鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

160 猫神様の御帰還

2020-09-24 13:26:00 | 日記

長年行方不明だった猫神様が納戸の奥の闇から御帰還された。

さっそく他の猫様方と御対面。


(左 木彫猫像 東南アジア 1819世紀頃)

向って左がこの度お帰りになった猫神様で、中央が李朝染付の虎猫様、右は以前紹介した江戸時代の猫神様。

10年以上も見当たらなかったのが、納戸の大掃除でやっと見つかったのだ。

きっと納戸の奥が異世界につながっていて、そちらの世界を旅して来たのだろう。

今度行く時には私も連れて行ってもらおう。


荒庭の昔の縄張を巡視………


露草が殊の外お好きなようで何よりだ。

朝露に濡れるのも厭わず、精力的に領内を視察している。

久しぶりなので今日一日は私もお供して好きな所を巡ろう。

涼しくなって連れ立っての散歩が楽しい。


露草伝いに以前お気に入りだった庭木の窪みに御鎮座なさった。


流石に最古参の貫禄で、樹と同化しつつ辺りを睥睨する姿も様になる。

今後は行方不明にならぬよう、仕舞い込まずに常に見える所に飾りたい。


おまけでもう一つ古い猫像。


幕末から明治頃の作で、織部水滴の眠り猫だ。

現代のコミックアートのような顔つきで、首に鈴を付けていて可愛らしい。

緑の織部釉の部分が焦茶色の鉄釉になっている物もあり、そちらの方が猫らしいのだが当然人気があって高価だ。


10月になったらまた猫じゃらしを沢山とって来て、お猫様祭りでもしよう。


©️甲士三郎


159 酒神の祭典

2020-09-17 13:41:00 | 日記

隠者にとって果糖類は毒にも等しいのに、また今年も例の友人が大量の葡萄を送って来た。

仕方無いので恒例の葡萄とワインの神ディオニッソス(ローマではバッカス)の収穫祭だ。


中央奥が古代ギリシャ時代のコインやメダリオンで組んだ酒神のイコノグラム。

食器類はイギリスアンティークのピューターブラス類(洋食器はこれしか持っていない)だ。

古代〜中世の雰囲気を出すには後世の色絵磁器は使えない。


料理の出来は雑誌やSNSの写真に到底敵わないが、精神面ではアーティファクト(聖遺物)やアンティークで印象深い祭典を味わえる

混沌と狂気を象徴するディオニッソス神は、ギリシャ神話の中でも隠者の好きな神である。

上の写真のイコノグラムから、古代レリーフの一部をお見せしよう。


上段中央が美男のディオニッソスでその裏が葡萄のレリーフ。

左右は妖精(ニュムペー)で下段右が酒杯(スキュポス)左が魔杖(テュルソス)などで、酒神の楽園を蘇らせた。

隠者はこんな感じで神話世界に入り込んで楽しんでいる。

古代のコインを集めるにも図像学神智学などの知識があると、神話世界を再構築する目安となって面白い。


酒神には申し訳ないが、私が飲めるのは薬用酒一杯だけだ。


血糖の呪いで量を飲めない代わりに、薬用なれども味覚にはこだわった。

ピコンはナポレオン軍御用の薬用酒で、竜胆の根の深いこくが特徴だ。

酒好き諸賢のアペロにもお薦めできる。

残った葡萄は家人隣人達も血糖値を気にしてあまり食べないので、半分以上は廃棄せざるを得ない。

また小鳥に餌をやるのも鎌倉市では禁止なので、如何ともし難い。


©️甲士三郎


158 聖遺物の探求

2020-09-10 13:54:00 | 日記

隠者は長年ギリシャローマの聖遺物を探し求めて来たが、ようやく先日ネットオークションで女神像の頭部残欠を落札した。

出品者がガンダーラと言っていたので価格が上がらず、幸運にもこの隠者如きの手許金で入手出来たのだ。


このテラコッタの小像は、私が調べた限りではローマ時代のオリエント方面(イラク辺り)の属州の作で地母神か豊穣神だと思う。

ヘレニズムの形態感を残した品の良い造形で、古代のそこそこの良家の小祭壇に置かれていたタイプだ。

さっそくワインを御供えし古代世界の夢幻に浸りながら、美しきローマの女神と晩餐会だ。

BGMはローマ神殿の巫女が奏でる竪琴のような、リリー・ラスキンのハープ曲集がぴったりだろう。


次は古の錬金術師が身に付けた妖精の指輪だ。


いわゆるローマングラスの指輪で、古代のガラスが長い年月をかけて地中で銀化した物だ。

写真ではわかりにくいが、光線の角度によって虹色の奥に4枚翅の妖精の影が揺らめいて見える。

台座を見ると後世の1718世紀頃に指輪に仕立てられたようだ。

ルネッサンス期の錬金術師達がこの手の古代装身具を好んで収集したと聞く。

隠者にとっても宝石より遥かに価値が高い。


最後はもう何度目かでお馴染みのハーミットレリーフ。


古びた小屋に散らかった書物や巻物、壁に掛かったよれよれのコートと帽子、窓辺で歌う小鳥。

これこそ正に隠者の御手本とする生活だ。


このように古代遺物は夢幻界に入る鍵となり、また己れの精神領域を古今東西に広げてくれる。

今はネットのおかげで自室に居ながら楽に入手出来るようになったので、興味のある方は是非お試しあれ。


©️甲士三郎


157 秋気の花籠

2020-09-03 13:42:00 | 日記

立秋から処暑白露と暦は進むものの、8月はひたすら猛暑が続くばかりだった。

本稿も9月は涼しげな話題にしたいので、エアコン頼りの室内なれどもせめて秋の彩りを並べるのだ。

秋気を感じさせる古籠を納戸から出し、花屋と我が荒庭で秋の花や草を集めて来よう。

ーーー秋の野の明るさ老いの身の軽さーーー


(山越篭 幕末〜明治時代 織部マグカップ アロンサイス作)

秋野の草花には竹編みの花籠が良く似合う。

より一層野趣を高めるには洗練された作家物より魚篭や山仕事に使った古籠を使えば、眼裏に昔の野山の景まで浮んでくるだろう。

珈琲の器も秋らしい色に変え、冷えた室内で秋の気配を満喫するのだ。


夕食前にはお馴染みの和歌の女神、衣通姫に秋野菜の御供えだ。


(衣通姫絵姿 室町時代 山女魚籠 大正頃 八角燭台 李朝時代)

野菜は鎌倉産の白茄子赤茄子。

使い古した魚籠に蒲の穂、女郎花、吾亦紅、竜胆、雑草の穂などをゴチャっと投入れて、秋の野の豊饒さを出したい。

花と秋野菜の賑やかな彩りで姫神様に喜んでもえるだろう。

過去世で悲しき恋のヒロインだった衣通姫には、我が夢幻界では楽しく暮して頂こう。

ーーー暗き世に明るき歌を望まれし 我が歌神の教へ難しーーー


今回使った古式写真機はこれ。


(ライカD  ヘクトール7.3cm f1.9  ドイツ1931年製)

ライカの歴史を築いた伝説のアーティファクトで、ユニバーサルファインダー他の付属品を集めるのにも苦労した。

ヘクトールの絞り開放で、銅鏡の内面反射による自然な空間色が生まれる。

現代レンズと全く違う、絵画的な色調が隠者好みだ。


©️甲士三郎