カイロじじいのまゃみゅむゅめも

カイロプラクティック施療で出くわす患者さんとのやり取りのあれこれ。

ぽっかりの時間と空間

2014-02-28 18:19:26 | 本日のしりきれとんぼ
おふくろ殿が大変な状況なのに、徳さんには間延びした、のほほんとした時間や空間がやって来る。

徳さんも立派な年寄り。
早朝、4時や5時に目覚める事が常態となっている。
でも、元気なじいさんじゃないのでガバッと起きるような無粋なまねはしない。
ラジオを聴いたりしながらまどろむ。
猫のセロがやって来て添い寝することもある。
(枕元にやって来て、ニャーと小声で言ってから、徳さんの頬を軽く前足でつついて添い寝を催促するのだ)
セロの腹を撫でて、ゴロゴロという声を聞きながら、うつらうつら。
その時、おふくろ殿は徳さんの頭の中にはいない、、、。

まだ、起きたくない。
そんな時は、読みかけの本を読む。
結構、その世界にはまる。

人間のバランスのとり方って、ちょっと、不気味、、、。


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異常なしと言われたイーたん、異常あり

2014-02-26 20:41:50 | 本日の患者さん
9年振りにイーたんがカイロ施療にやって来た。
途中、何度か電話でのやり取りはあったのだが、、、。

去年の5月、電動車椅子運転中、自動車に追突されたんだそうだ。
以来、両下肢の痺れと痛み、臀部の感覚麻痺に悩まされている。
特に下肢の痺れと痛みは、脳性マヒ特有のアテトーゼ(不随意の筋緊張)に連動してるようで、不安感にさいなまれている。
臀部の感覚麻痺というのは、トイレで便座にかけた時浮き輪に乗り上げたような感覚だと。

救急車で運ばれたイーたんは、病院で徹底した検査をされた。
MRIをはじめ、通常はされない神経への通電検査までしたそうだ。
その結果は、異常なし。

検査で異常なしと判断されると、治療は急におざなりになる。
その後、イーたんが受けた施療は、ただの温熱療法のみ。

久しぶりにイーたんに会う。
今までと違って、突然の筋緊張予防のためにベルトで胸や腰や足を拘束される形で車椅子に乗っている。

その車椅子に座っているイーたんの姿を見て、ああ、こりゃいかん、腰椎後湾の典型例だ。
大腿神経、坐骨神経にもろ影響を与えるパターンだ。
なんとか改善出来る道筋が見える。

でも、、、。
と、徳さんは思ってしまう。
何でこんな簡単な体の不具合を、お医者さんは無視してしまうのだろうかと、、、。
高度な検査をする前に、原始的な生き物としての成り立ちへの判断を、、、。

医療費だって、安くなるぞ。


追記。
今日使った画像はイーたんの印象には関係関係なし。
現在、徳さんが読んでる本が怨霊やら幽霊やら物の怪がやたら登場するものだったので、ついつい引きずられたようで、、、。




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老人医療・ケアの難しさ

2014-02-25 20:35:41 | 本日のしりきれとんぼ
仕事の合間を縫って、入院中の母上を見舞った。
入院先がわりと近くなので助かる。
午前中は元気でご機嫌だったようで、それではと、看護婦さんに車椅子に乗せてもらったりしたらしい。
そのせいか、徳さんが訪れた時は、疲れのためか、ひたすら眠りばばー。
声をかけても、条件反射的にウンウンと頷くだけ、、、。
しょうがないので、ベッドサイドで本を読んでしばらくを過ごした。

一ヶ月近くになるお袋の入院生活だが、現場の努力と限界を目の当たりにする日々ではある。

入院に至った直接の原因は腎盂炎。
現在、これは完全に治っている。
しかし、入院生活そのものによる、身体能力の低下によって、日常に帰れない。
目にする看護婦さんたちは、フル回転で頑張っている。
しかし、家族が気にする些細な事にまでは手が及ばない。

病院側は余りにも末期老人に慣れている。
患者、そしてその家族は、そのマニュアルに従って物事が進んでいくことに、どこか納得がいかない。
そんな、互いの齟齬が、目に見えぬ形で火花を散らす。

