鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

17 句歌錬金術

2018-01-20 06:41:46 | 日記
ご要望があったので、恥を忍んで我が句歌の草稿例を挙げてみよう。
私の場合、初案は殆どが稚拙なレベルで思い浮ぶ。
それを満足いくまで練り上げるのに、時には5分だが時には数年かかる。
それも失敗作の方がはるかに多い。
「錬金術は失敗しても楽しいよね!」 (ゲーム アトリエシリーズ)

(初案)---病みし眼に花みな潤む旅路かな---
花粉症や老眼でしょぼつく眼だが、ソフトフィルターがかかったように桜が綺麗に見える。
まあ、情感はあるが実体験そのままで誰にでも作れるレベル。
(次案)---老眼は夢の桜を探せる眼---
少しは面白くなって来たが、まだ語句に甘さが残る。
(完成)---老いし眼で夢幻の花を探す秘儀---
夢幻と秘儀の語調が響き、格が出て内容に不思議さも加わった。
現状の私の力量では一応完成。

こんな感じ。これで二年かかっているのが忸怩たる思いだ。
毎年花時になると思い出しては作り直していた。
初案で満足して活字に発表してしまうと、その句はそこで終わりだ。
何年でも練成を繰り返す気力と、より精妙な語彙の見通しが立たないと続かない。
こうなると案を練るより気を練ると言うべきだろう。
詩魂の錬金と言えば、ちょっとかっこいい。

詩句歌で、また作家個々でそれぞれの作風作法がある。
私の作法は意外と基本通りでつまらないかも知れない。
ことに短歌はずっと独吟独行なので、古今集時代の基本しか知らない。

(初案)---鎌倉の古き天地に咲き出でて 額紫陽花のうつつ無き色---
下の句が全然だめ。
私の歌は肝心の一語以外はすんなり出てくるが、その一語がなかなか。
(完成)---鎌倉の古き天地に咲き出でて 額紫陽花は仮の世の色---
仮の世なれば色に移ろふ。
これはぴたり嵌ったと思う。
最後の詰めの語句次第で、語順を入れ替えたり助詞を変えたりする事も多い。
この歌の結句は2~3時間後、忘れた頃にぽつっと浮かんでくれた。
短歌の入門書は中々お勧め出来る物が少ない。
殆んどが形式論と名作の列挙ばかりで、草稿や練成など実作の役には立たない。
ただ一つ古今集仮名序は是非読んでおきたい。
定家の歌論は現代でも自信を持って推奨できる。

ここまで読むと一見苦吟しているように見えるが、実は楽しく遊んでいるだけだ。
この弄くり回している過程こそが悦楽の時間なのだ。
どんな作品でも完成させる前までは、無限に良くなる可能性がある。
原稿の締め切り日さえ無ければいつまでも未完のまま弄っていたい。

©️甲士三郎