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TPPの裏側にある為替条項と外貨準備損失問題

2015年04月30日 09時48分34秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

                   

         「植草一秀の『知られざる真実』」

                          2015/04/29

 TPPの裏側にある為替条項と外貨準備損失問題

          第1134号

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日本の主権を損なうTPPの正体は、

強欲大資本の強欲大資本による強欲大資本のための経済統制メカニズム

である。

米国を根城とする強欲大資本は、日本市場を強奪するために、日本をTPPに
引き入れようとしている。

日本では、安倍晋三自民党が2012年12月の総選挙で、TPPについて、
6項目の公約を明示した。

http://goo.gl/Hk4Alg

TPP交渉参加の判断基準

1 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。

2 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。

3 国民皆保険制度を守る。

4 食の安全安心の基準を守る。

5 国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。

6 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

これが、安倍晋三自民党が明示した選挙公約である。

そして、安倍晋三自民党は、選挙に際して、


ウソつかない!

TPP断固反対!

ブレない!

日本を耕す!!自民党


と大書きしたポスターを貼り巡らせた。

その安倍晋三氏が、選挙から3ヵ月後の2013年3月15日に、TPP交渉
に参加することを表明した。

そして、いま、TPP参加に前のめりの姿勢を示している。

しかし、このTPPには、ISD条項が盛り込まれている。

ISD条項について、安倍晋三自民党は、

「国の主権を損なうようなISD条項は合意しない」

と明記したのである。

どこが、

「ウソつかない!」

自民党なのか。

このポスター自体が大ウソではないか。

民主主義の根本原則を踏みにじる勢力が日本政治を支配している。

「世も末」とはこのことを指す。



安倍晋三氏が米国議会での「スピーチ券」を購入するために支払った国益は計
り知れない。

TPP交渉での「全面譲歩」と引き換えに「スピーチ券」を手にしたのだと見
られている。

「売国行為」と言われて反論のしようがないだろう。

米国議会が大統領に強い権限を付与するTPA法案を可決すると、TPP交渉
が妥結に向けて大きく動く。

ただし、安倍氏と米国の取引があからさまに表面化しないように、日米の大筋
合意のタイミングは先にずらされる。

TPP交渉が妥結して、日本がTPPに参加することになれば、日本国民は取
り返しのつかない損失を蒙ることになる。

ひと言でいえば、日本社会が米国社会に変質することになる。

米国にあこがれる人がいるかも知れないが、米国社会は決して人々を幸福にす
る社会ではない。

堤美果さんの

『沈みゆく大国 アメリカ』(集英社新書)

http://goo.gl/3G7Bfp

などを読めば、米国の実態がよく分かる。

ひとにぎりの富裕層にとっては天国だが、多数の一般国民にとっては地獄であ
る、

というのが米国の実態である。

病気になったときに、金持ちでなければ十分な医療を受けられない国になる。



このTPP交渉が大詰めを迎えるなかで、重大な問題が改めてクローズアップ
されている。

「為替条項」

である。

この問題が意味するところは極めて大きい。

この問題が絡み合って、TPP交渉の妥結が頓挫する可能性もある。

願わくは、この条項が絡んで、TPP妥結が頓挫することが望ましい。



「為替条項」の問題は、米国では当初から大きな問題として取り上げられてき
た。

TPPに為替操作を禁止する条項を盛り込むべきであるという主張だ。

TPPで関税を取り払っても、関税以上の為替変動が生じれば、関税撤廃など
意味を失う。

したがって、政府による人為的な為替レート操作を禁止する条項を盛り込めと
いう主張なのだ。

2012年11月の野田佳彦氏と安倍晋三氏による党首討論をきっかけに、日
本の金融市場では、円安と株高が急激に進行した。

日本の金融市場では、ここ10年来、

「円安になると株価が上がる」

という関係が示されてきた。

安倍政権の発足と連動して、急激な円安が進行し、この円安に連動して日本株
価の急騰が生じた。

この円安=株高の発生により、安倍政権が軌道に乗ってしまったのである。

円安進行の主因は米国の金利上昇にあったが、安倍政権が金融緩和による円安
誘導を意図したことは間違いない。

「円安誘導」

という言葉が用いられたことは紛れもない事実である。

円安は日本の輸出製造業にとっての福音である。

円安によって輸出製造業の業績が急激に改善し、これに連動して輸出製造業の
株価が急騰。

これが株価全体の急騰を牽引した。



2012年11月から2013年5月にかけての円安が、

日本の円安誘導政策

を背景にしていることは間違いない。

ただし、TPPに関連して設定が求められている「為替条項」において対象と
されるのは、政府自身による為替市場への介入であり、この定義に照らすと、
2012年11月から2013年5月の円安進行は、「為替操作」には当たら
ないと理解されている。

