**************
ある学校帰り、
「盟友ってことば、知ってる?」
と僕は塚原に訊いてみた。
「なんとか同盟、の盟に、親友の友」
「三国同盟の盟?」と塚原が聞きなおす。
「三国同盟って?」
「あれ、知らないの?日独伊の三国同盟さ。第二次大戦のときの」
ああそうか、と僕はうなずいた。「そう、その同盟」
塚原と話をすると、ときどき横道にそれそうになる。
「聞いたことある?」
「盟友ね……。ないけど、あるような気もする」
と、はっきりしない。
「それがどうしたのか」と訊くから、
「ただちょっと、そうおもっただけ」
僕も曖昧にいっておく。塚原は首をひねって、
「なんか、幕末の海援隊だとか、高台寺党だとかをおもいだすようなことばだね」
と笑う。
「高台寺党?」またはじまった。
「新撰組から分離した一派」
と、塚原はにこにこしてこたえる。
「おれ、日本史のテストに絶対出ないようなものに強いんだ」
僕の頭の中でそのとき、不穏な雲がむくむくと「盟友」という文字にかかってくるのが映った。そのことばには不穏な雰囲気がある。するとつまり、盟友とは不穏な人間の熱い友情関係なのだ。
そうやってひとりで、ことばの確認をしていると、横で塚原はしつこいから、
「ねぇ、それがどうしたの?どうしたっていうわけ?」
と、さかんに聞いてくる。
いうものか、と僕はおもった。
村田喜代子 『盟友』より 文春文庫
**************
こういうのが好きだ。
男同士の友情の話なんだけど臭くない。
互いの資質を認めながら、その事を意地でも相手に伝えようとはしない。
そこら辺のくすぐったいような快感!
話のほとんどは便所掃除についてだ。
確かに昔の便所はきたなかった。
映画館のそれも、公衆便所のそれも、、、。
学校の便所の汚さは中クラスといったとこか、、、。
主人公はたぶん高校2年生。
喫煙をとがめられ罰として生徒指導の先生から学校中の便所(男子に限り)掃除を言い渡される。
一年下の塚本も、スカートめくりで同様の罰を受ける。
やがて二人は女子の便所掃除を希望してするようにまでなる。
もちろん、礼節をわきまえて。
そこは女性作家、いやらしさの一片もない。
この小説は25年以上前のものだ。
旧き良き時代の話だ、という見方も出来る。
でも、今の若者の心の飢えに対応しきるのかどうかはわからないが、人間の心の根っこは単純細胞でしか動かすことが出来ないんじゃないかと、、、、。
カイロジジイのHPは
http://www6.ocn.ne.jp/~tokuch/
そして、なんでもブログのランキングというものがあるそうで、以下をクリックするとブログの作者は喜ぶらしい。
にほんブログ村
にほんブログ村