金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)188

2009-12-13 10:27:52 | Weblog
 ヤマトを目掛けて足が伸びてきた。
豪姫に脇腹を爪先で突っつかれた。
無視をすると今度は白拍子の足が伸びてきた。
踵で顔を押された。
 ゆっくり寝れないのでヤマトは露天風呂から飛び出した。
岩場で身震いして全身の水を切った。
 若菜が、「ヤマト、怒ったの」と笑う。
豪姫と白拍子も笑っていた。
「いや、呆れただけだよ」
「呆れちゃったの」
「少しね」
 女というものは人も猫も変わらないらしい。
親しくなった証にチョッカイを出してくる。
 豪姫が、「ねえヤマト、一緒に上方へ戻るよね」と、当然のような口調。
「オイラは急がないけど、そっちは家臣達が首を長く伸ばして待ってる筈だよ。
早く戻って安心させてやりなよ」
 嬉しそうな顔の豪姫。
「ふっふっふ・・・、猫に心配されるなんてね。それで一緒に戻るわよね」
「嫌だ」
 きっぱり断ると、豪姫が立ち上がって手桶で温泉の湯を汲み、
ヤマト目掛けてパシャッと掛けた。
「人であれば手討ちであるのに」
 顔に湯を浴びたヤマトは、「まったく」と呟いて露天風呂から逃げ出した。
女達の笑い声が後を追ってきた。
 表では豪姫の夫・宇喜多秀家が待っていた。
「ヤマト、中は楽しそうだな」
「遠慮せずに入れば」
 秀家は、「否、怒られる」と首を竦めた。
「姫に用事があるのなら伝えるよ」
「用事と言うほどでも・・・」
 秀家は言葉を濁した。
豪姫に構ってもらえないのが寂しいのだろう。
分かり易い顔をしている。
 往来を近在の者達らしいのが行き来していた。
湯治場の騒ぎは収まり、この宿のみが代官所に収用されただけで、
他は前のように店を開くことが許された。
それで一般客が姿を見せるようになっていた。
 ヤマトは剣呑な空気を感じた。
湯治場のさらに奥の空き地からだ。
秀家を捨て置いて駆けた。
 そこでは新免無二斎と吉岡藤次が真剣で立ち合っていた。
互いに中段に構え、ジッと睨み合っている。
 少し離れた所で、床几に腰掛けた前田慶次郎が成り行きを見守っていた。
仲裁に入る気はないらしい。
一切を見逃すまいと目を凝らしていた。
 近くの木立から鳥が飛び立つ羽音。
それを切っ掛けに藤次が跳んだ。
剣先を相手の喉元に向け、身体ごと突いて出た。
飛燕のごとき速さだ。
並みの者なら、まずは躱せないだろう。
 無二斎は身体を微かに斜めにずらし、剣先を流した。
そして相手の胴を薙ぐように刀を走らせた。
 突きが空を切った藤次だが、立て直しも早かった。
跳びながら手許に刀を戻し、相手の刃を止めた。
金属と金属がぶつかりあう衝撃音。
 二人は攻守所を替えながら幾度も刃を交えた。
上段からの激しい斬り落とし。
下段からの鋭い斬り返し。
攻めては受け、受けては切り返す。
二本の刀が火花を散らし風を巻き起こした。
互いに得意とする攻め手を繰り出すが、それ以上に守りも固い。
 二人は攻め手に事欠いたのか、左右に跳んで離れた。
肩で息をしながら再び身構える。
 慶次郎が立ち上がった。
「そこまで」
 藤次がウフッと息を抜いた。
「敵いまへんな」
 無二斎が、「お主は強い」と刀を仕舞う。
 慶次郎がヤマトに、「どうだった」と尋ねた。
視線は向けられなかったが、来ているのに気付いていたらしい。
 ヤマトはニベも無い。
「酒気を抜いてるみたいだね」
 女達同様に、男達も別棟で深夜まで飲み騒ぎしていた。
ことに藤次の声が夜空に響いていた。
それは、何やら分けのわからない唄らしきものだった。
 酒が残っている割には手数が多く、尋常でない体捌きをみせた。
二人とも優れた剣客であるようだが、褒める気はない。
 慶次郎は皮肉そうな目でヤマトを見た。
「男の心意気が分からんとは、やっぱり猫だな」
「たしかに猫には違いないね。ニャーオ」
 無二斎と藤次は吹き出る汗を袂で拭う。
心地好い汗ではないらしい。傍目にもベト付きが感じ取れる。
緩い風が酒の臭いをヤマトの鼻に届ける。
 ヤマトは顔を歪めながら三人を見回した。
「早く豪姫を連れ戻したがいいよ」
 事情を知らされている藤次が顔を上げた。
「天魔はんが現れまんのか」
「それはまだはっきりしない。気になるのは別の所で一揆が発生した事だね」
 佐助と行動を共にしている狐・ぴょん吉が土地の狐を使い、報らせに寄越した。
ぴょん吉は一揆の発生を告げ、岩槻の騒ぎに関連していると判断。
「二つは偶然ではない」と強調していた。
 慶次郎が片眉を上げた。
「その一揆の話しは初耳だな」
「オイラも話すのは初めてさ。昼過ぎに届いたばかりだからね」
「まあいい、どんな具合の一揆なのだ」
「恐ろしく強くて、広がりが早いそうだよ」
「ほう、獣らしい説明だな。で、こっちには」
「一部が八王子に向かって来るらしいね」
 湯治場から二匹の犬が駆けてきた。
気配から赤狐・哲也と緑狸・ポン太だと知れる。
 二匹は、一揆勢が八王子に接近するかもしれないというので、
昼過ぎから仲間の狐狸達と共に物見に出ていた。
 みんなの前に来ると足を止め、元の姿に戻った。
 哲也が、「えらいこっちゃ」と。
ふざけた物言いは相変わらずだ。
 ポン太が、「八王子から女達がこちらに逃げて来る」と説明。
代官の女房が少数の兵を率い、代官所勤めの者達の子女達を守りながら、
こちらの湯治場に向かって来るのだそうだ。




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