玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

匿名は防弾チョッキ

2008年02月08日 | ネット・ブログ論
匿名性は攻撃のためのものではない。
銃というより防弾チョッキだ。

la_causette: 匿名規制と銃規制
 日本におけるネットの匿名規制についての議論は、米国における銃の所持規制についての議論と似ています。

 但し、後者においては、「銃を所持したい人は所持する、所持したくない人は所持しないということで良いではないか。銃所持者は今後も非所持者をがんがん撃ち殺すけど」とか、「銃の非所持者が銃所持者にがんがん撃ち殺されても、一種の「有名税」として甘受すべき」とか、「銃殺されるのは銃殺される側に問題があるのであって、芸能人の悪口を言ったり、政治の話をしたりしなければ、銃殺されないはずだ」とかといった議論はさすがにしない点は、前者と大きく違っています。


小倉先生はネットの匿名規制をアメリカの銃規制に例えているが違和感がある。
アメリカには銃所持者が8000万人以上いるそうだが、銃を持たない人を「がんがん撃ち殺す」ような輩はごく僅かである。合法的に銃を所持するほとんどの人は趣味とか仕事とか自己防衛を目的としているはずだ。また合衆国憲法には民兵の存在が規定されており、市民が武装する権利の根拠となっている。
アメリカの話はこれくらいにしよう。小倉弁護士のたとえ話は(いつもそうだが)無理が多すぎる。匿名性を銃器のように攻撃的な武器とみなすのは筋が悪い。匿名によって直接的に攻撃力が上がることはないからだ。

ネットにおいて誰かを攻撃しようとする場合、悪口・批判・罵倒・中傷・脅迫が行われる。どれをとっても「匿名ならでは」のものではない。反撃を恐れなければ実名でも可能だ。たとえばこちらの騒動では池田信夫氏(実名)がたいへんアグレッシブな言論活動を展開している。匿名によって攻撃力が上がることはないのは「ネットイナゴ」という言葉が示している。

ネットイナゴとは - はてなダイアリー
ブログ(個人サイト)のコメント(投稿)欄へ一時的に、悪意のある(ネガティヴな)匿名論客が不特定多数現れる、または特定サイトからのリンクによって流れ込む様を「畑の農作物を食い散らかす"イナゴ(稲子)の大群"」の自然災害に準えた言葉。

「悪意のある匿名論客」は鬱陶しいけれど、スズメバチのように一匹でも恐ろしい存在ではない。数を頼りにしたイナゴの群れでしかないのだ。

その一方、匿名性は自己防衛のためにはとても役に立つ。まさに防弾チョッキのように。
いまはだいぶ治安が回復したようだが、数年前のバクダッドのようにどこから弾が飛んでくるかわからない場所では防弾チョッキが必要だ。何かあったとき100%の安全は得られないにしても生き延びる確率は上がる。
ネットにおける匿名性も同じである。匿名チョッキを着込んでいれば心臓を撃ち抜かれる可能性は下がる。ネットで攻撃されるとネット人格は傷つき名誉を失うが、ネット外の実生活とは切り離しておける。

匿名性という「防弾チョッキ」を着込み「自分は安全だ」と勘違いして攻撃性を高める輩がいることは否定できない。
ただしそれは本人の性格が悪いのであって防弾チョッキのせいではない。このあたりの議論はアメリカの銃規制論議でNRA(全米ライフル協会)が「銃が人を殺すのではない、人が人を殺すのだ」と主張しているのに似てくる。
なんだ、小倉弁護士の意見はそれほど的外れじゃなかったのか、という気もするが、銃と防弾チョッキを比べて「同じくらい攻撃的で危険だ」と思う人はいないだろう。世界一厳しく銃所持を規制している日本でも、防弾チョッキの所持・着用は自由である。
ちなみに、世界で最初の防弾チョッキは中世の日本で作られたそうだ。

ボディアーマー - Wikipedia
歴史
世界で最初の防弾チョッキは中世の日本において絹で作られていたものだと言われている[1]。1914年の絹の防弾ベストは800米ドル程度で高価なベストだったが、黒色火薬が用いられ発射間隔の長い銃弾を防ぐのには十分な性能であった。


防弾チョッキの能力を過信して無茶をすると馬鹿な目にあう。

なんでも評点: 防弾チョッキを試してみたくなった二人を悲劇が待っていた

防弾チョッキを手に入れたら、試してみたくなる? まあ、銃の所持が禁止されている日本の場合は試しようがないのだが、米国アイダホ州に住む二人の男性は、やっぱりその効果を試してみたかったらしい。アレクサンダー・ジョセフ・スワンディック(20)とデビッド・ジョン・ヒュース(30)の二人である。

まず最初に、ゴミ袋の手前に防弾チョッキを置き、2回撃ってみた。弾は貫通しなかった。ならば、次は「人体実験」だと考えたらしい。



アレクサンダーさんは防弾チョッキをおもむろに着用し、10歳上のデビッドさんに言った。「さあ、撃ってみて」。

ところが弾はなぜか防弾チョッキを貫通し、アレクサンダーさんの体を撃ち抜いてしまった。病院に運ばれたが間もなく死亡が確認された。

アレクサンダー・ジョセフ・スワンディック氏にはダーウィン賞を差し上げたい。