玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

靖国参拝の演出法

2006年08月19日 | 政治・外交
世論調査によれば、小泉総理の8月15日靖国参拝は国民の半数に支持されたという。

ZAKZAK:小泉ホッ…各紙世論調査で靖国参拝支持が5割超
 小泉純一郎首相(64)が行った8月15日の靖国神社参拝について、読売新聞、毎日新聞、共同通信が行った世論調査で「参拝を支持」「評価する」と答えた人が5割を超えたことが17日、わかった。16日の新聞は、朝日新聞を筆頭に産経新聞を除くほぼ全社が参拝を憂えていた。だが、世論調査によると、逆の傾向が出たことで、国民は意外と冷静に見ていたことが浮き彫りになったといえそうだ。

 3社の調査はいずれも15、16両日、電話によって行われ、それぞれ約1000人から回答を得た。

 それによると、首相の「参拝を支持する」と答えたのは読売52.6%、毎日50%、共同51.5%で、軒並み5割を超えた。「参拝を支持しない」は、読売39.1%、毎日46%、共同41.8%-だった。

 参拝支持の理由をみてみると、それぞれ最も支持が高かったのが読売「首相が戦没者を慰霊、追悼するのは当然だから」(35.1%)、毎日「戦没者を哀悼するには首相の参拝は欠かせない」(54%)だった一方、共同は56.6%が「他国によって影響されるべきではないから」と答えた。

 支持しない理由では、いずれも「中韓両国との関係悪化」と「いわゆるA級戦犯合祀」が大半を占めた。


首相の靖国参拝、「支持」53%…読売調査
 首相の参拝を「支持する」は「どちらかといえば」を合わせて53%、「支持しない」は計39%だった。

 それぞれの理由を聞いたところ、支持する人では「首相が戦没者を慰霊、追悼するのは当然」が35%で最も多く、「不戦の誓いになる」31%、「中国や韓国の反発でやめるのはおかしい」25%が続いた。

 支持しない人では、「中国や韓国との関係が悪化」41%、「A級戦犯が合祀(ごうし)されている」27%、「政教分離の原則に反する」16%の順だった。

 小泉首相は今回の参拝について、<1>中国、韓国の反発で中止するのはおかしい<2>A級戦犯ではなく、戦没者の追悼が目的<3>政教分離を定めた憲法20条違反ではなく、「心の問題」――と説明した。これについて、「納得できる」は計59%で、「納得できない」計35%を上回った。

 中国、韓国が首相の靖国参拝に強く抗議していることについて、「納得できる」は計33%、「納得できない」が計57%だった。


保守派・右翼の方々はこの調査結果に喜んでおられるようだ。
たしかに、あれだけマスコミで「8月15日靖国参拝」が批判されていたのに、いざ実行されたら以前の調査よりも支持率が上がった、というのは予想外の好結果といえる。

だが、私にはこの調査結果がこれまで「靖国神社」を支持していなかった国民が支持に変化したものとは思えない。増えたのは「靖国で慰霊してもいいではないか」という消極的な支持であり、「慰霊の場所は靖国でなければならない」という積極的な支持ではない。本質は「靖国支持」というよりも「戦没者慰霊」支持なのだと思う。
「総理は靖国に行ってはならない!」と叫び続けたマスコミと中韓の態度は偏狭とみなされ、宗教的寛容を美徳とする日本人の心に反発を生んだ。
そこのところを保守派・右翼が読み違えて「靖国原理主義」的な発言を強めるようであれば、国民はその偏狭さを嫌い「ああ、やっぱり靖国神社は慰霊の場所ではなく右翼イデオロギーの中心なのか」と失望するだろう。

世論の動きはデリケートなものだ。「靖国問題」は生活と無関係なので一般国民には実感が持てない。「靖国マニア」と「反靖国マニア」以外の国民の気持はちょっとした印象によって大きく動く。「富田メモ」のとき引き波となった世論が、参拝後には寄せ波となり支持を押し上げた。
だが、参拝のやり方が少し違っていれば、支持ではなく反発が生まれただろう。
仮に小泉総理が参拝を終えた後で靖国の群集に向け笑顔で手を振ったとする。視聴者が「なんだ、『心の問題』と言ってたくせにあからさまに政治利用してるじゃないか」と思えば参拝支持率は10%下がってもおかしくない。もし参拝後の会見を(中曽根「公式参拝」のように)靖国の境内でやっていれば、「俗事を聖域に持ち込む不敬」が嫌われただろう。
実際に官邸で行われた参拝後の会見はおおむね冷静で論理的だったと好評のようだが、同じ内容であってもヒステリックな口調、興奮した表情であれば「やましさを隠そうとして逆切れしてる」と思われ軽蔑される。
靖国参拝を「純粋な慰霊と不戦の誓い」として演出するのに失敗していれば、支持するのは熱烈な靖国支持者(と小泉信者?)だけだったろう。

今回の参拝支持の世論は小泉総理の特異なキャラクターによるところも大きい。「小泉さんならしょうがない」「あの人は頑固だから」という苦笑まじりの容認がかなりの部分を占めているはずだ。国民が認めたのは実は「小泉純一郎の靖国参拝」であって「日本国総理の靖国参拝」ではないのかもしれない。