鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

15 東風の巫女

2018-01-18 10:35:42 | 日記
---春を待つ巫女の息の緒白く冷え 梅の蕾は花より紅し---

荏柄天神社の紅梅
「東風吹かば匂ひ起こせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ」菅原道真
東風(こち)は東南から吹く春風。本来の天神道真は雷のたたり神。

上記の私の歌はひと昔の歌壇では禁じ手であった。
意識が古い!平安調の歌など断じて認めない!
現代人の都会の最新の不条理の存在の根源の苦し………を詠め!!
まあ、二十世紀は物質文明的な進歩発展が脅迫概念となっていたんだ。
芭蕉の言う「不易流行」は、変らぬ物と変りゆく物を見分ける事だ。
自然や人の心がたかが千年でどれだけ進化した?
よろしい、では五十年前くらいの調子でやってみよう。
---春を待つ猫一匹と老画家の 小さな家の大きな時計---
次は今風。
---iPhone でみな違う曲聞きながら 一人春待つ音の結界---
平安調とは大時計とiPhoneが違うだけで、待春の心情にそう変りは無い。
どうじゃ、隠者は時を超越するんじゃよ。

「天津風雲の通ひ路吹きとぢよ をとめの姿しばしとどめむ」僧正遍照
この古歌の詞(ことば)の華麗さは日本文芸史上類を見ない。
遍照は深草少将だったと言う説も有力で、小野小町との百夜通いの恋物語も今に残る。
百人一首の僧形の絵では「坊さんが美少女を詠むなよ!」と思いがちだが、絶世の美男子深草少将なら許す。
この歌の乙女は五節の舞人(貴族の美少女)と天女のダブルイメージだが、多くの場合は乙女と言えば巫女をさす。
巫女や斎宮はいわゆる神の花嫁なので、当然恋を禁じられていた。
この事だって十分、不条理の存在の根源の苦し………だろうに。
---鶴ケ岡八幡宮の東風の巫女 階(きざはし)高く息を整へ---
(自解)春風が吹けば鶴は北に帰る。巫女は若々しく石段を駈上り…(以下略)
そうじゃ、歌人は虚実の狭間に住んどるのじゃ。

昔も今も変わらぬ梅の花に、現(うつつ)の巫女と夢の乙女を重ねる。
春風の鎌倉に来たら、皆もそんな感じで楽しんで欲しい。

©️甲士三郎