カイロじじいのまゃみゅむゅめも

カイロプラクティック施療で出くわす患者さんとのやり取りのあれこれ。

世界は分けてもわからない

2010-03-12 16:55:12 | 本日の抜粋

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 一九八〇年代のはじめ、複数の研究者たちがほぼ同時に、とても奇妙なことに気がついた。消化酵素は膵臓の細胞が合成する。(中略)これらの消化酵素はその活動に特別なエネルギーを必要としない。
一方、細胞の中で合成され、細胞の内部にとどまったまま、細胞内のタンパク質を消化するような酵素もたくさん見つかった。その中には、膵臓の消化酵素とは異なり、エネルギーを供給してやらないとタンパク質の分解を行わない、そのような特殊なタンパク質分解の仕組みが存在することが分かったのだ。
 これは細胞の経済学から考えても極めて非効率的なことであるように見えた。(中略)細胞がつくり出すエネルギーは有限であり、絶えず栄養素と酸素を必要とする。だからエネルギー依存的なタンパク質分解にはよほどの理由があるに違いない。  
 実際、そこには特別な理由があった。細胞は自ら進んで自分自身の分解を行っていたのである。細胞の内部には、いくつもの深い井戸がある。プロテアソームと名づけられたその井戸の中に落ちたたんぱく質はバラバラに解体される。ところが、細胞は、たった今つくり出されたばかりのタンパク質であっても、惜しげもなくそこに放りこんでいたのだ。放りこむために、わざわざエネルギーを使っていた。精妙な仕組みによって細胞内のタンパク質は次々と井戸に導かれていた。(中略) 
 この解体は、消化管に分泌された膵臓の消化酵素が食品タンパク質の情報を解体することと、行っていること自体は同じであってもその目的が本質的に違う。この解体は、自らつくり出した自己タンパク質に対して行われている。
 自己タンパク質の内部には、自己の情報が蓄えられている。生命現象という秩序を保つための情報がそこにある。しかし、宇宙の大原則であるエントロピー増大の法則は、情け容赦なくその秩序を、その情報をなきものにしようと触手を伸ばしてくる。タンパク質は、絶えず酸化され、変性され、分解されようとしている。
 細胞は必死になって、その魔の手に先回りしようとしているのだ。先回りして、エントロピー増大の法則が秩序を破壊する前に、エネルギーを駆使してまで自ら率先して自らを破壊する。その上ですぐにタンパク質を再合成し、秩序を再構築する。
 細胞が行っているのは懸命な自転車操業なのだ。

福岡伸一 『世界は分けてもわからない』より 講談社現代新書

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理解が追いつかない所が多々あるにも関わらず、スイスイ読んでしまった。きっと、物語性にすぐれているのだろう。

長年の疑問、人の視線を感じるということの仕組みも判った。
網膜の奥に不完全な鏡のような装置があり、光を反射していたのだ。
人の目の渕に弱い光を識別する装置はあったとは、、、。

後半の、ガン細胞が発生する仕組みについて、世界中の化学者の熾烈な競争の中で、世界中が騙された、幻となった新発見のドラマは、最近徳さんが読んだ幾冊の推理小説より面白かったぞ。

それにしても、生き物の仕組みには驚かされる。

エントロピーの法則の支配下で、エントロピーの法則の一歩前を走り続けなければならない。
そのために、自己を殺す。殺す以上に自己を産む。
その競争に敗れた時が死だ。

そしてエントロピーの法則化にある地球。
人類は分子生物学から学ばなければなりませんぞ!