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『恐怖劇場アンバランス』円谷プロが描く大人向けの恐怖

2010年09月28日 | 特撮


心臓の弱い方、お一人でご覧になる方は、この恐怖劇場アンバランスはご遠慮ください。

『恐怖劇場アンバランス』(1973放映・円谷プロ)コンプリート。円谷プロ制作の恐怖ドラマのオムニバス。1時間もののTVシリーズですね。
円谷プロの1時間ものというと『マイティジャック』(1968年放映)を思い出しますが、僕の感覚だと『マイティジャック』は1時間番組として尺の取り方がかなり冗長だった印象があります。大人向きのSFスパイドラマを目指して制作され、相当な予算が投入された…と言われる『マイティジャック』ですが……って、長くなるので、この話は『マイティジャック』の話をする機会の時にとっておきましょうw

話を戻すと、ちょっと冗長だな…と感じた『マイティジャック』の時と比して、『恐怖劇場アンバランス』の完成度はかなり高い。この作品、1973年放映ですが制作は1969年頃で、ちょうど『マイティジャック』が終わったあたりで、そのリベンジのような意気込みを感じずにはいられない所があります。もっとも、この成果は“外”の実写畑の監督を引っ張ってきた事が大きいのですけどね。下に記載しますが、相当な顔ぶれです。

…で、Wikipediaを眺めてみると放映順ではなく制作順が記述されていたので、ちょっと思う事がありまして戯れにその順番で並べてみようと思います。

制作No.サブタイトルスタッフゲスト
1墓場から呪いの手脚本-若槻文三
監督-満田かずほ
 
2吸血鬼の絶叫脚本-若槻文三
監督-鈴木英夫
 
3 死体置場(モルグ)の殺人者 脚本-山浦弘靖
監督-長谷部安春
野坂昭如
4 蜘蛛の女 脚本-滝沢真里
監督-井田深
 
5 死骸(しかばね)を呼ぶ女 脚本-山崎忠昭
監督-神代辰巳
 
6 仮面の墓場 脚本-市川森一
監督-山際永三
ひろみ
7 死を予告する女 脚本-小山内美江子
監督-藤田敏八
 
8 猫は知っていた 原作-仁木悦子『猫は知っていた』
脚本・監督-満田かずほ
 
9 殺しのゲーム 原作-西村京太郎『殺しのゲーム』
脚本-若槻文三
監督-長谷部安春
 
10木乃伊(みいら)の恋 原作-円地文子『二世の縁 拾遺』
脚本-田中陽造
監督-鈴木清順
大和屋竺
11地方紙を買う女 原作-松本清張『地方紙を買う女』
脚本-小山内美江子
監督-森川時久
監督補-満田かずほ
 
12夜が明けたら 原作-山田風太郎『黒幕』
脚本-滝沢真里
監督-黒木和雄
 
13サラリーマンの勲章 原作-樹下太郎『消失計画』
脚本-上原正三
監督-満田かずほ
 

※ゲストについて僕がちょっと面白いな…と思う人をピックアップしました。『仮面の墓場』の少女役って声優の鶴ひろみさんみたいですねえ…。鶴ひろみさんなんだあ…。

いやぁ、監督務めているのが長谷部安春とか、鈴木清順とか、藤田敏八とか、けっこう凄いです…wさて、ここから内容知っている事前提(知らない方には申し訳ないですが)で話を進めて行きますが、この『アンバランス』、最初の数話は、それなりに“特撮”を使うようなシナリオが組まれているんですが、次第に“特撮色”が抜けて行き、最後の方は特撮を全く必要としない社会的なサスペンスものになっている事が分かります。
シナリオで見るとそのシフトはより明確で、7本目まではオカルト/怪奇な恐怖を描き、8本目以降はそれこそ推理劇を伴うようなサスペンスになっている。…10本目の『木乃伊の恋』がちょっと特殊で、これは少し差し戻しているような話。これが本放映時ではシャッフルされ、偏りを軽減して放映されていたという事になります。

…まあ、何が言いたいかというと円谷プロは“大人向けの特撮ドラマ”を作る事を一つの大目標にしていたような印象があって(『ウルトラセブン』や『怪奇大作戦』の時点で既にその匂いはする)『アンバランス』はその一つの結実であったなと思うんですよね。特撮のネームバリューを持つ円谷プロと、必ずしも特撮に拘らない円谷プロ、それから大人向けドラマを作りたい円谷プロの、その絶妙な均衡でこの作品が成り立っている。
その後もいくつか円谷プロは大人向けドラマを制作はしたようなんですが、ここまでの形にならなかったし(…と思う。あんまり聞かないから)多分、ここを経てその先を目指していたと思うんだけど、そこには至れなかった……ように思います。

まあ、要するにこの作品、「もっと評価されていい」という話なんですけどねw僕がオススメするなら第4話『仮面の墓場』~閉鎖的な夜の舞台稽古が次第に崩壊して行く話~、第7話『夜が明けたら』~理不尽な傷害事件によって人生を失った男の話~でしょうか。いずれも主演の唐十郎さん、西村晃さんの鬼気迫る演技が素晴らしかった。


恐怖劇場アンバランス オリジナルBGM集
冨田勲
ウルトラ・ヴァイヴ


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やはり当初の路線が好きです (modstoon)
2010-09-28 13:43:58
お奨めされている『仮面の墓場』──── 良いですね
ああいうのを作っていたら『地球はロボットの墓場』
あんなのもシレっと作るようになっちゃった円谷プロ
『墓場から呪いの手』のプロップで見せる感覚も好きです

『~アンバランス』の直後に作った『君待てども』
http://yomoyama2298.hp.infoseek.co.jp/dorama/kimimatedomo/kimi-index.htm
これは円谷テイストのホラーで、イイ感じで怖かったように憶えています
完全に昼メロ帯ドラマですから、これは本当に〈大人向け〉ですね
小学生でしたから全部は観ていませんが、もう一度みてみたい作品ではあります
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殺しの烙印 (ロヒキア)
2010-09-28 16:51:12
『恐怖劇場アンバランス』は日活演出陣を引っ張ってきてるところが、あの辺の邦画斜陽とかアングラとかデカダンとかと合流してる、あの時代ならではの感覚だなーと。

一方で路線変更した『戦え!マイティジャック』は国際放映のスタッフが流入して、『忍者部隊月光』化していく事でスパイアクション風味が強化されていくのですなー。
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Unknown (LD)
2010-10-01 22:58:09
Re:modstoonさん

> 『君待てども』

ああ、面白そうだ~w観たいw
やっぱりそこらへんも押さえたいですよねえ。

Re:ロヒキアさん

丹波哲郎の『ジキルとハイド』も『アンバランス』と似たような境遇で、同じ時期に作られ、スポンサーから敬遠されて中々放送にこぎつけられなかったと聞きますが、近い雰囲気を感じますね。
デカダン…とでもいうんでしょうかね。外面的な怪奇、心理的な恐怖を超えて、画の歪みみたいな、狂気を垣間見せているように感じたりもします。
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