◆ 小瀬スポーツ公園・武道館で古武道を探る ◆
市民レポーターの浅野です。
前月に引き続き、「杖道」を紹介します。
前月は、杖道の稽古風景に触れて、どんな印象を持ったかをレポートしました。
今月は・・・
「杖道とはどんな武道か」について
お話を江角先生にお聞きしましたので、報告します。
江角先生は、東京都剣道連盟杖道部会の常任理事で、
神道夢想流杖術を修業しておられます。
古武士のような厳然とした中にも、
話を伺うときは和やかでフレンドリーな雰囲気も併せ持った先生で、
古武道の先生に相応しい印象をうけました。
インタビューは気温36度を記録した真夏の猛暑の日でした。
小瀬武道館は、緑深いスポーツ公園の一角にあって、武道の鍛錬には絶好の環境にあります。
この武道館の2階にある道場で、杖道のお弟子さん達が熱心な稽古に汗を流していました。
この並木道の奥に武道館があります
直線する緑道には強い気が流れると言います。
恵まれた環境ですね
インタビューは、江角先生、甲府杖道会の小林様、稽古中の甲府杖道会の方々です。
江角先生です。
先生の掛け声でお弟子さん達に緊張感が走ります。
◆◇◆◇◆◇◆ インタビュー ◆◇◆◇◆◇◆
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杖道とはどんな武道ですか。
剣道とどのように違うのですか。
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江角先生
杖を使う武道です。
普通に杖道という場合には、全日本剣道連盟が定めた現代武道のことをいいます。
使用する杖は、長さが4尺2寸1分(約128cm)径が8分(約24cm)の樫の木でできています。
日常的な稽古はこの杖と木刀を使い、
防具がないため形稽古が主体で、精神修養を目的としています
剣道にも形稽古はありますが、
一般には防具を着用し実際に打ち合うことが可能なため試合形式も成り立ちます。
しかし、やはり精神修養を目的とすることに変わりはないと思います。
剣道も昔は木刀や刃引による形稽古が主体でしたが、
幕末には現在の様な竹刀と防具による稽古形態が確立し、
実際に打ち合うことが可能となり、普及しました
しかし、杖道は防具も発達しなかったため、
昔ながらの杖と木刀による寸止めの見切りによる形稽古です。
ですから杖道に入門した初心者でも技や技法、精神的な面などで、
古来から伝承されたものに直接触れることになると思います。
その辺が剣道と杖道とは大きく違うことがわかりますね
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後の質問で出てくるのですが、「形稽古」は技の向上、精神面での向上、
といったすべての面での質的向上を形稽古の中に凝縮して行うということで、
正に「修行」といった趣があります。
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杖道は袴姿で稽古をします。
樫の木で出来た杖を使用するのに 防具を着用しません
危険な稽古ですから、集中力が養われるのです。
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杖道の生い立ち、流派の流れを教えて下さい。
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江角先生
夢想権之助という人を知っていますか
吉川英治の「宮本武蔵」にも登場します。
今から400年ほど昔の人です。
この人が武蔵の二刀の技に敗れたため、
その技を破るために編み出したのが杖術の始まりと言われています。
この技を「神道夢想流杖術」と称し、代々福岡の黒田藩に伝わってきました。
昔の武道家は今と違って、剣、長刀、槍等、あらゆる武術を修業しておりましたから、
それらの長所を取り入れ編み出されたのが「神道夢想流杖術」です。
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宮本武蔵が出てくるとは思いませんでしたが、
武蔵が関ヶ原の合戦に参戦したのは19歳であったと言われています。
その後、武蔵は身に付けた兵法を円明流・二天一流と称して一派を成すわけですが、
ほとんど同時代的に夢想権之助が神道夢想流を創始するということになりますね。
この戦国時代から江戸時代にかけて、武術の流派がいろいろ創始されて
各藩が保護育成し、藩の御用武術として秘匿しています。
これらの各流派は明治時代の始まりまで続くことになります。
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杖道が現代武道として再構築された経緯について教えて下さい。
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江角先生
昭和の初めのころ、当時の警視総監が神道夢想流杖術の実用性に関心を持ち、
昭和8年に創設された「特別警備隊」(警視庁機動隊の前身)に
「警杖術」として採用されました
同時期に民間には現代武道の「杖道」として普及されることになります。
警視庁には福岡の白石範次郎先生の命により清水隆次先生が来られて
神道夢想流を教授され、民間への普及にも尽力されました
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明治維新後、古流武術の各流派は衰退しましたが、
明治10年の西南戦争に於ける警視庁抜刀隊の活躍により剣術が見直され、
警視庁には剣術世話係が設けられました(現在の助教制度)。
その後、各流儀から採用された形を「警視流」と称しています。
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現在、杖道が全国に普及している状況について教えて下さい。
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江角先生
