くまわん雑記

時々問い合わせがありますが、「くまわん」というのは、ある地方の方言です。意味はヒミツです。知る人ぞ知るということで。

靖国考 その1: 米国と靖国 (1)

2006年05月16日 | Weblog

大いなる不満はあるものの、小泉首相の靖国神社参拝を支持する立場にあるということを表明したうえで、靖国問題について拙論を述べてみたいと思う。

米国下院外交委員長ヘンリー・ハイド氏が、小泉首相の靖国神社に対して再び批判的な行動に出た。 ヘンリ・-ハイド、イリノイ州第6選挙区選出の共和党の下院議員である。1974年に初当選して以来、11期連続当選の82歳。妊娠中絶に反対するなど、共和党のなかでも保守派に属し、モニカ・ルインスキーとクリントン大統領の不倫スキャンダルでは、自身過去に不倫経験があるにもかかわらず(笑)、議会による大統領譴責支持派の主導的な役割を演じたことでも知られている。今年11月の中間選挙で改選だが、既に引退を表明している。(www.house.gov/hyde )(en.wikipedia.org/wiki/Henry_Hyde

 このハイド氏、昨年10月20日付けで、加藤良三駐米大使宛てに小泉首相の靖国神社参拝に抗議する旨の書簡を送付した。この書簡の全文は明らかでないが、同月23日、インターネットサイトOne Free Korea (freekorea.blogspot.com/<WBR>2005_10_23_freekorea_archive.html )は、その内容(の一部?)を以下のように伝えている(入手経路は不明)。

"...I feel some regret over the continued visits of Japanese government officials to the Yasukuni Shrine in Tokyo," Hyde said in his letter. He sympathizes the pain of those who lost loved ones in the war, he said. "The Yasukuni Shrine, however, honors more than these persons," he argued. The shrine honors the memory of former prime minister Hideki Tojo and other convicted war criminals who ordered the unprovoked attack on Pearl Harbor, he said. "This attack then plunged the nations of the Asia-Pacific region into four years of total warfare." "The shrine, thus, has become a symbol throughout Asia and the rest of the world of unresolved history from the Second World War and of those militaristic attitudes which spawned the War in the Pacific," he continued. . . . "Charges were brought against individuals for 'crimes against peace, conventional war crimes, and crimes against humanity.' The defendants were found guilty. This was no more victor's justice than was the judgment at Nuremberg," wrote Hyde. "While the truth of what occurred in the Second World War must and will prevail, I am concerned that a renewed discussion of history at this critical juncture will distract nations in the region from carrying out a constructive dialogue on the issues at hand," he said. "Such a result will not serve the national interest of either of our nations."

要するに、ハイド氏は以下のように主張するのである。
1.
氏は、政府関係者が繰り返し永久戦犯を合祀する靖国神社に参拝することを遺憾とする
2.靖国神社は、アジア全体のみならず全世界において、未解決の歴史問題と軍 
国主義の象徴である。
3.東京裁判はニュールンベルグ裁判同様、正当な裁判であった。
4.上記裁判における歴史問題を再び持ち出すことは、アジア諸国間の建設的対話を阻害し、それは  
日米両国の利益にならないであろう。

しかしながら、ハイド氏の靖国問題等をめぐる認識には以下のような若干の問題が含まれている。
1.アジア全体更には世界中が靖国神社における所謂「A級戦犯」の合祀を問題視している、というの
は誤解、さもなくばあまりにもあからさまな誇張である。
2.「A級戦犯」は「人道に対する罪」では有罪とはなっていない。
3.「正当な裁判」であるはずの東京裁判において、法的なものも含めた過誤が存在した。例えば、事後      
   法が適応されたり、文官である広田弘毅の経歴に公判の過程で「軍事参議官」が加えられたことや、国際法違反の「戦犯国」であるソ連の代表が裁判官席の一つを占めたこと。更にいうなれば、「勝者」が「敗者」を裁くことに国際法的根拠の脆弱性が指摘されねばならまい。日本が受諾したポツダム宣言も、戦勝国が裁くとは、一言も言っていない。
4.近年第二次大戦に関わる歴史問題を惹起したのは、日本ではなく、むしろ小泉首相の靖国神社参拝に口を挟み、外交問題化させた「一部」のアジア近隣諸国ではないのか、という反論も可能であろ   
う。見解の相違と言えばそれまでだが、ハイド氏の見方は余りにも一歩的な断じ方であり、「アジア 
諸国との建設的対話を阻害」というのも、上記2)の「アジア全体」同様、誇張のきらいがある。
  