ああ、どこか、何もかも包み込んで受け入れてくれるところはないものだろうか、、、。


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弁当の包み紙と振り込め詐欺と関川夏央

2014-02-24 17:49:49 | 本日のしりきれとんぼ


片隅といえども新宿、近くの飲食店が出前をして呉れないようになって久しい。
人件費の高騰だとかで、最後まで「うちは頑張ります!」と叫んでいた中華そば屋のおっさんの顔を最後に見たのは10年以上前、、、。

という次第で、弁当を持参するようになった。
今日は、その包み紙の話。
定番の新聞紙である。
普段は、家人が自分の読む分を確保するため、意味のない番組欄が使用される。
今日はどうしたわけか、囲碁の欄と耕論「降り込め詐欺 狙う死角」という特集が載っているのに包まれていた。
東京新聞である。(原発事故後、それは一層強まったが、徳さんは東京新聞ファンなのだ)

そこで出会ったのが、関川夏央氏の発言。

関川さんは過去に降り込め詐欺にだまされかかった事があるそうだ。
友人の危機を知らされ、とっさに彼が思ったのは、友人の危機を救えると、むしろ勇躍したそうである。
その時の心情を支えていたのは、「友情」という関係を維持しようという強い意志だった。

じゃあ、老人達はどんな心理で振り込め詐欺にかかってしまうのだろうか?

 *****
 騙される親は60歳以上が大半です。騙す側は30~40歳代くらいの「経済的危機に見舞われた息子」を演じる。彼らが少年であった1970年代ごろ、子育て用語として「個性」「自立」が流行した半面、ゴールは良い会社に帰属することとされ、そこには矛盾がありました。
 子育ての失敗を、親たちが苦く認識するのはそのためです。その息子が助けを求めてきた。これを機に「家族を再建できるかもしれない」という希望が、親をATMへ向かわせるのではないでしょうか。
 *****

う~ん。
唸ってしまった。

なるほど、これなら頷ける。
息子と名乗る人物の声が多少違っていても、やすやすと本人と思い込む。
法外な額にも応じる。
繰り返しの要求に応じる行動も判る。
なにしろ、息子の子育てに対して、本人でもはっきりしない挫折感が無意識を支配していたのだ。

今まで、騙される老人達をいくらか馬鹿にしてた徳さん、一挙に反省モードに入りました。

今日の弁当には隠し味が盛り込められて、いつも以上に旨かった、、、。


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大分、落ち着いてきた、んーさん

2014-02-22 18:29:09 | 本日の患者さん
三ヶ月前には、一日に平均十数回、最高記録は50数回、かかって来た、んーさんからの電話が、最近はめっきり少なくなった。

介護に四苦八苦していた夫の死、んーさん自身の転倒骨折、白内障手術、デーケア利用の開始など、続けざまに様々な事態に見舞われ、すっかりパニック状態に陥ってたのだ。

ここ最近は、大分落ち着き、話の内容も徳さんにも理解できるものになってきている。
あれほど敵視していた担当のケアマネージャーの存在も、それなりに納得して来たようで一安心。

そんな中で、気になるのは以前からあった、んーさんの電話、携帯操作の混乱だ。
携帯にコール音が入る。
んーさんからだと表示されてる。
でも、いくら待ってもんーさんからの声は聞えない。
変な雑音が聞えるばかりだ。
いったい、どんな操作をすればそうなるのか、機械音痴の徳さんには想像できないが、背後にんーさんの苛立ちが分かるだけにやるせない。

最先端機器の欠陥は、その最先端意識だ。
やたら機能の多様さを誇ればいいってもんじゃない。
専門家でない限り、使いやすさがが最重要課題なはずだ。

ウインドウズ8、評判悪いぞ。
机上でいじくるだけの官僚みたいな事を仕出かしてちゃいかんぜよ。


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浅野いにお 『ソラニン』

2014-02-21 14:31:50 | 本日の漫画
「ソラニン」
どこかで聞いたような気がする。
そう、ジャガイモの芽に含まれる毒の名前。
昔は青酸が含まれていると言われていたが、、、。

ありふれたジャガイモに毒がある。
ありふれた若者にも、自分で生産してしまう毒がある。

そんな毒に翻弄されながら、けなげに生きてゆこうとする。
社会は信用できない。
でも、信頼出来る仲間がいれば、バカをやりながらも生きてゆける。




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渡辺一史 『こんな夜更けにバナナかよ -筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』

