『ラン』
森 絵都
またまた走る小説です。
しかも作者は森絵都さん!!
直木賞をとられ、すっかり有名になられた森絵都さん。
『カラフル』、『宇宙のみなしご』、『つきのふね』、『DIVE!!』など
彼女の作品を中高生にぜひ読んでほしい!と思っていた私は、
もう児童書は書かれないのかなあ、と淋しく思っていました。
彼女の作品は、軽~いタッチで書かれているのに、
最後心にずしんと響きます。
気がついたら涙がとまらなかった、って、そんな感じ。
特に中高生に読んでほしいなあ、と思うのは、
主人公にたとえ紆余曲折があろうとも、ラストは前向きで、
ハートウォーミングな結末になっているからです。
たとえば、同じ中高生に人気のあさのあつこさんの作品だと、
どこか突き放したような、結末のはっきりしない終わり方が
多いような気がします。
それはそれで余韻が残り、読者がそれなりに想像したりできて
おもしろいのですが。
でも、ちょっと生きることにうんざりしているときには、
「生きるって、捨てたもんじゃないよ」って誰かが
ぽんと背中をたたいて言ってくれたら、
じゃあもう少しがんばってみようかな、
って思うことができるんじゃないでしょうか。
森絵都さんの作品はそんな感じなのです。
だから、日々の生活に嫌気がさした(?)中高生にお薦め。
いえいえ、中高生だけでなく、人生にくたびれた中年の
オジサン、オバサンにもいいですよ~(笑)
この『ラン』も、まさにそんな作品。
家族や身内を失い、限りなくあちら側に近くなった主人公環。
そんな彼女が走り出し(はじめのうちは、
あの世に近づくために走り始めたんですけどね)、
現実に生きる人たちとすったもんだがあった挙句、
走ることでしっかりこちら側で生きていけるようになる、
簡単に言うとそんなストーリーです。
ストレートに心に伝わった『カラフル』に比べて、
設定がまわりくどいなあ、とも思いましたが、
生きることに後ろ向きで、運動なんて全く縁のなかった主人公が、
フルマラソンを走り始めるにはこれくらいの動機付けが必要なのでしょう。
今までと違ってこの作品で特に(個人的に)目を引いたのは、
世間一般に嫌がられるオバサンの存在に目をつけたこと(笑)
オバサンというと、図太くて、下品で、
噂話が好きで、人の悪口で盛り上がって、たいてい悪役。
この作品でもそんなオバサンが登場し、主人公とバトルを繰り広げます。
しかし、誰だってはじめからオバサンなわけないですよね。
人生の修羅場をくぐり抜け、たくましく生きてきた女性が
いわゆるオバサンなわけです。
家族のために身を粉にして働き、
きれい事ではすまない人生で生きる知恵を身につけ、
たくましく生きてきたオバサンたち。
この作品に登場するオバサン、真知さんもそう。
姑を介護し、パートで働き家計を助け、
あちこちで人と衝突しながらも走る続けるたくましいオバサンです。
その、お互い憎み合っていた真知さんを見る主人公の目が
だんだん変わっていきます。
それは、限りなく死後の世界に近かった彼女が、
現世にだんだん比重が移っていく変化でもあるようです。
その真知さんが、最後までふてぶてしいのがいいなあ。
オバサンはそうでなくっちゃ(笑)
真知さん以外にも、ゆる~い感じのチームのメンバーは
ひとくせもふたくせもあって魅力的です
がんばっているのかいないのか、わからないところがいい(笑)
大切な人を失った者にとっては、死後の世界があるかもしれない、
と考えるのは一種の癒しかもしれません。
でも、いつまでも死んだ人にしがみついていてはいけないよ、
と、この作品は教えてくれます。
軽~いノリで書かれ、ときどき吹きだしそうになりますが、
最後はやはり泣いてしまいました。
それにしても、いくら走る小説を読んで感動しても、
一向に走り出す気にはならない私って・・・