杖道は、全日本剣道連盟の杖道部会として組織的な活動をしています。
現在、杖道として稽古をしている形は、
全日本剣道連盟が神道夢想流杖術を基に普及用に制定した
「全日本剣道連盟制定杖道」(制定形)のことで、
杖道を学ぶ者は全員この「制定形」を学びます
この「制定形」がある程度身に着くと、
許された者のみが古武道としての神道夢想流杖術を学ぶことになります
一般の小・中学生にとって、
試合形式ではなく理合から入る「形稽古」は面白味がなく、
なかなかこの世代の入会が難しいのが現状です。
今後の課題でしょう。
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合気道も「形稽古」の武道といわれます。
形稽古は形の習得を通して、
乱取り稽古で収得する技より深いところまで到達するので
技の神髄に触れることが出来るといわれたり、
真剣試合と同じレベルまで質的な向上が可能だといわれます。
しかしその辺が理解できるようになるには、ある年限以上でないと難しいでしょう。
形稽古は修行といわれる所以ですね。
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「形稽古」の一コマ
競技やスポーツとは異なる気迫に満ちています
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杖道の武道としての技術的な特徴はなんですか。
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江角先生
「突けば槍 払えば長刀 持たば太刀
杖はかくにも外れざりけり」
と古歌では表現されます。
杖は、槍、長刀、太刀の要素を兼ね備えた
千変万化する多種多様な技を持っている、ということです。
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杖は前述したように、宮本武蔵の二刀の技を破るために
創始された武術ですから、千変万化する技は当然だと思います。
一般に得物を手にした場合、持つ位置は固定しますが、
杖道では持ち方や手幅は状況により様々であり、
他武道に比し変化に富んでいると思われます
ただ杖道の技術面の特徴は、
実際に稽古に励んでいる人でないと理解は難しいと思います
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相手の剣先が迫ります。
落ち着いて対峙する胆力を養います。
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杖道の武道としての精神面での特徴はなんですか。
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江角先生
精神面では
「疵つけず 人をこらしめ 戒しむる」という、
人を殺めぬ高度な不殺の理念です。
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う~~ん 高度すぎる
古武道の理念として良く言われるのは、
「戦わずして勝つ」とか
「和合の技」「活人剣」などと言われます。
やはり深遠な精神論は、体感するものであって、
考えたり理解したりするものではないのですね。
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甲府杖道会の生い立ちや、現状を教えて下さい。
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江角先生
今から5年前に甲府杖道会は発足しました。
それまでは山梨県内各所から、
杖道を学びたい人達が東京(国立市)の私の指導場に通っていたのですが、
その人たちを中心に、5年前に甲府杖道会を設立することになりました
今の会員は15名ほどで、一番若い会員は中学生です
会員を増やす努力は行っておりますし、
某局のTV放送でも紹介されたのですが、
新規会員の加入にはつながっていません
「形稽古」の難しさが影響しているのかもしれません。
形稽古を通して、技術面と精神面の深奥を体得していくのですから、
とっつき難いのは事実です。
より普及させるという意味では、課題になるかもしれません。
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「形稽古」は古武道の魅力の源泉だと思います。
勝ち負けを決する競技性はありませんが、修行のような要素が多分にあって、
形稽古を通じて人間性を高めるといった効果が期待できそうだ、
となれば、武道未経験者にとっても限りない魅力を感じますね。
確かに、小中学生に「修行」とか「人間性を高める」といっても
共感を得るのは難しいと思います。
新たな稽古プログラムの開発が期待されます。
流派の更なる発展と、正しい伝承をするには、
若い人達の入門が重要になりますね。
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甲府杖道会の活動は甲府市にどのような貢献が可能でしょうか。
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小林様
甲府市あるいは山梨県は、江戸時代が天領であったためとも思われますが、
現存する古武道の少ない地域です。
剣道はじめ各種武道は修行者人口が減少している中、
現代武道としては新興である杖道は、古武道色が強いためか増加傾向にあります
元々山梨県は武田信玄公の流れを汲んだ尚武の土地柄でもありますので、
杖道を通じ武道の普及に貢献できればよいと思います。
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青少年に杖道が普及すれば、青少年の精神形成に大いに貢献すると思います。
今、世の中を騒がせている「いじめ問題」はなくなるでしょう。
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