2014-02-19 20:40:58 | 本日の抜粋

     *************

 あるとき鹿野が、「太郎、久しぶりにタバコ吸いたい。タバコ買ってきて」と言い出した。
 鹿野は若い頃、タバコを吸っていたそうだが、気管切開をして人口呼吸器をつけて以来、さすがにタバコはやめていた。しかし、山内には、呼吸器をつけている鹿野がタバコを吸うのは明らかに〝害〟であると思えた。極端な話、「自殺」に手を貸すようなものだと。
「やめた方がいいんじゃないの」山内がいうと、
「いいから」と鹿野はいう。
「オレは、なんかそういうのはイヤなんだけど」
 内心、「言っちゃっていいのかな」とためらいながらも、山内としては「」それが大きな賭けでもあったという。鹿野に「やだ」とはっきりいった。
「ただでさえ、オレにはストレスが多いんだ。太郎、吸わせろ」
「やだ」
「太郎!」
「やだ」
「てめえ、コノヤロー、吸わせろ」
 何だかんだカンシャクを起こしたあとで、鹿野は「もうわかった。太郎には負けたよー」といった。
 この時の体験が、その後もボランティアを続けていく上で、ひどく重要だったと山内はいう。
「シカノさんが『吸いたい』っていうから、吸わせてやればいい。それが『介助』だって言えばそれまでなんですけど、そのまま黙って従っていたら、多分ストレスがたまってボランティアやめちゃってただろうなと、今になって思うんですよ。それに、シカノさんにとっても、ボランティアが単なるイエスマンだと、おもしろくないんじゃないかなと思って」
 
 渡辺一史 『こんな夜更けにバナナかよ』より 文春文庫

   *************

障害者・福祉関係の本で久々にいい本に出合えた。
と言っても、この本はそんな範疇には収まらないのだが、、、。

成熟した?とされる高度資本主義の元で荒廃した精神ををどうしようか、思いあぐねている若者達が、「俺は普通に生きたいんだ!」と叫ぶ重度身体障害者の鹿野とバトルを繰り広げる。

一方は生きる事の不全感を感じつつも何をしたらいいのか分からない。
もう一方は、単純にいのちを生きる事に懸命。
双方、一生懸命で必死と必死のぶつかり合い。

解答はないけれど、その双方の葛藤に羨望を感じるのは徳さんだけではないだろう。

『ベッドに横たわる鹿野は、死線を何度乗り越えようと、まな板に大きな生肉がドタッと載っかっているような、生々しい「自我のかたまり」である。』

さあ、俺たち、どうする?



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小さい、小さい、本当に小さい話なんだけど

2014-02-18 20:25:16 | 本日のしりきれとんぼ
この汚い寸足らずの指は徳さんの左の中指。
本来なら、同じ指の写真を2枚並列する予定だった。
使用前、使用後みたいにして。

だけど、あれこれ苦労して携帯で写真として撮っても、その二枚の違いが画像として写らない。
しょうがないから、一枚の写真で話を進めていく。
(プロの写真家が一枚の写真をものにするのにどれだけ苦労しているかを、一度だけ撮影現場に同席した時知った)

徳さんのこの指に、小さなガングリオンが出来つつある。

ガングリオンとは中年以降の人に時々出現する原因不明の膠様物質の沈着だ。
多くの場合、手の指の関節に出現する。
白っぽい小さな塊の出現は最初痛くもかゆくもない。
やがて痛みを伴った炎症時を経過して、指の変形へと至る。
ガングリオンで変形した指の持ち主は意外と多い。

原因不明であるから対処法がない。

でも、ほんの初期なら、爪で押しつぶすなどしてガングリオンに至らなくも出来る。
追っかけこみたいな面もあるが、指の変形を免れる可能性があるのだから、こまめに爪を立てる価値はある。

自分の身体の小さな小さな異変に気づくこと、その異変に対して早めの小さな努力をすること。

アル中の徳さんが何をしゃべっても説得力はないんだろうけど、、、、。


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こんなに力を抜いていいのかな?いいとも!

