鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

25 詩神の楽園

2018-02-23 18:43:50 | 日記
---金箔の光の中に常春の 花喰鳥は永遠に囚はれ---

(花鳥図雛屏風 幕末 探神院蔵)
西洋ではミューズの楽園、東洋には楽土や仙境の伝説がある。
そう言った理想郷の話は世界中に広く知られているが、我々の現実世界は何百年たっても理想には程遠い。
では実現不可能かと言えばそんな事は無い。
我が国では修学院離宮や詩仙堂、西行庵や庶家の茶室など個人の理想郷を築いた例は沢山ある。
個人でも100%までは行かないが、70%の楽園は出来る。
花や鳥などの自然が残る地に、暑さ寒さを凌げる程の草庵と数人の文化芸術を愛する友人。
それだけで良いのだから、誰にでも不可能では無いだろう。
花鳥と戯れ芸術の神々と語らう、そんなファンタジックな生活が実現する。(前出 美神の祭壇 参照)

(探神院の鵯)

---鶯の誘ふ廃墟の庭の奥 香り溶け合ふ紅白の花---
この稿で繰り返し勧めているのは離俗の楽しみ方だ。
自然の四季を楽しみ、種々の文化芸術を楽しむ精神性の高い生活だ。
朝のお茶、好きな音楽、窓の梅に可愛い鳥が来て、ちょっと良い詩句が浮かぶ。
衣通姫に挨拶し画帳とカメラを持って散歩に出れば、小川を散り椿が流れ、参道を巫女さんが掃いている。
これだけでもミューズの楽園や仙境に少しは近いのではないか。
70%の楽園なら誰にでも手の届く所にある。
要は自分自身が楽園の住人に相応わしいかどうかだ。
ミューズも衣通姫も出来の良い詩句歌を捧げれば居住許可をくれるだろう。
皆の健闘を祈る。

(花喰鳥 麻紙 岩絵具 甲士三郎)

©️甲士三郎

24 待春の源氏絵

2018-02-16 15:54:16 | 日記
---源氏絵を掛けつ我が身の物語 紡いでをりぬ春を待つ間---

(源氏物語 梅が枝 土佐派 江戸時代 探神院蔵)
寒紅梅はもう散ってしまったのに、大寒波到来で白梅の開花が10日ほど遅れている。
探梅行の記事を予定していたのを、この絵を思い出して差替えた。
源氏絵は朝廷の御用絵師だった土佐派の専業で、この段にはこの花、この人はこの装束、などの細かい秘伝があって他派の追従を許さなかった。
絵巻物が桃山から江戸初期に流行し、江戸後期は絵草紙になって行く。
私も五十四段全て集めるべきだが、二十数段で止まっている。
源氏絵で一番人気は何と言っても若紫の段だ。

(源氏物語 若紫 部分 土佐光起 江戸初期 探神院蔵)
この絵は飼っていた小鳥が逃げて若紫が嘆いているのを光源氏が見初める場面だ。
これを掛けた書院でぐだぐだしながら、高校の文芸部の短編小説を書き始めた。
鎌倉を舞台に探神院も出て来て、題は偉そうに「歌神伝」だ!
春の絵の取材までの時間で完成させよう。
題は良いが小説への意欲は高くないので暇潰し程度で終わるだろうが、出来上がったらご披露しよう。

(緋寒桜に目白)
若紫にちなんで鳥の撮影に出かけてみた。
野鳥の写真は慣れないと難しいと聞くが、家の周りの花木なら何とかなりそうだ。
超望遠レンズは持っていないので、これで上出来だろう。
腕が上がったら本格的な野鳥用のレンズの購入も考てみよう。
ただ隠者には最新鋭の超望遠レンズを振り回す姿は似合いそうもない。
撮影行には隠者装束はやめておこう。

©️甲士三郎

23 机上の仙界

2018-02-09 09:32:55 | 日記
精神生活の充実のために机の上をなんとかしよう。
以前自分だけの祭壇を作る話をしたが(美神の祭壇)、そこまではどうも…と言う人向けに机の一角だけでも荘厳たらしめる方法を紹介しよう。
取り敢えずは古来の文具 で詩的環境を作ろう。
自分が少し賢くなった気になれる。
文人達が文具四宝と言って珍重して来たのが墨、硯、筆、料紙、水滴、硯屏、筆筒、筆架などである。
今でも短冊色紙を書くのには必須の道具だ。
卓上に一つの小世界が完結するように配置しよう。
まず唐物中心で、龍に乗って女官や子等と仙境に遊ぶ感じ。

(清朝端渓硯 李朝筆洗 唐女官俑 古銅双龍筆置き 古銅唐子文鎮)

仕事関係の書類はデジタルでも、精神活動の道具はアナログに優る物はない。
詩歌や思索のメモは是非とも紙に書くべきだ。
俳句短歌は滲みのある画仙紙が書きやすい。
筆墨が駄目なら万年筆と小さなスケッチブックでも良い。
名文句が浮かんだら料紙に書いておけば、将来子孫が飾ってくれるかもしれない。
落款があればたとえ下手な書でも格好がつく。
メインの飾りは昔の文具四宝なら硯屏だが、現代は花を活けるのが良いと思う。
小さな花入れか徳利や壺など花器はいろいろ凝れる。
主役の花よりカラフルな色絵磁器は避けて、一見地味に見える陶器を選ぼう。
花が好きではない人は立て額に絵や書だろう。
葉書サイズの淡彩画くらいが良い。
写真でも悪くは無いが、印刷でなくオリジナルプリントが欲しい。

(明朝青白磁花器 1型ライカ ヴィンテージ万年筆 他)
我が探神院は洋風の物は苦手で写真には苦労した。
ライカは私が30年以上使っていたので、エナメルがあちこち剥げて真鍮地が出ている。

鎌倉文士達の旧居はたまに公開する所があり、彼等の遺品の文具が見られる。
皆簡素ながらも気の利いた物を使っていて参考になる。
私も生涯の殆どの時間を過ごす机上の宇宙には、己の精神を投影出来る物を置きたい。
良い文具を長年かけて一つ一つ揃えて行くのは楽しい。
詩画のレベルを上げるのは大変だが、道具のレベルなら何とかなる。

©️甲士三郎

22 国誉めの歌

2018-02-04 11:00:37 | 日記
---古の歌仙屏風を結界に かの世この世の間の歌会---

(三十六歌仙屏風 部分 江戸時代 探神院蔵)
宮中の歌会始めは重要な宗教儀式でもともと旧暦の正月にやっていたのを、薩長が維新で無理矢理新暦に変えてしまい、春の喜びもうすくなった。
季節の行事くらい旧暦でやれば、農耕民族としての自然な季節感も残っただろうに。
新年に必須の国誉めの歌を司るべき某公家も弱体化して、宗教的な厳かさも言霊の力も無い。
こうなったら我が探神院で秘めやかに旧暦の国誉めをやろうではないか。

---国国の山また山を巡る春 道道に花人人に笑み---
儀式の歌なので、内容より様式美が重要だ。
表裏なくひたすら言祝ぐ。
言霊を宿す為に大和詞のみで、口語漢語は使わない。
詠唱を二度繰り返すのが古来からのしきたりだ。
旧暦正月に全ての歌人が国誉めの歌を詠めば、きっと良い国になる気がする。
一方で豆撒き追儺は各家庭にまで定着しているので、特別私がやる事はない。

(鎌倉宮の追儺式 ミス鎌倉のお嬢さん方も参加)
以前にも言ったが生活の中にちょっとした儀式があると、人生に厳粛さが加わる。
五節句に句歌を詠むくらいなら誰にでも出来るだろう。
恵方巻を大口開けて食べるのも止めはしないが、いかにも俗っぽい。
新暦の正月は公共の行事になってしまったので追従するしか無いが、旧正月や立春は自分だけの儀式を奉るのに丁度良い。(前出 美神の祭壇 参照)
春の到来を祝うのは気持ちも込め易く、節季の筆頭なのでお勧めだ。

---闇払ふ都の灯り寒の明け---
俳句なら立春前後の季語も豊富で短歌より楽かもしれない。
皆も試してみると春の喜びが数段深まると思う。

©️甲士三郎