァイオリニストとして知られている。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年にデビューを果たす。以後、アメリカを代表するヴァイオリニストとして国際的に活躍。一方では、スターンは、教育者としても実績があり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンなどを育てた。1960年には、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際、救済活動に立ち上がったり、映画「ミュージック・オブ・ハート」などに出演したりと、幅広い活動でも知られていた。わが国でも数多くのファンに恵まれ、日本国政府より勲三等旭日中綬章を授与されている。このLPレコードは、バルトーク:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番を収録したもの。バルトークは、ヴァイオリンソナタ第1番を1921年(40歳)、翌1922年(41歳)に第2番を書いた。バルトークは、最初、民俗音楽へ深く傾斜して作曲活動をスタートさせたことはよく知られているが、そんなバルトークが新境地開拓を目指して作曲したのがこの2曲のヴァイオリンソナタなのである。つまり、民俗音楽から、抽象的な絶対音楽へと自らを昇華させた、その始まりの曲の一つと言える。当時のクラシック音楽の潮流は、マーラーやリヒアルト・シュトラウスなど調性音楽を巨大化させた流れと、シェーンベルクに代表される12音音楽や無調性音楽の二つの流れが存在していたが、バルトークは12音音楽への傾斜を見せていた。つまり、バルトークは2つのヴァイオリンソナタを、新境地開拓というチャレンジ精神で作曲したことになる。さらに、この2曲のヴァイオリンソナタは、ピアノがヴァイオリンの伴奏に徹するのではなく、ヴァイオリンとピアノが対等な立場で演奏されるという、新しい試みの曲でもあった。このため、この2曲は、ベートーヴェンなどのヴァイオリンソナタの印象とは大きくかけ離れ、現代音楽そのものを聴くような感覚に捉われる。そのためどちらかというと一般的には“難解”な曲の部類に入るかもしれない。そんな曲をヴァイオリンのアイザック・スターンとピアノのアレキサンダー・ザーキンは、実に丁寧に心を込めて弾きこなし、この2曲からバルトーク独特の音楽性を引き出すことに成功している。2曲とも何回か聴くうちに、バルトーク特有の美意識が徐々に理解できてくる、不思議な美しさを持ったヴァイオリンソナタだ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヴァイオリンの名手ヘンリック・シェリングのヴァイオリン・リサイタル

2020-02-17 09:44:48 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

~シェリング・ヴァイオリン・リサイタル~

ルクレール:ソナタニ長調
グルック:メロディー
ヴィタリ:シャコンヌ
ロカテルリ:ラビリンス
バルトーク:ルーマニア民族舞曲
ドビュッシー:レントより遅く
ノヴァチェック:常動曲
ブラームス:ハンガリー舞曲第17番
マロキン:メキシコの子守歌
リムスキー=コルサコフ:熊蜂の飛行

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

ピアノ:チャールズ・ライナー

発売:1975年

LP:日本フォノグラム(PHILIPS) PC‐1518(SR‐90367)
 
 このLPレコードは、“シェリング・ヴァイオリン・リサイタル”と題されたヘンリク・シェリング(1919年―1988年)のヴァイオリン独奏によるアルバムである。ヘンリク・シェリングは、ポーランドの首都ワルシャワで生まれ、同国の世界的ヴァイオリンの大家フーベルマン()1882年―1947年)に見い出され、ベルリンに留学。さらにファランスに渡りフランス音楽をマスターした。これにより、シェリングは、スラヴ系、ドイツ系、さらにはフランス系を一体化した奏法を完成させ、真に国際的感覚を備えたヴァイオリニストであった。1933年にソリストとしてデビュー。第二次世界大戦中は、連合国軍のために慰問活動を行ったが、メキシコシティにおける慰問演奏を行った際に、同地の大学で教職を得ると同時に、1946年にはメキシコ市民権も得た。そして暫くは教育活動に専念したが、1954年、ニューヨークにおけるデビュー演奏が高い評価を得て、それ以後、活発な国際的な演奏活動を展開した。このLPレコードのライナーノートで藁科雅美氏が「ヘンリック・シェリングはヴァイオリンの大家で、現在この人と比べられる名手は、アメリカのアイザック・スターン、チェコのヨゼフ・スーク、ベルギーのアルテュール・グリュミオーぐらいなものです」と書いているように、当時の人気は絶大なものがあった。このLPレコードでは、シェリングは10曲の小品を録音している。ただ、A面の最初の曲、ルクレール:ソナタニ長調だけは小品というにはもったいない本格的ヴァイオリンソナタである。ルクレール(1697年―1764年)は、後期バロックのフランスのヴァイオリニスト兼作曲家。最初は舞踏家としてデビューし、最後は暗殺されるという数奇な人生を送った。作曲家としては、フランスのヴァイオリン音楽に多大な影響を与えたソナタや協奏曲を残している。このニ長調のソナタは、全12曲からなる「通奏低音つき独奏ヴァイオリンのためのソナタ・第4集」(作品9)の中の第3曲で、4つの楽章からなり、終楽章の「タンブーラン」は、しばしばそれだけでも単独で演奏されることがある。このLPレコードでのシェリングの演奏は、実に丁寧に1曲、1曲を愛情をもって弾いていることが、リスナーにひしひしと伝わってくる。シェリングのヴァイオリン演奏の偉大さは、単にスラヴ系、ドイツ系、フランス系という枠を越えて、真摯な態度で真の音楽の追究に身を捧げたことにると思う。これは、そんなシェリングの演奏のエッセンスが、ふんだんに込められたLPレコードなのである。(LPC)

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