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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ミッシャ・エルマン ヴァイオリン愛奏集

2023-08-24 09:48:36 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ミッシャ・エルマン ヴァイオリン愛奏集~

マスネー:タイスの冥想曲
アレンスキー:セレナード
シューマン:トロイメライ
キュイ:オリエンタル
ドリーゴ:花火のワルツ
サラサーテ:チゴイネルワイゼン
シューベルト:アヴェ・マリア
ドヴォルザーク:ユモレスク
ゴセック:ガヴォット
ショパン:夜想曲変ホ長調
シューマン:予言鳥
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
チャイコフスキー:メロディ

ヴァイオリン:ミッシャ・エルマン

ピアノ:ジョセフ・セーガー

発売:1980年

LP:キングレコード(VANGUARD) SLL 1010

 これは、かつて“エルマントーン”と謳われ、熱烈なファンを持っていたミッシャ・エルマン(1891年―1967年)が、1958年12月10日に行われた、“エルマン・アメリカ・デビュー50周年記念コンサート”を飾るために録音・発売されたLPレコードである。ミッシャ・エルマンは、南ロシアのタルノーイェで生まれた。オデッサ王立音楽学校を経て、12歳でペテルブルグ音楽院に学ぶ。1904年にベルリンでデビューを果たし、この時“神童の出現”としてセンセーションを巻き起こした。さらに1908年には、ニューヨークへ渡る。エルマンは、小柄で、手が大きい方ではなく、指も短かったそうで、大曲をヴィルトオーソ風に弾くよりも、このLPレコードに収められているような小品を弾く方が、その本領を発揮したようである。このLPレコードからも充分に聴き取れるが、官能的でその明るいその響きは、一度聴くと耳に残って離れない。ビブラートを存分に利かせたその奏法は、独特なものであり、何かジプシーの音楽を彷彿とさせるものがある。よく演歌などで使われる「こぶし」にも似た奏法なのである。つまり音から音へ移る間に挟みこむ「節(メロディー)」を、ここぞとばかりに多用して聴衆の心をわしづかみして離さない。これが“エルマントーン”の正体なのであるが、これはミッシャ・エルマンが弾くから様になるわけであって、同じことを他のヴァイオリニストがやったら醜悪なものになりかねないだろう。ミッシャ・エルマンのヴァイオリン奏法は、純粋で、聴衆に少しも媚びることはなったからこそ、熱烈な支持を受けのだと思う。それだけ、その背景には正統的な音楽があった、ということにも繋がる。そんな“エルマントーン”を聴きながら、「エルマンの前にエルマンなし、エルマンの後にエルマンなし」というフレーズがふと脳裏をかすめる。このLPレコードの最初の曲は、マスネー:タイスの冥想曲。マスネーが1894年に発表した歌劇「タイス」の第2幕の第1場と第2場の間に演奏される間奏曲である。「宗教的瞑想曲」と題されており、ヴァイオリンにより旋律が歌われるために、独奏曲として演奏されることが多い。そして、このLPレコードの最後の曲は、チャイコフスキー:メロディ。この「メロディ」は、数少ないチャイコフスキーのヴァイオリン独奏用の曲の一つで、1878年に作曲された「なつかしき思い出」(作品82)という3曲からなるヴァイオリンのための曲集の最後の曲。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ヨセフ・スークのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」/第5番「春」

2023-08-03 09:41:14 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
        ヴァイオリンソナタ第5番「春」