なぜなら、この時期のドル買いの主役に、日本政府は含まれていないからであ
る。

2012年11月以降の円安進行のメカニズムは次のものだ。

日銀が「量的金融緩和」によって、「銀行」から大量の日本国債を買い取る。

日銀に保有日本国債を買い取ってもらった銀行は、その資金で米国国債を大量
に保有してきた。

つまり、日本政府が直接米国国債を買うのではなく、日銀が銀行から日本国債
を買い、銀行が米国国債を買う形で、円安=ドル高が進行してきたのである。



しかし、日銀の「量的金融緩和」が実行される際に、その目的に「円安誘導」
が置かれていたことは間違いない。

現に、安倍晋三氏が、その種の発言を繰り返していたのである。

しかし、その後、アベノミクスの説明から、

「円安誘導」

の言葉が消えた。

その背景に、TPP交渉があった。

米国で、TPPに「為替条項」を盛り込むべきだとの主張が一気に強まったか
らである。

これを意識して、安倍政権は

「円安誘導はしていない」

との見解を、統一見解にしたのである。

それまで公言していた「円安誘導」の言葉を封印したのだが、現実に、量的金
融緩和を実施する大きな目的のひとつに「円安誘導」が置かれていたことは紛
れもない事実である。



これから何が起こるのか。

極めて重要であり、かつ、多面的な広がりを持つ問題であるから、要約するの
は難しいが、あえて、ポイントを絞って提示しておこう。

第一のポイントは、TPP交渉への影響だ。

米国議会が、TPA法案成立の条件に「為替条項」盛り込みを主張し、これが
通る場合、TPP妥結は大幅に遅れることになる可能性が高い。

TPP交渉参加国の基本姿勢としては「為替条項」に反対する空気が強い。

米国のFRBも「為替条項」に反対している。

金融政策の対応が「為替条項」に抵触してくる可能性があるため、金融政策の
自由度を確保するために「為替条項」に反対するのである。

また、日本などは、1.3兆ドルの外貨準備を保有しているが、この1.3兆
ドルは、円高=ドル安を人為的に防ぐために、ドル資産を買った、その累積で
ある。

「為替条項」が盛り込まれると、今後は為替介入ができなくなる可能性が高
い。

こんな事情から、「為替条項」への抵抗が強いのが実情であり、米国のTPA
法案可決が、TPPへの「為替条項」盛り込みと引き換えということになる
と、TPA法が成立しても、肝心のTPP交渉の妥結が遠のく可能性が高まる
のである。

TPPを阻止することを求める立場からすれば、TPA法の可決と引き換えに
「為替条項」が盛り込まれることが望ましい。



第二のポイントは、ドル円相場への影響である。

一般には、ドル高を見込む市場観測が強いが、ドル円相場を巡る情勢が微妙に
変化し始めている点を見落とせない。

黒田日銀は、2年間でインフレ率を2%まで引き上げると豪語していたが、2
年たって、日本のインフレ率は0%である。

岩田規久男という人物は、

「インフレ率が2%にならなかったら副総裁を辞任する」

と国会で明言したにもかかわらず、副総裁の椅子にしがみついている。

このような厚顔無恥の人物が金融政策を司る最高幹部に居座っているのだか
ら、日本の金融政策運営に対する信用は、ほぼゼロにまで低下している。

為替レートへの影響については、

『金利・為替・株価特報』

http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html

に詳述してきているが、ドル円相場を巡る情勢に重要な変化が観測され始めて
いる点に強い留意が求められている。



第三のポイントは、日本政府が過去に購入した米国国債の処分の問題だ。

日本政府は1.3兆ドルものドル建て資産を保有している。

2007年6月を起点に計算すると、152兆円の国民資金を投入している。

ところが、過去の急激な円高で、円換算金額が、2012年1月には98兆円
にまで減少してしまった。

54兆円という巨額損失が発生したのである。

その損失が、過去2年半の円安で解消した。

しかし、ドルが高いうちにドル資産を売却しなければ、いつまた巨額損失に逆
戻りするか分からない。

ドル資産を売ることは「円安誘導」ではなく、円高要因になるから、いわゆる
「為替条項」に抵触するものにもならない。

安倍首相が、日本国民の利益を軸に行動するなら、いまこそ、日本政府保有の
米国国債を全額売却するべきである。

その検討も示さず、主権者との公約を踏みにじってTPPに突進する安倍政権
は、日本の主権者が一刻も早く、退場に追い込まなければならない。

 

 



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