玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

鳩山民主党人気に「あの人」を思い出す

2009年05月19日 | 政治・外交
新しい民主党代表に鳩山由紀夫氏が選ばれた。ご当選おめでとうございます。
マスコミ各社の世論調査によると、世論は鳩山新代表をおおむね好意的に受け入れているようだ。「次の選挙で民主党に投票する」と答えた人の割合がはね上がっている。民主党議員と支持者、政権交代論者のみなさんはさぞお喜びのことだろう。

毎日新聞世論調査:「首相に」鳩山氏34% 麻生氏21% 衆院選「民主勝利」56% - 毎日jp(毎日新聞)
 16日の民主党代表選で鳩山由紀夫氏が選出されたのを受け、毎日新聞は16、17日、緊急の全国世論調査を実施した。麻生太郎首相と鳩山氏のどちらが首相にふさわしいかを聞いたところ、鳩山氏との回答が34%で、麻生首相の21%を上回った。次の衆院選で勝ってほしい政党の質問では民主党が56%で、代表選前の12、13日に行った前回調査比11ポイント増となり、自民党の29%の2倍近くに達した。民主党は小沢一郎前代表の公設秘書逮捕で傷ついた党のイメージを小沢氏の辞任と代表選の実施によって回復させたといえそうだ。

asahi.com(朝日新聞社):「比例は民主」38%に回復 朝日新聞緊急世論調査 - 政治
鳩山氏「期待せず」53%、民主支持31%…読売世論調査 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
鳩山新代表「期待」「期待せず」拮抗 日経世論調査 - NIKKEI NET(日経ネット)
【産経・FNN合同世論調査】投票先で民主急伸 麻生支持率は微減 - MSN産経ニュース
J-CASTニュース : 代表交代で世論調査「民主支持」躍進 でも鳩山代表には「期待できない」

鳩山新代表と民主党にケチをつける気はないが、私にはどうも世論の動きが妙なものに見える。
代表選前の世論は「岡田氏支持」の声が多かった。たぶん3:2とか2:1くらいの割合で優勢だったと思う。それなのに鳩山氏が選出されるとたちまち支持が集まる。「なんだ、小沢氏じゃなければ誰でもよかったのか」と言いたくなる。「鳩山氏と民主党は期待されているな」というより「小沢氏と自民党はずいぶん嫌われたものだ」という感じがする。

半分ネタとして(つまり半分は本気なのだが)「鳩山民主党への支持拡大は小沢氏のがんばりのおかげ」説をとなえてみよう。
賢明なる日本人、心ある有権者のほとんどは自民党の終わりなき悪政にうんざりしている。ここはどうしても民主党に政権をとらせるしかない。ところが、代表の小沢氏は「国策捜査」の標的にされて秘書逮捕の汚名をかぶせられてしまった。小沢氏の潔白に疑いはないけれど、口下手のせいで説明責任を果たしているとはなかなか認めてもらえない。このまま選挙を迎えて民主党を素直に応援できるのか。「小沢総理」が実現していいのか。いやそれは困る。
政権交代したい、でも小沢氏は困る。小沢氏は困るけれど、やっぱり政権交代は必要だ。
約二ヶ月のあいだ小沢氏が辞任せずがんばり続け、休火山のマグマのように有権者がフラストレーションをためていく。
そこにようやく小沢氏が辞任し、天下晴れて鳩山新代表が誕生した。本当は岡田氏のほうが望ましかったけれど、もうそんな細かいことを言っている場合じゃない。とにかく小沢氏がやめてくれてよかった、これで心おきなく民主党を支持できる。
「鳩山氏を総理に!」。浅間山の水蒸気爆発。本当にマグマが噴き出す大爆発になるのかどうかはわからない。

要するに、「政権交代への期待」と「小沢氏では困る」というフラストレーションの反動が鳩山民主党支持率急上昇のエネルギーになったというお話。2001年の自民党総裁選を思い出す。不人気だった森氏の後任をめぐって小泉氏と橋本氏が争い、当初は劣勢だった小泉氏が世間の小泉ブームを追い風にして勝利した。その後の長期政権はみなさんご存知の通り。
だが似ているのは「前任者の不人気」だけで、「劣勢の見込みを逆転」とか「世論の追い風が勝利の原動力」という部分はまったく違う。鳩山氏の場合はむしろ橋本氏が勝った場合に似ている。最初からグループ(派閥)の票読みで優勢だったし、世論の風はむしろ岡田氏に吹いていたのに今は勝ち馬に乗る形で鳩山氏を後押ししている。不吉な言い方をすると、小泉ブームと違って自力で起こしてつかみ取った風じゃないから、いつパッタリやんでも不思議はない。鳩山氏と民主党にとってはこれからが勝負どころだ。

世論調査に表れた「鳩山民主党への期待」はフワフワしていて、2005年から2006年にかけて存在した「安倍次期総理への期待」に似ている。今となってはなんだか信じられないが、郵政選挙の後しばらくのあいだは小泉政権と構造改革路線が広く強い支持を集め、その流れの中で安倍氏が次期総理候補として期待の的になっていた。
私は「小泉ファン」を自称しているけれど小泉内閣と構造改革路線には是々非々のつもりだったから、郵政選挙後の第二次小泉ブームには取り残された感じがした。そのなかでも「安倍人気」は特に理解できなかった。どこがいいのかわからない、と言ってしまうと酷だが(人としては別に嫌いじゃない)、当時の安倍氏が総理大臣として適格かどうか大いに疑問だった。
安倍氏は(鳩山氏も)毛並みのいいお坊ちゃんである。祖父は総理大臣で、性格的には現実主義というより理想主義者だ。なにしろキャッチフレーズが「美しい国」(「友愛」)である。キラキラして結構な言葉だけれど、なんともつかみどころがない。はたしてこういう人が有力閣僚の経験もないまま総理になっていいのか、細川の殿様の二の舞にならなきゃいいが、と心配した。
国民の期待を一身に集めた安倍氏は「選挙に勝てる総裁」として小泉氏の後継者に選ばれ、意欲的に政権を運営した。
だが残念ながら、健康問題もあって一年という短期間で政権を投げ出すハメになる。在職中から安倍氏の評価は低落し、どうやら今では安倍内閣と70%ほどもあった高支持率の存在自体が忘れられたというか「なかったこと」にされている感がある。

安倍内閣の盛衰を見ていると、まことに世論とは、支持率とはうたかたのものだと思わずにいられない。
その点「支持率に一喜一憂しない」と言い続けた小泉元総理は正しかった。鳩山民主党が高支持率に浮かれていると安倍内閣の二の舞になりかねない(いや、別に安倍氏が浮かれていたとは思わないけれど。むしろ「浮世離れしていた」というほうが近い。そういえば、鳩山氏のあだ名は「宇宙人」で浮世離れ度では安倍氏に勝るとも劣らない)。
麻生総理も「支持率にこだわらない」と言っているが、なにしろ支持率自体が低いので「負け犬の何とやら」に聞こえてしまうのが玉にキズである。

解散になるのか、任期満了を待つのかはともかく9月までには必ず衆院選挙がある。政権交代を賭けて麻生自民と鳩山民主が全力で激突するだろう。どちらが勝つにしろ負けるにしろ、日本のため国民のために正々堂々と戦ってほしい。