2014-02-17 20:03:06 | 本日のしりきれとんぼ
荻原規子の『RDGレッドデータガール2』を読んでいる。
もうすぐ読了する。
少年少女向けファンタジー小説で、ともかく読みやすい。
話の展開も奇想天外で面白いし、少年少女への励ましにもなっている。
駄目な自分、人とはどこか違った自分、容易には人から受け入れられ難い自分。
皆が抱えている問題だ。
でも、気楽に読める。
ファンタジー能力だ。

今年に入ってから、徳さんちは歯車が狂いっぱなしだ。
車椅子からの転落(これは徳さんが犯人)、風呂上りの低血圧で意識喪失、腎盂炎になり摂食拒否状態でどんどん体力を失う。
なんて連続技を繰り出し、我が母上はただ今某病院に入院中。

せっせと見舞いに励もうとしてたら、家人と徳さんがインフルエンザ感染。
一週間の病院立ち入り禁止。
その間に二度の大雪。

こんな閉塞状況の中で、読みかけの本といえば硬く窮屈なものに偏っていた。
で、ここは休息。




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白井聡 『永続敗戦論』

2014-02-16 18:12:08 | 本日の抜粋
    
     ************

 *****
 それでは、、TPPの本質とは何であるのか。推進勢力が掲げている「TPPは自由貿易を推進するものであり、それは経済のブロック化が第二次世界大戦を惹き起こしたことの反省に立つものである」という過去の歴史の想起・参照に基づくスローガンは、無知に基づくか、あるいは不誠実なレトリックの類である。なぜなら、今日日本を含む多くの諸国で、ほとんどの製品の関税はゼロであるかゼロに近いのであり、古典的な意味での自由貿易はすでに実現されているからだ。
 したがって、TTPが標的とするのは、関税ではなく「非関税障壁」と呼ばれるものにほかならない。つまり、それは、各国独自の商習慣であったり、独自の安全基準、独自の税制規則、独自の製品規格といった事柄である。「非関税障壁」をひとつの概念としてとらえた場合、それは「よそ者」にとって市場参入のハードルとなるあらゆる制度・慣行を含みうる。TPP推進勢力が「障壁」(邪悪なもの)と呼ぶさまざまな「ローカルルール」は、各国の伝統的習慣や価値観、国土の地理的条件、国民生活の安全への配慮といった合理的な動機によって定められている。それらの動機のうち、市場の閉鎖性を維持することによって生ずる独占利潤を確保したいという経済学的にみて不合理な動機が含まれている場合もあることは、確かではある。だが、多くの場合、合理的な動機と市場独占への欲求をきれいに切り分けることなどできなしない。多くの「障壁」は、両方の動機によって支えられ、かつ両方の機能を果たしているのであって、したがって経済学的に不合理なものを排除することは、合理的な「障壁」をも破壊することになる。それにもかかわらず、あらゆる「障壁」を全面的に不合理なものとして一面的に断罪することによって、それらを根こそぎ取り払い、一元的な「グローバル・ルール」を設定し、それを強制しようという企みがいま進行しているわけである。

 *****
現代の「安全保障サークル」の若手住人も永続敗戦の構造に目を向けようとはしない。「米国の言いなり」どころか「米国の言いそうなことの言いなり」になることによって、日米以外の諸国との関係において何を失うことになるのか(一体そのような国を世界の誰が尊敬するというのだろうか)、彼らは考えようともしないのである。

 白井聡 『永続敗戦論』より 太田出版

     ************

久しぶりに読むべき教科書に出くわした気分である。
最近の徳さんはめったに本屋さんで本を買わない。
古本屋に本を持って行って、信じられない安値を付けられた出した頃から、馬鹿馬鹿しくなって、もっぱら図書館から借りるようになった。
その中で、これはといった本だけを買うのだ。

この本は是非ともそうしなくてはならない。
悩ましい領土問題、北朝鮮による拉致問題など、様々な問題への解が潜んでいるのだ。
繰り返し、立ち返ろうと思っている。


本日のおまけ

徳さんの本日のおまけは大体においてすばらしい。
自分でブログを書くのがやになるほどに、、、、。


白井聡『永続敗戦論』書評~池澤夏樹

「戦後」の実態を明確に解析

何かおかしい、ということがいくつも重なる。一言で言えば筋の通らないことが多すぎる。

なぜ福島県をボロボロにした東電がああまで居丈高なのか?なぜオスプレイは勝手放題に飛んでいるのか?なぜ自民党が選挙で圧勝するのか?

どれにも明快な答えが見つからない。それはたぶん我々が時代から充分に距離を取っていないからだ。ぼくなど「戦後」を六十数年も生きてきたから、すべての問題は間近すぎて客観視できない。紋切り型の対応しかしていないと自分でも焦っているのだが。

もっとカメラを引いて視野を広くし、見逃していたものを取り込まなければならない。例えば白井聡の『永続敗戦論――戦後日本の核心』を読むとかして。

戦後という時代の実態が何だったか、これほど明確に解析した本はなかった。読んでいて慄然とするほど。

我々は「敗戦」という事実をスルーしてきた。「終戦」と言い換えて見ないようにしてきた。そこまではぼくも考えていた。しかし、日本が民主主義国でいられたのは朝鮮半島の共産化が38度線で食い止められたからだとは気づかなかった。

日本は戦後すぐに民主化されて選挙で成立した政権がことを仕切ってきた。しかし韓国と台湾ではずっと軍事独裁政権が続いた。理由は簡単で、ソ連との対決の前線である両国にアメリカは民主主義を許さなかったから。戦争をするには民主主義は邪魔になる。

国家とは巨大な利益追求組織であり、そこに倫理を求めるのは筋違いだ。それなのに日本はこの数十年間、敢えてアメリカは善であるという妄想の上に立って国を運営してきた。

この状態を白井は「永続敗戦」と呼ぶ。

それが今、破綻しかけている。アメリカにはひたすら追従、近隣三国には強硬姿勢という構図が崩れようとしている。頼むアメリカにはもう頼れない。頼んだのが間違いだった。

具体的には、「米国に対しては敗戦によって成立した従属構造を際限なく認めることによりそれを永続化させる一方で、その代償行為として中国をはじめとするアジアに対しては敗北の事実を絶対に認めようとしない。このような『敗北の否認』を持続させるためには、ますます米国に臣従しなければならない。隷従が否認を支え、否認が隷従の代償となる」

ここまでならば白井が言うのは若い論客の卓見に過ぎないかもしれない。しかし彼はこの「永続敗戦」の仮説を昨今の三つの領土問題に応用してみせる。外交文書を精緻に読んで関係各国の言い分を客観的に精査すれば、日本がそうそう強気なことを言えないのが明らかになる。

うちには強いお兄ちゃんがいるんだぞ、と言って振り向くとそこにお兄ちゃんはいない。アメリカは尖閣諸島に属する久場島と大正島を射爆場として実効支配しているのに、尖閣諸島の帰属問題については「中立の立場」と言っている。

それでは筋が通らないというのはこちらの勝手な思いであって、利を考えればアメリカの選択は当然。些細なきっかけから尖閣で軍事衝突が起きたとしてもアメリカ軍は出動してくれない。オスプレイは来ない。日米安保は基本的に不平等なのであり、それは日本が敗戦国だったから、今もなお敗戦国であるからだ。

多くの謎があきらかになる。日米地位協定の改革一つアメリカに申し出ることもできないのに「主権回復の日」を祝う理由、この国の指導者が誰も失敗の責任を取らない理由、右翼が親米である理由……。

なぜこの欺瞞の体系がかくも長きに亘って存続してきたか?経済の繁栄があったからだ。「平和と繁栄」はセットだった。二つはただ並置されているのではなく本質において結びついている。そして今、繁栄が失われようとしている。となると平和も危ない。

白井は現実を見ないままスローガンを繰り返す平和主義者に対しても厳しい。「唯一の被爆国である日本は……」という言葉のあとになぜ自動的に「いかなるかたちでも絶対に核兵器に関わらない」が続くのか。もう一つの選択肢、「二度と再び他国から核攻撃されないよう進んで核武装する」という方を熟考して捨てた上での前者でなければ意味がないのだ。しかし後者はアメリカが許すはずがない……で済ませてしまうのが「永続敗戦」思考なのだろう。

昭和二十年、天皇をはじめとする日本の指導者は革命を嫌って敗戦を選んだ。それが今も続いている。

この現実を認めない無責任は国家という概念を軽くする。原発の事故で犠牲を覚悟の措置が必要になった時、国民がテロリストに人質として拘束されて国家が脅迫された時、前線に立つ者の生命に対抗するだけの重さを日本という国家は持っていない。寺山修司が「……身捨つるほどの祖国はありや」と言ったのはこのことだ。

この本を土台にこれから多くの議論が構築されるだろう。


(『週刊文春』2013年7月18日号)


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