海老蔵の「一命」が大コケだったそうな。
実は、私は見ていない。監督が監督だけに期待もしたが、前作「切腹」の陰鬱さが耐えきれず、前作とはまったく違う作品とは聞いていたものの、やはり前作のイメージに縛られてついに映画館に足を運ぶことができなかった。
さて、その海老蔵、大器は大器。そうそう現れる役者でないことは認める。が、課題も多い。特に「台詞」は、親父ほどではないにしても、30代のなんとかせねばなるまい。義太夫を一生懸命やることしかんまいのではないのか。
実は、最近再放映されたTV版「旗本退屈男」を見ていて思ったのだが、あれは原作があるとはいえ事実上右太衛門が作り上げたようなキャラクターである。後年、平幹や息子が演じたが、「御大」とはニンが違うだけにどすひても、今一つ物足りなかった。 やはり、退屈男は基本的にからっと明朗なキャラでなくてはいけない。さもなくば、特にあの「笑い」が無味なものになってしまう。
それに、あの押し出しの強い風貌は、なかなか余人をもって変え難い。息子北大路欽也が息子だけに似ているとはいえ、やはり父親のような役者絵がそのまま3Dになったようなインパクトには欠ける。
その点でいえば、海老蔵を置いて右太衛門の作り上げた退屈男の遺鉢を継げる者はいないのではないのだろうか。
顔的な押し出しは申し分なし。 せいがん崩しで構えた時などは、あの「目」が活きよう。
踊りは「プロ」であるいから、右太衛門のあの立ちまわりも海老蔵ならできるのではないか。
まあ、課題点はやはりあの「台詞廻し」だろう。あれで「直参旗本三千石・・」とやられても、見ている方はスキッともスカッともしない。むしろ欲求不満がたまってしまいそうになるだろう。
でも、一度だけでも見てみたいなあ、海老蔵の退屈男。
特に三池監督がほれ込んだように、海老蔵ありきの作品で、11月30日に『切腹』がNHKBSで放映されたが、同じ半四郎役の仲代達也よりはるかに静から動に至る台詞の巧みさ、立ち回りの見事さが目立つ。
また、お辞儀ひとつでその氏素性が知れるような品格のある所作は素晴らしい。
過去の三船敏郎の野性と森雅之の気品をないまぜにしたような個性で、これからどういう起用のされ方をされるのか楽しみです。
ただ、やはり歌舞伎役者として(まさにそこでこそあの人の本領発揮だと思うのですが)、台詞、発声の拙さは喫緊の課題ではないでしょうか。ニ代続けて台詞の・・・な成田屋では、残念です。
もう一つ、もっと素養、教養というものを身につけるべきでしょう。もう亡くなられた某大名題のような蘊蓄爺さんになれとは決していいませんが、彼の対談なんか読んでいますとやはり
そうした面の薄っぺらさが透けて見えてしまいます。
上記の2点、播磨屋なんかの姿勢に学んでほしいと思います。播磨屋のあの当代一のセリフ術も
生来のものではないのですから。播磨屋に限らずですけど。
あんな容姿と華をもった役者なんかそうそう出てくるもんじゃないですから、是非今のうちに血を吐くような精進をして、20,30年後には大きな花を咲かせてほしいものです、自称ではなく正真正銘の人間国宝として。