5.小泉首相が「私的参拝」と言っている以上、ハイド氏の批判は、首相の信教の自由を否定するもの、あるいは政治的見地による信教の自由への介入であること。ましてや、米国の政治家であるハイド氏が、他国の信教の自由へ政治介入することは、政教分離に矛盾する以前に、内政干渉である。

ちなみにこの書簡に関する報道に接して筆者は、すぐさまハイド氏に対して、上記反論を含めた書簡を送ったのだが、氏自身からはおろか関係者からも何の反応が無く、完全に無視されてしまった。下院の重鎮が筆者のようなどこの馬の骨とも知れぬ外国人の書簡に一々反応するわけもないのが当然と言えば当然かもしれない。一方、911発生直後ブッシュ大統領初め政府指導者が「パールハーバー」を繰り返すのに辟易して抗議の書簡をホワイトハウスに送った際には、大統領スタッフから結構長文のメール返信があった。

筆者は、ハイド氏をして米政界における「反日」人士の一人と断定するだけの確証を得ていない。氏は、米朝関係正常化は拉致問題の解決を前提とすべきとの認識を示すなど、北朝鮮による拉致問題に関しても理解を示すと同時に、北朝鮮に対して批判的な姿勢を取ってきている。もっとも、拉致問題は氏自身が指摘しているように人権上の問題であるから、あくまでも米国の政治家として国家理念ともいべき人権思想に基づいた行動に過ぎず、拉致事件への対応のみをもってして「反日」にあらずと断定はできないのかもしれない。

事実、靖国問題に限らず歴史問題をめぐるハイド氏の対日姿勢は厳しい。上述の加藤駐米大使宛て書簡が送られた10月下旬、また小泉首相の就任以来5回目にあたる靖国参拝が行われ同月17日の3ヶ月以上前にあたる昨年7月14日、下院で「第2次世界大戦終戦60周年決議案」なるものが可決されたが、これを上程したのが、ハイド氏である。ちなみに、この下院決議も、「人道に対する罪」を東京裁判での(有罪)判決理由の一つに数えてるという事実誤認を犯している。(http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/D?c109:1:./temp/~c109Fecos4:http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/D?c109:2:./temp/~c109Fecos4::http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/D?c109:3:./temp/~c109Fecos4::)東京裁判の有罪判決を再確認するという内容を含んだこの決議案が、上院を通過しなかったことは幸いであった。というのは、東京裁判の有罪判決というからには、「A級戦犯」への判決をも含まれると考えるのが自然であり、ということは、ハイド氏は最初から靖国問題を意識どころかターゲットにして、この決議案を起草、上程したと考えても差し支えはあるまい。

ハイド氏はなぜそこまで歴史問題あるいは靖国問題に拘るのであろうか。二つの理由があるのではないかと、筆者は考える。まず一つに、ハイド氏自身の歴史認識が靖国神社の「A級戦犯」合祀と首相をはじめとした政府関係者の参拝を相容れないからではないのか。氏はフィリピン戦など太平洋戦線での従軍体験を持つ。自らが参加し勝利した日本との戦いと、その勝利に「正義」の法的根拠を与えた東京裁判の判決に対して疑義を差し挟むような行為が、かつての敵国である日本の政治指導者によって繰り返しなされることを許容できないのではないだろうか。ただ、小泉首相の靖国参拝は2001年から毎年繰り返されてきたにも拘らず、何故ハイド氏は昨年まで沈黙してきたのか。WWIIベテランとしての歴史認識だけでは説明が付かないものがある。そこで筆者は、二つめとして、ハイド氏の背後に、ある米下院外交委員会関係者の影響力が存在するのではないかと疑っているのだ。

続く

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする