鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

7 旅情の詩歌

2018-01-09 12:29:54 | 日記

凍雪松島図 甲士三郎

---雪国の底なす蒼き流れかな---(千曲川にて)
断じて温泉グルメに旅情は無い。
小諸なる古城の寂寥感も、遊子哀しむべき何物も無い。
旅情も哀愁も味わえない旅は詰まる所心貧しい。
私の旅のほとんどは画技詩文の取材なので、一人淋しく各地をふらつく。
極力質素で極力孤独な旅こそが、最も旅情を楽しめる。
西行、芭蕉の旅の辛さを想えば分かるだろう。

我が家は将軍家直参旗本の家系で、今だに戦場訓を教える。
その一つに、食べ物の美味い不味いを言ってはならぬ、がある。
戦場の兵糧に不満では十分な戦働きが出来ないからだ。
美食の現代日本では異端の教えとさえ言える。
---お握りが転がってゆく春の城---
戦場なら当然拾って食べる。
隠者もまた常在戦場だ。

桜の取材旅行はほぼ毎年行く。
---目覚めよと目蓋を透けて春日差す 夢の桜を探す旅の途---
---老いし眼で夢幻の花を探す秘儀---
どちらでもお好きな方で。

旅の宿や車中では詩句の草稿を練ったりスケッチの仕上げをしている。
寝る前には地図を見ながら明日の天気次第でどこへ行くか決める。
例えば法隆寺なら直接法隆寺には行かず、田畑を近景に塔を眺められる場所を周囲で探すのだ。
畦道に春なら菜の花、秋なら芒でもあれば申し分無い。
写真家には太陽や月の光線の角度も大事だろう。
こうして我々は一木一草を求めて山河をさまよい歩く事になる。
絵や詩歌の題材を探してぶらぶらしている時間は本当に楽しい。
月があれば夕食後までぶらつく。
荒寥とした夜景も絵や詩の題材にはとても良いのだ。

---月光が鉄路を磨く旅の果---

©️甲士三郎

6 隠者の装束

2018-01-09 08:45:34 | 日記

日本の隠者と言えば世捨て人の事。
その格好は西行、鴨長明などは狩衣か僧形で、江戸期なら筒袖に野袴だろう。
私だって和服も袴も結構持っているのだが、作法に煩いのが馬鹿らしい。
昔は農作業も普請も和服だから、汚れてよれよれでも良かった。
ましてや武家や公家には正座は無かった。
あれは幕末明治頃からの下々の悪しき因習にすぎない。
武将や征夷大将軍が正座などするか!
明治大正の鎌倉文士達だってよれよれで帯を引き摺っていたらしい。
きちんとお作法の出来ない私の和装は家中に限られる。
従って外での隠者装束は洋風にせざるを得ない。

隠者(ハーミット)のタロットカード
ハーミットはフード付きのローブにカンテラと杖が標準装備だ。

杖はもっと歳をとったら持つ予定。
カンテラはiPadで代用。
フード付きのコートはレザー、コットン、リネンと四季揃えた。
電車に乗る時はちょっと大人しめに、フード無しでハンチング帽だ。
靴はレザーブーツで良いだろう。
いずれもダメージ加工の物。
旅塵にまみれ歴戦を乗り越えて来た風情が肝要である。
ショルダーバッグもアンティークの擦り切れたのを選んだ。
中に小型スケッチセット、愛用のオリンパス ペンF、iPadは常に入れて行く。

こんな感じで、周囲の人達に少しでも自由さや面白さを分けてあげられれば幸いだ。
---飛べる程大きなマント老教師---

ねずみ男風の怪しい隠者

©️甲士三郎