ジャズとレコードとオーディオと

音楽を聴く。人によって好みが分かれるでしょうが、このブログでは主に女性ジャズボーカルを紹介させていただきます。

CHET BAKER

2008年03月22日 | ジャズ全般
PACIFIC JAZZ/PJLP-11/CHET BAKER/CHET BAKER SINGS/10inch

僕が初めてチェット・ベイカーを聴いたのは大学の一年生の時で, ジャズを意識して聴き始めてまだ一年にもなっていない頃だった。当時下宿から歩いて15分のところにある東横線の駅から渋谷に出て行って買ったのは記憶しているが店の名前は全く思い出せない。レコードは一般的にはまだ大変高価だったので、それらの中で特に安いPhonogram Jazzコレクション・シリーズの1100円(発売当初は1000円だったが後で売値が上った)は大変有難かった。いつもレコード・ショップへ行くとそのシリーズのコーナーに一番に取りついたものだ。下に写真を掲載したのが、渋谷で買ったフォンタナ(LIMELIGHT原盤)のBABY BREEZE/CHET BAKERで僕が初めて聴いた彼のアルバムだ。この中でチェットのボーカルが5曲聴けるが、僕にとっては初めて聴く中性的な声質に最初は正直とまどった。こういうボーカルも有りかという程度であまり心が動かなかった覚えがある。その後しばらくは聴く事がなかったアルバムだが、それから半年後ぐらいにあることで気持ちが滅入っていた晩に安いウイスキーを薄い水割りにしてなめる程度に飲みながら何気なくチェットのアルバムをターン・テーブルに載せて再び聴いた。最初のボーカル曲である“ボーン・トウ・ビー・ブルー”を聴いた時になんて物悲しくて暗くて陰気で黒いボーカルと思ったのだが、しばらく聴いていると気が滅入っているのは僕だけじゃなく彼も相当滅入っているんだろうなという同調的感覚になってきた。その時から不思議に彼が当時の僕の気持ちを理解してくれている友人のような存在になったのだ。その晩以来しばらくは、このアルバム内のケニー・バレルのギター伴奏で歌うYOU'RE MINE, YOUには特にはまって何回聴いたか分からないぐらい聴いた。今でもシュリンク・カバーがかかったままのアルバムだが, 盤も全く傷みなく極上の状態で聴けるのがちょっと自慢したくなるぐらいだ。

それから30年以上あとになって自由に使えるこづかいに多少は余裕が出てきた頃に冒頭の10inchを入手して聴く事ができた。チェットのボーカルは僕が学生だった頃よりももっと心に沁みてくるようにさえ感じる。この10inch盤ではどの曲も彼の持ち味が充分にでているが、僕はその中でも特に I Fall In Love Too Easily を聴くと4畳半の下宿にいるような気になる。チェット・ベイカー彼ほどもの悲しく男の心が歌えるボーカリストはいないと思う。聴く時はいつもよりボリュームを少しおとして聴くとさらに良い。10inch盤よりもフォノグラム盤の話ばかりになってしまった。