ヴァイオリン:ヨセフ・スーク

ピアノ:ヤン・パネンカ

発売:1974年5月

LP:日本コロムビア(SUPRAPHON) OP‐7048‐S

 このLPレコードは、ヴァイオリンのヨセフ・スーク(1929年―2011年)とピアノのヤン・パネンカ(1922年―1999年)の名コンビによる名演奏を聴くことができる、恰好の録音である。ヨゼフ・スークは、チェコのプラハ生まれのヴァイオリニスト。祖母はドヴォルザークの娘、祖父は同名の作曲家でヴァイオリニストのヨゼフ・スークという恵まれた音楽環境に生まれ、幼い頃から英才教育を受け天賦の才能を開花させていった。プラハ音楽院と音楽アカデミーを卒業後、ソロ、室内楽、指揮にも活躍。ボヘミア・ヴァイオリン楽派に属するヨセフ・スークのヴァイオリン演奏は、端正で、美しい音色が特徴である。決して人工的な装飾をするようなことはせずに、流れるように歌うようなそのヴァイオリン奏法は、一度聴くと強い印象をリスナーに与えずにはおかない。音色の美しいヴァイオリニストは、往々にして、演奏内容はというと希薄になりがちだが、スークに限ってはそのようなことは微塵もなく、一本筋の通った確固たる信念で曲の真髄に迫る演奏には迫力を感じる。そのヨセフ・スークも既に他界してしまい、寂しい限りである。しかし、このLPレコードを含め、多くの録音を遺してくれたことは、今となってはリスナーへのまたとない贈り物になっている。一方、ピアノのヤン・パネンカは、チェコ、プラハ生まれ。プラハ音楽院とレニングラード音楽院で学ぶ。1951年の「スメタナ国際コンクール」で第1位を獲得、注目を集めた。1972年にはベートーヴェンのピアノ協奏曲の演奏で国家賞を受賞している。ヤン・パネンカは ピアノ演奏の技巧については、超一流の腕を持っていたが、現役時代はソリストというより室内楽の一員としての存在感が強く感じられた。その意味でもヨセフ・スークとコンビを組むとその力を遺憾なく発揮し、現にこのLPレコードを聴くと、スークとの相性の良さが強く印象に残る。ヤン・パネンカは、ヴァイオリンのヨセフ・スーク、チェロのヨゼフ・フッフロと3人でスーク・トリオを結成し、数多くの録音も残している。このLPレコードでのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」の演奏は、スークとパネンカの持つ特徴が遺憾なく発揮されており、聴き終わると端正な奥深さに加えて、清々しい印象を強く受ける。ヴァイオリンソナタ第5番「春」は、「クロイツェル」以上に成功した演奏内容と言ってもよく、文字通り“春”の香りが匂い立つような名演となっている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ルーマニアの名ヴァイオリニスト ローラ・ボベスコ ヴァイオリン小品集を弾く

2022-09-26 11:13:30 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ローラ・ボベスコ 珠玉のヴァイオリン小品集~

ラフマニノフ:ヴォカリーズ
コレルリ:テンポ・ディ・ガヴォッタ
ヴィニャフスキー:伝説曲
パラディス:シチリア舞曲
サラサーテ:サパテアード
ラフ:カヴァティーナ
グルック:ガヴォット
ヴュータン:夢想
フォーレ:アンダンテ
ラモス:ガト(アルゼンチン舞曲)

ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ

ピアノ:セルジュ・ベマン

LP:テイチク(IPGレコード) KUX-3191-PG

 ローラ・ボベスコ(1921年―2003年)は、ルーマニア出身の名ヴァイオリニスト。1934年にパリ音楽院に入学し、わずか12歳でヴァイオリン科の1等賞をとり人々を驚かせたという。1937年「イザイ・コンクール」(現「エリザベート王妃国際音楽コンクール」)で金賞を獲得し、以後、世界的に名が知られるようになる。特にフランスの作曲家の曲の演奏では、他の追従を許さない名演を聴かせた。音色は独特のまろやかさに溢れ、その気品のある高雅なヴァイオリン演奏は、ひと際日本で多くのファンを持っていた。日本においては、日本の熱烈なファンの後押しがあったことによって、彼女のLPレコードの発売が実現されたほどでもあった。このLPレコードでは、そんなローラ・ボベスコが、愛すべき不滅の珠玉ような小品が収録されており、これらの名曲を彼女の優雅なヴァイオリン演奏で聴くことができる。今となっては誠に貴重な一枚なのである。ローラ・ボベスコは、ルーマニアのクラヨーヴァの生まれ。ジョルジェ・エネスクやジャック・ティボーの薫陶を受ける。第二次世界大戦中は、ルーマニアに帰国して演奏活動を続けた。戦後はフランスのピアニスト、ジャック・ジャンティと結婚して夫婦でデュオを組む。またベルギーに活動の本拠を移し、1958年には、「ワロニー王立室内管弦楽団」を設立。1962年から1972年までブリュッセル王立音楽院とリエージュ音楽院の教授職を兼務して後進の指導にも当たった。また、1990年には「弦楽四重奏団のアルテ・デル・スオノ」を結成。そして、アンセルメ、ベーム、クリュイタンス、クレンペラー、ミュンシュほか、数多くの名指揮者たちと共演の経験を持っている。このLPレコードのライナーノートにおいて濱田滋郎氏はローラ・ボベスコの演奏について次のような文章を書き残している。「ローラ・ボベスコのヴァイオリン演奏は、音色といい、表現といい、高雅な中に何とも言えず優しい情感、そして秘めた情熱の豊かさを感じさせる。この小品集リサイタルでも、最初の『ヴォカリーズ』からして、肉声に勝るほど、あたたかな歌が聴かれる。パラディスの『シチリア舞曲』など、春浅い日のつつましいロマンスを想わせるこの旋律が、いかにふさわしく奏かれていることであろう。サラサーテでは、衰えのない技巧の冴えと、スペイン気質のあざやかな把握がうれしい。そしてフォーレの優美さは、2つの『ソナタ』の新録音を心から待望させずにおかない」(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ローラ・ボベスコのモーツァルト:ヴァイオリンソナタ第37番/第38番/第41番

2022-07-11 09:45:54 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第37番
       ヴァイオリンソナタ第38番
       ヴァイオリンソナタ第41番

ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ

ピアノ:ジャック・ジャンティ

録音:1981年1月

LP:テイチク(LIBERO RECORD) KUX-3212-L

 ローラ・ボベスコ(1921年―2003年)は、ルーマニア出身の女性の名ヴァイオリニスト。パリ音楽院で学び、15歳でベルギーの「イザイ・コンクール」(世界3大コンクールの一つ「エリザベート国際コンクール」の前身)で優勝した実力者であった。また、コンセール・イザイを主宰し、仏伊の古典音楽の権威者でもあった。ベルリン・フィルの女性ゲスト・ソリストとして最多の出演回数を誇るほどの当時人気のヴァイオリニストの一人として活躍した。演奏内容は、フランス風の上品な雰囲気が身上であり、女性ヴァイオリニスト特有の優雅な演奏は、多くのファンを魅了して止まなかった。その繊細で端正な演奏内容は、特に日本人好みでもあったようだ。しかし、一方では、その演奏内容には一本筋の通った力強さも秘められていた。そんな経緯で、当時の日本の一部の熱烈なファンが中心になり、来日公演を実現させたのだと聞く。このLPレコードは、そんなローラ・ボベスコがピアノのジャック・ジャンティ(1921年―2014年)と組んだ、モーツァルトのヴァイオリンソナタの録音のシリーズの第1集である。第37番と第38番のヴァイオリンソナタは、妻のコンスタンツェのピアノでモーツァルトが楽しんでヴァイオリンを弾くために作曲したとされる。第41番のソナタは、歌劇「フィガロの結婚」作曲中につくられた作品で、モーツァルトのヴァイオリンソナタ中の傑作の一つとされる曲。ボベスコのヴァイオリンは、あくまで優雅にしかも艶やかにモーツァルトらしい世界を披露しており、満足させられる。同時に毅然とした力強さを内に秘めた演奏内容が、一際リスナーの印象に残る。このLPレコードのライナーノートで中村稔氏はボベスコの演奏を「特級品のモーツァルト演奏」と紹介しているが、あたかも当時のボベスコブームの熱気がジャケットから伝わってくるようだ。ピアノ伴奏のジャック・ジャンティは、フランス・パリ出身。パリ音楽院で、ラザール・レヴィにピアノ、シャルル・ミュンシュに指揮法を学び、両方でプルミエ・プリを獲得。1948年にローラ・ボベスコと結婚してデュオ活動を行った。ボベスコとは10年ほどで離婚したが、離婚後もボベスコの伴奏を中心に音楽活動を行った。このLPレコードでもジャック・ジャンティは、モーツァルトのヴァイオリンソナタの優雅な世界を巧みにピアノ伴奏して、ローラ・ボベスコのヴァイオリン演奏の価値をより一層高めることにものの見事に成功させている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇アルテュール・グリュミオーのヴァイオリン名曲集

2022-07-04 09:40:27 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~ヴァイオリン名曲集~

クライスラー:愛のよろこび/愛の悲しみ/美しきロスマリン
モーツァルト:メヌエット
マスネー:タイスの瞑想曲                   
ドヴォルザーク:ユーモレスク                
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
シューマン:トロイメライ
モーツァルト(クライスラー編):ロンド
シューベルト:セレナード
アルベニス(クライスラー編):タンゴ
フォーレ:夢のあとに     
ドヴォルザーク:わが母が教えてくれた歌
シューベルト:アヴェ・マリア

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

ピアノ:イストヴァン・ハイデュー

録音:1973年、アムステルダム

発売:1977年

LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード) PL-23

 私は「クラシック音楽がどうして好きなのですか?」問われたら、昔はむきになって、ベートーヴェンが如何に素晴らしいかを喋り、シューベルト、ブラームス、シューマン、ショパンなどあらゆる作曲家の名を挙げ、そしてそれらの名曲について語ったものだった。しかし、今同じ質問が来たら、多分何も答えず、アルテュール・グリュミオーの弾く、このLPレコードの最初の3曲「愛のよろこび」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」を聴いてもらうことになるのではないかと思う。何故かというとグリュミオーの弾くヴァイオリン演奏には、クラシック音楽の持つ美しさが凝縮され、しかも誰が聴いても分りやすいからだ。それにクライスラーが作曲したこれらの曲は、郷愁にも似た感情を、聴いたものすべての者に抱かせることができる、不朽の小品だからでもある。「百聞は一見に如かず」という言葉があるが、グリュミオーの弾くヴァイオリン演奏を聴くと「百聞は一聴に如かず」という思いが自然に湧き上がってくるほどだ。これらの3曲を含んで、このLPレコードに収められたグリュミオーの演奏の素晴らしさは、筆舌に尽くしがたいものがある。グリュミオーの弾くヴィブラートはヴァイオリン演奏史上最も美しいと称される。自然なボウイングでヴァイオリンを奏で、そこから紡ぎだされる音は珠玉のように美しい。フランコ=ベルギー楽派を代表する大ヴァイオリニストなのである。アルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)はベルギーの出身。シャルルロワ音楽学校を経た後に、ブリュッセル王立音楽院で学ぶ。その後、パリに留学してジョルジュ・エネスコに師事している。第二次世界大戦後、その名は不動なものとなり、世界的な名声を得るようになる。特に、ピアニストのクララ・ハスキルをパートナーに迎えての演奏活動は、当時の多くの聴衆を魅了した。グリュミオーは音楽界への貢献が認められ、1973年に男爵に叙爵されている。美を極限まで追求したグリュミオーのようなヴァイオリン演奏は、LPレコード特有の柔らかくも温かみのある音質によって聴くことで、はじめてその真価が聴き取れるのである。その意味でこのLPレコードは貴重な存在である。そしてピアノのイストヴァン・ハイデュー(1913年―?)との絶妙なコンビを書き落とすとしたら、片手落ちになろう。イストヴァン・ハイデューはハンガリー・ブタペスト出身。1957年にオランダに移住し、その翌年からグリュミオーの常時の共演者を務めた。(LPC)