鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

13 美神の祭壇

2018-01-15 06:26:17 | 日記
---後の世に恋歌遺しうち臥せる 天つ乙女の絵姿愛(かな)し---

衣通姫(そとおりひめ)絵姿 室町時代 探神院蔵
柿右衛門徳利に榊 蒟醤香合
(衣通姫は本朝三美人の一人、禁断の恋のヒロイン、和歌の女神)

信仰心が無くとも、誰しもが何かに祈る事はある。
この幸薄き姫には無心の祈りを捧げたくなる。
美しき歌の女神のために、私だけの秘密の祭壇を作ろう。
現世利益の俗っぽい祈祷などはその辺の寺社にやらせておけ。
せめて我が女神は純粋無垢であって欲しい。
誰にも汚させは・・・・・
かくして人は女神の虜となる。

無宗教の人でも何かしら魂の拠り所は欲しい。
家宝、座右の書、尊敬する人の品、アイドル画像でも…まあ良いか。
そういった物に添えて花を飾れば則ち儀式となる。
儀式によって魂が籠り、祈りによって神が宿る。
聖なる自分だけの御神体、あるいはアーティファクトだ。
我が国は八百万も神々がいるから少し増えても誰も咎めないだろう。
壁際でも卓上でも本棚の一部でも良いので御神体を安置し、まず灯明を置く。
あとは供物、礼拝、祭、秘儀、好きに親しめば良い。
ほんの少しでも、スピリチュアルなものが生活に加わるだろう。

ヴァルキリー(戦の女神) フィギュア
厨子 江戸時代 野の花 灯明
---悴むや神前の燭ほそぼそと---
仏壇や神棚がある人はそれで構わない。
ただし他の仏教国では先祖供養や葬式仏教は鬼拝と言って、今では死者を崇めるオカルト扱いだ。
祖先崇拝はどちらかと言えば儒教の風習である。
釈迦に墓は無いし、輪廻転生、解脱、いずれの場合も祖先の魂は仏壇にはいない。
祖先よりも神仏に対する真摯な信仰心無しでは、己が魂は浄化しないだろう。
昔から何かを飾ったり祀ったり、行事祭事全てに対応できたのは床の間だ。
生活様式の洋風化で床の間が消え、家庭から儀式や行事が消え、人から高貴さ厳粛さが消えた。
皆さんも正月くらいは精神性の高い物を飾って欲しい。

高浜虚子短冊 東山静かに羽子の舞ひ落る(句集では落ちる) 探神院蔵
正月飾り(安物) 李朝燭台

©️甲士三郎